ヒトカゲくん!ヒノアラシくん!

隣には脱走したアマガエルがいた。森の奥に隠された生命のように素敵な黄緑色であった。忘れられない中盤の花火を構成する色のようであった。僕たちは湖のそばにあったベンチの上で夕立のあとの蒼ざめた太陽と燃え尽きた空を眺めていた。

こんなにもたったひとつの色を感じたのは初めてであった。脱走したアマガエルは空にオタマジャクシを描くことが好きであった。かつての姿を蔑むことを知らないアマガエルがどうして脱走したのか僕にはわからなかった。

アマガエルとオタマジャクシ、アマガエルと脱走したアマガエル、僕と「僕」、微妙に混ざり合えない象徴が僕たちからなにかを吸いとっていく。とてもお腹が減った。温かい豚汁とたくさんの餃子が食べたい。もし許されるなら隣のアマガエルとポケモンのヒトカゲくんと、ヒノアラシくん、彼らみんなとわいわい食べたい。

宇宙に流れていく雲はいつのまにか形を無くし太陽は泣き崩れているようであった。ああ、この風景をいつかの夢で味わったな、なんとなく眼の奥で思い出した。夢の海を泳ぐアマガエルは騒がしい音楽も、眩しいビルの輝きも、溢れかえる視線もなにひとつ知らないようであった。けれども、もうそろそろ現実の世界に溶けていく。さて、アマガエルくんを見送りに行こう、そして終わりのない湖を眺めよう!そうだ、終わりのない湖だ、ヒトカゲくん!ヒノアラシくん!


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