八日目の雪だるま

ちょうど左眉毛と右眉毛の間を蚊に刺されたときムヒは見当たらなかった。かゆみのピークが来たとき、寝起きの神様に質問された。「心臓の場所を今の場所から変えるならみんなはどこがいいのだろう?」僕には質問の意味がわからなかった。地球が逆回転しているようであった。

質問の意図については、半年前、僕は適切な場所で秋を待つんだと言って向こうへ行ってしまった仲のいい友だちがまたこっちに帰ってきたときにじっくり考えたいと思う。彼は毎年夏の終わりに近所の公園で定規を空に掲げて宇宙の大きさをはかろうとして、秋の盛りには、海と小川がぶつかる橋の上で僕たちの心臓の適切な場所を説明してくれていた。海も川もその時だけは静かにしていた。まるで小さな先生の授業を熱心に聴いているようであった。こういう思い出が消えるのは、どこの庭にも雪だるまが見つからない冬とかなんだろうか。

僕は寝起きの神様の声がもう一度頭のなかを流れてくれるのを死んだ蝉のように待っていた。蚊に刺された箇所が何度か脈を打った。声は地球の空と金星の空がこすれ合うような音をしていた。だれの心にも残らない中盤の花火の音のようでもあった。それは海坊主の外の世界へのお出かけのように一瞬であった。気づけば、数匹のカラスの鳴き声だけしかきこえなかった。空はいかにも夕立がやって来そうな灰色だった。けれど雨は結局降らず星の見えない単純な夜が地上に膜を張った。息が詰まりそうだった。


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