見出し画像

セブン・エイリアンズ

風船につかまって空を飛んでいる少年がいたけれど風船はたった一個で街のみんなが一致して美しい!美しい!と大合唱するにはあまりにもかけ離れた色をしていた。どのぐらいかけ離れていたかというと木星の輪っかとあなたの頭の中のミトコンドリアぐらいに。

僕のほかにそれを見ていた少年たちは次のような反応を示した。

まず、地上の少年が「あれは人?」と目を閉じながら言った。

次に、ベンチの少年が「飛んでいるのか、飛ばされているのか、それはミトコングラタン」と寝転びながら言った。

続いて、シーソーの少年が「ぼくもあんなふうになりたい」とマントルにヒビを入れる勢いで地面を蹴り上げながら言った。

そして、砂場の少年が「ぼくは歩道橋の上から車の流れを眺めてるほうが好き」と泥だんごピカピカ世界選手権ならぶっちぎり一位を獲得するであろう砂の鉄球を手に持ちそれを丁寧に磨きながら言った。


少しの沈黙の後、正義の少年は「青空のほうが美しい。美しい人には汚いものは見えないから」と鷹の声が響く秋の朝の空気のように澄んだ瞳で言った。

風船の少年は「それは汚い人は美しいものを感じられないと同義?」と神さまのあくびみたいな風の向こうから訊ねた。


僕はあくびをしながら雨の隙間を歩いていた。傘に空いた小さな穴から秋の風が吹き少年たちの嗄れた声は大人たちの無目的な煙に濡れていた。街は巨大サーカス団のようにあちこちに漂い小さな焔はいつまでたっても中途半端に揺れていた。僕は水たまりに映った遠い空を見つめた。中点はどこにも見つからなかった。見上げると黒煙の先、知らない星たちが雨夜を照らしていた、とても静かに。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?