100ワニ映画は駄作だったのか?100ワニ原作信者による『100日間生きたワニ』感想
7月9日、映画『100日間生きたワニ』が公開され、僕も7月10日に観に行って来ました。
この映画の原作はTwitterで公開されていた4コマ漫画。
ワニが死ぬまでの毎日をリアルタイムで更新するという斬新なスタイルが話題となり人気を博しましたが、いろいろないざこざの末ネット上で大炎上。
この記事ではそこに大きくは触れませんが、それによって『100ワニはどれだけ叩いても良い』という空気が形成されてしまった事は事実でしょう。
そんな大炎上の後、奇異の目や嘲笑の中で産声を上げたのが本作、映画100日間生きたワニです。
さて、僕は100ワニ連載時毎日楽しみに読んでいたのもあり、ネットの100ワニ叩きムーブメントには違和感ばかり感じていました。
問題のあるマーケティングをしたとしても、100ワニという作品が面白かった事実は何も変わりません。
ネットの100ワニ批判意見も動画枚数が少ないだとか、だからといって悪様に言う必要があるのか疑わしいもの(100ワニをDARKER THAN BLACK -黒の契約者-のような異能力バトルアニメだと思ってたのでしょうか?)も多くありました。
なので100ワニという作品を楽しんだいちファンとして、なるべく先入観なく好きな漫画のアニメ化として観た感想を原作の振り返りもかねてネタバレ全開で述べたいと思います。
まず結論から言いますが、
期待外れだったというか僕には合いませんでした
ただ、ネットでワニを悪口大喜利会場にしてる奴らと一緒にされたくね〜〜〜!!という気持ちが強いので、なぜ合わなかったのかを書いていきます。
間で語る映像作りと丁寧な日常描写(のために削られた原作の面白み)
これは原作100ワニ第一話。
残り寿命100日のワニがそうとは知らず、テレビを観てバカ笑いして無為に1日を過ごして残りの寿命が99日になる4コマです。
この後、2日目にはあと98日後に死ぬワニがそうとは知らず一年予約待ちの布団を通販で予約し、3日目には車に轢かれそうになっているヒヨコを97日後に死ぬワニがそうとは知らず助け「気を付けないと死んじゃうよ!」と注意します
めっちゃ面白くないですか?
そう、原作は当初、シュールギャグ漫画として始まりました。
100日後に死ぬ奴が、そうとはつゆ知らずに生きているのが面白いという、下世話なブラックジョーク的趣のある作品でした。
しかし映画ではこういった原作の毒のある要素を徹底的に排除、「気を付けないと死んじゃうよ!」のシーンは出て来ますが改変されてニュアンスの全く違うシーンになっています。
更に、映画ではセリフのない『間』を使った演出や『背中で語る』ようなシーンが多くあります。
それにより邦画的な美しい雰囲気の映像作りに成功していますが、原作の印象的なシーンがどんどん削られているのも事実。
後述しますが、毒のあるシーンを削るのはわかるけどなんでそこ削った!?みたいなシーンもいくつかあります。
さて、原作ではその後ネズミやワニのバイト先のセンパイワニ等のレギュラーキャラも登場。
バイク事故を起こした親友のネズミを励ますワニや、バイト先の憧れのお姉さんであるセンパイをクリスマスデートに誘おうとして失敗するワニ等、人間関係や日常生活の機微が描かれていきます。
読者である僕たちは、ワニをもうすぐ死ぬことすら知らない哀れなピエロではなくこの作品の主人公として認識し始め感情移入していきます。
めっちゃ漫画が上手くないですか!?
だって普通ギャグマンガ日和で突然聖徳太子の青春ドラマとか始まったら萎えるじゃないですか
僕前からギャグ漫画のシリアスパートが苦手なんですけど
(世紀末リーダー伝たけし!とか銀魂みたいにバトル漫画パートが入るやつはいいけど、アゴなしゲンと俺物語の1話完結の泣きエピソードみたいな奴、リアクションに困る)
このワニの青春ドラマパートへの移行はスッと入っていけたんですよね。
このきくちゆうき先生の漫画力の高さは、後述しますが後々に本領を発揮するのですが映画では悉くカットされています(なんで?)
