風の輪郭というのは夏の光にのびる青葉のようなものでして

日曜日の夕方、彼女はなにも思い出せなかった。時計を確認しまた俯いてしまう彼女の瞳は風の吹かない世界に咲いたたんぽぽのようであった。けれど彼女はフライパンに油を丸く垂らした後、少し笑った。

日曜日の夕方、テレビ越しの太陽に初めて昨日の夜空をみた気がした。星は撃墜され遠い月へと飛散し、幾多のモナリザたちが夢から覚めた。我々は今日、昼ごはんのメニューさえうまく決めることができなかったというのに。

日曜日の夕方、自転車のタイヤがパンクした。一匹の働き蟻をわざと踏んでしまった時の気分に似ていた。銅色のマンホールが古代の壁画に残された天使みたいに不気味な目をして僕を見つめた。僕は無感動な高等動物であった。

日曜日の夕方、雷の光が暗闇に煌めいた。だれかの麦わら帽子が重い雨粒に濡れた。深い空想には深いお辞儀をしなさい、そう教えてくれた先生を思い出した。彼女の微笑には歴史を忘れた宇宙の哀しみのようなものが漂っていた。


日曜日の夜、皆、息の吸い方さえ忘れていた。


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