5分後の気配

「基本的に踏切警報機の音は僕は嫌いなのだけれど」と繰り返される赤い点滅を遠目に見ながら彼は言った。そして草原に眠るライオンみたいに大きなあくびをしたあとこう言った。

「その気配というものは好きだね」

「その気配?」

「そう、その気配」

「なるほど」と僕は言った。

目の前を走り抜けた列車は地球を壊したいという欲求に駆られたエイリアンのように激しい音を吐き出しそしてすぐに姿を消した。思い出せるのは小さく並べられた窓の奥にいたスマートフォンで鼻をほじくる子どもや四角いつり革にぴったり顔をはめようともがく大人たちであった。たぶん大人の方は皆、マスクをしていた。

僕たちは遮断機があがったあとも古代遺跡に埋まった土器のようにじっと同じ場所にいた。使い古された秋の夕立のあとの静けさみたいなものが先ほど通過した列車を追いかけるように線路の上を流れていた。次を待てばすむことなのに、なんとなくそう僕は思った。

「5分後にまた来よう」

彼はまたあくびをして言った。今度は俳句に飽きた松尾芭蕉のように見えた。

「そうだね」と僕は言った。


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