そして原作の34日目、ワニはセンパイが「困ってるの、いつも誘ってくるのあの子」と話しているのを聞いてしまいます。
自分の事を言われているのだと思い、今にも泣き出してしまいそうな顔でその場に立ち尽くすワニ。
翌日の35日目、ワニはけたたましく画面の向こうの喧騒を伝えるテレビを無表情で見つめ、ピクリとも表情を変えずそのまま布団をかぶって寝てしまいます。(1日目のテレビを見てバカ笑いしていたシーンと対比にしている、漫画が上手い)
しかし36日目、なんとセンパイが子供をあやしているワニを見てときめいてしまうシーンが。
その後、ワニは親友のモグラに言われた何気ない言葉が胸に刺さったり、駅員の態度にいちいちイラつくなど、精神的に不安定になっていきます。
自分が死ぬ事を知らないワニを笑っていた僕たちは、いつのまにかセンパイが自分に好意を向けている事を知らずにやさぐれていくワニを心配して見ているのです。
映画ではここの下りが大きく改変。
ワニの荒れていく下りは全カット、逆に原作ではあまり詳しく描かれなかったワニとセンパイが惹かれあっていき付き合うまでの機微をとても丁寧に描いています。
この点に関しては原作のあのシーンやって欲しかった!という気持ちもありつつ、とても良いアニオリ描写だったと思います。
女の子とのデートすらおぼつかない草食系男子のワニと、そんなワニの純朴な人柄に惹かれていくセンパイ。
ゆったりとした青春ドラマを描こうとする本作の大きな見どころの一つです。
センパイへの誤解も解けめでたく交際、更に親友のモグラはフリーターから営業マンとして就職しバイト仲間だったイヌと結婚。
それぞれが幸せな人生を歩むなか、『物語の終わり』へと確実に時は進んでいきます。
原作92日目、なんとモグラがワニが予約していた一年予約待ちの布団、雲ぶをワニにプレゼントします。
100日後に死ぬから絶対受け取れないのに、そうとは知らずに予約していた布団をワニは手にする。
ギャグだとおもっていた序盤の描写が、あまりにも自然に『死亡フラグ』として帰ってくるきくち先生の巧みな筆力が光る演出です。
僕はこのあたりから、「あっ、ワニ本当に死ぬんだ……」と実感し始めました。
94日目、テレビでは桜の開花を告げる声。
この94日間でより関係を深めた仲間たちへ、花見の誘いをLINEの会議通話で送るワニ。
軽口を叩きながらも乗ってくるモグラが女性陣も呼ぶ事を提案し、春の陽気にぴったりの穏やかで平和な時間が流れます。
そしてコマの枠に無慈悲に刻まれている「死まであと6日」の文字。
95日目、ワニ、ネズミ、モグラのいつメンはいつも通っていたラーメン屋にいつものように訪れます。
しかし、いままで当たり前にそこにあったお店は閉店。
残念がるような、呆然としたような表情のワニとネズミにモグラは「別の店行きゃいいべ」と軽い調子で次の店へと促します。
ここで読者は悟るのです、当たり前にあると思っていたものが突然失われてしまう事を、命に次なんてない事を。
そして映画なのですが、今挙げた原作の印象的なエピソードがどれもカットされています。
全てをアニメにする事は不可能な事は分かりますし、おそらくこの作品の主題は後述する後日談だったためにこのあたりは尺の都合でカットされたのだと推測はできますが……。
しかし、原作の大きな見どころだった場面、100ワニの作品の面白さの大きな部分を担っていたシーンをカットするのはやはり残念。
でもラーメン屋が閉店している話でモグラがワニの事を「みどり」と肌の色で呼んでいるのがヘイトスピーチだと判断されコンプラ的判断でカットされた可能性もあるしな……。
そもそもが原作は100日後に死ぬという1日目からのスタートだったのに対して、映画ではワニの最期となる花見のシーンから映画が始まり、追憶のような形で100日間の日常が描かれていく構成となっています。
「この映画では原作と同じ事はやりたくないぜ、新しいものを作るぜ!」
という製作陣の意気込みが伝わってきて、それ自体は良いと思うのですがどうしてもそのために無くなったり変わったりしてしまったポイントが僕の『原作の好きな部分』であり、どうにも自分には合いませんでした。
この後、みんなで楽しみにしていた花見に行く途中でワニはまたしても轢かれそうになっているヒヨコを助け、不幸にも轢死してしまいます。
原作では桜が舞い散る美しい景色の中、死の直前まで打っていたであろうワニのスマホのLINE画面と横たわるワニという対比の絵。
ずっと4コマだった漫画が最後に、大ゴマで美しくも儚げでどこか寂しさを帯びた満開の桜を写す演出で幕を下ろします。
映画ではここの映像もとても美しく再現。
原作のどこか淡々とした雰囲気とまた違い、アニメーションならではの情緒溢れるゆったりとした雰囲気で描かれています。
1番の賛否両論ポイント、アニメオリジナルの後日談とクセの強すぎる新キャラ
やりたい意図はわかるけど、自分には合わない。
僕のこの映画の感想はこれにつきます。
最近は「not for me」と言うらしいです。
そしてその最たるものが、アニオリパートとなるワニの死後の後日談。
そして新キャラのカエルくんです。
ネットの感想でもここが受け入れられなかったという人が多かった印象があります。
逆に言うと、後日談パートやカエルに言及している100ワニ感想はちゃんと観ている人の感想です。
