crater松尾芭蕉

午前の青空、視線のゆくさきざき、曇りなき水たまり、鴨声すずめと水の揺れ、かすかに聴こえる世界のBGM、それはいつかの月の笑い声。太陽はまだクレーターのなか。

おめえさんよ、おめえさんにしかできないことはおめえさんを生きることなんだな!そうやって生きねえと死にきれねえじゃねえか!大空向いて真っ白なお皿を投げ飛ばすジジイが言った。わたしはジジイのその顔、ジジイのくせにしわというしわをまったくもたないその顔に、絵の具セットをぶん投げました。色とりどり、夢が散らかりました。

長等山うしろに、さざ波まえに、立ちあがるお婆と座りこむ少年、天地の凹凸見事なパズル、鼻に咲いた冷たい呼吸の根っこ、深く、深く、もっと深く。24年前に「また10年後!また10年後!この場所で会おう!」と笑顔で言い放ち、くるりと深き山へ潜っていった松尾芭蕉、というより愉快な松尾バナナ!と、ただ歩きたい、この青い湖岸をただ歩いてみたいなわたしは。


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