ここに触れてないネガキャンは8割エアプだと思うので、この中でプペルを観ずに叩いたことのないオタクだけが石を投げなさい。
ワニの死後、どこか疎遠になってしまったメンバー達。
モグラとイヌの夫婦も、なにやらうまくいっていない様子です。
そんな中、イヌのバイトするリサイクルショップにやってきたカエル。
こちらに越してきたためバイトを探しているのだと言うが、リサイクルショップのバイト募集は打ち切っていたため、イヌはセンパイワニのバイトするカフェを紹介します。
まずこの新キャラのカエル、ウザすぎる
山田裕貴が声をあてているのですが、『ウザいチャラ男』の演技が完璧すぎて演技の上手さに舌を巻くより先に不快という感情が勝ります。
HIGH&LOWに出てた時より演技の治安が悪い。
「どもwwwどもどもどもwwww」というウザすぎる挨拶から始まり、バグった他人との距離感で初対面に近い人間のプライベートにズカズカ入り込む。
結局カフェでバイトするのですが、バイト仲間のヘビにナンパな態度で言い寄りまくり、バイト辞めるまで追い込みます。
あと見た目もなんかキモい
100ワニのキャラは可愛らしくデフォルメされていますが、このカエルは顔がなんかやけにリアルでキモい。
この不快さは意図的なものだというのは容易に推測できますし、遊戯王GXのクロノス先生みたいにあとで印象がガラッと変わるのをやりたかったんだと思います。
でも不快
クロノス先生だってアカデミアの女教師に辞めるまでセクハラするようなキャラだったら普通に嫌いになってたと思います。
かくして周りにウザがられながらも強烈な存在感を残していくカエル。
後ろから見たフォルムは死んだワニにそっくりで、カフェのバイト仲間を好きになったりゲームに興味を示したり、絶妙にワニを思わせながらもワニなら絶対しなかったであろう行動を取る。
ワニオルタとして設定されたキャラである事は明白です。
自分のバイクの修理をバイクショップで働くネズミに任せるカエル。
しかしながら、ネズミはバイクがどこも悪くない事を訝しみ、カエルにそれを問いかけます。
すると、カエルは涙を流しながら『過去に友達が亡くなっている』事を匂わせるセリフを言います。
おそらくはバイクに乗りワニの亡骸を見つけてしまったのであろうネズミが、トラウマでバイクに乗らなくなってしまった事は描かれていましたが、ここでカエルが同じ境遇だった事を示唆します。
そしてネズミは再びバイクに跨ります。
荷台にはカエルを乗せ、落ち込んでいたワニをバイクに乗せ走ったあの日のように。
そしてワニと一緒に見た景色を、カエルにも見せるのです。
ワニと過ごしたあの日の再演。
原作の『過去の出来事が"今"に巡ってくる』という要素の再解釈とも言えるシーンです。
めちゃくちゃ良いシーンなんですけど、カエルのイメージが最悪過ぎてあんま感動出来ませんでした。
お前は友の死を忘れられなくて泣く前に、周りにクソすぎる接し方をした事やヘビをバイト辞めさせるまで追い詰めた事を反省しろ。
そして画面は『あの日』のまま時間の止まっていたLINEの会議通話に変わります。
「久しぶりに会いませんか?」
そうネズミが呼びかけます。
そして、あの日以来疎遠になっていたみんなが再び集まります。
その中にはカエルという新しい仲間も居ました。
季節はワニの死んだ春から夏へ、止まっていたみんなの時間がカエルという新しい仲間によって動き出し、物語は幕を下ろします。
めちゃくちゃ綺麗な終わり方なんですけど、カエルが好きになれなかったせいで「これ絶対ネズミ以外の全員が(なんでコイツが居るんだよ……)って思ってるだろ」とか感じてしまい、感動できませんでした。
ていうか後半のパート、カエルのキャラが不快だったのと周りにドン引きされてる事にうっすら気付きながらもあのノリを改めることが出来ないカエルに共感性羞恥が働いて観ているのが苦痛でした。
100日間生きたワニは駄作だったのか?
正直言うと、この映画を観た当初は原作の好きな要素が削られていることやカエルの不快さでかなりイラついており、ちょっと感情的な感想をTwitterで漏らしました。
観賞後数日経ち、自分の感情や映画の内容とフラットな視点で向き合えるようになった今、この記事をしたためています。
100ワニ映画は駄作ではないが、かなり好みの分かれる作品。
制作陣のやりたい事は伝わるが、より多くの観客に届けるためには少し練り込み不足だったのではないか?
が僕の結論です。
いろんな人の100ワニ映画感想を読みましたが、好意的な感想は原作の毒のある要素をカットした事とカエルのキャラを評価している声が多く、やはりここを好きになれるかどうかが分水嶺である気がします。
ちなみに僕みたいな100ワニ原作信者のお気持ち表明みたいな感想はほぼ皆無でした。
みんな100ワニの内容もうよく覚えてないってコト!?
長い文章となりましたが、自分の感じた事は大体言葉にできたかと思います。
皆さんも、色眼鏡なしで一度この映画を観てみては如何でしょう?
もしかしたら思ったより楽しめるかもしれませんし、もしかしたらガッカリして全然楽しめないかも知れません。
でも、それでいいんです。
僕達の『100日間』は、今この瞬間なのだから。
7月15日追記
ネズミとカエルのツーリングのシーンは、カエルを荷台に乗せるのではなくお互いがバイクに乗って走っているシーンではなかったか?との指摘をいただきました。
自分の書き間違いであり、訂正いたします。