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竜王戦プレミアム〜第34期竜王戦第1局2日目③・完 大盤解説会〜

先に投稿した竜王戦プレミアムの①と②では能楽堂での対局観戦の様子をお伝えしたので、③では自身初参加となった第1局大盤解説会のエピソードをお話ししたい。

私はここに参加する前に、2019年4月のニコニコ超会議「超将棋」ブースで加藤一二三九段と木村一基九段の人間将棋の模様を幕張メッセの会場で楽しく観戦した事はあったが、タイトル戦で参加料を支払ってというのは初めてだった。棋士の先生に当てられて答えを求められたりするのだろうか。予習をしてこなかった生徒が授業前に緊張するような心境で座席についた。

大盤解説会は能楽堂での対局観戦後に能楽堂と同じ地下2階のボールルームで午後2時から開始された。実際に始まってみると参加前の不安は全くの杞憂だった。むしろ将棋を全く知らない方でも安心して参加出来るのが大盤解説会だと感じた。棋士先生、女流先生方は皆さん説明が非常にわかりやすく、昼食後に眠くなる事もなくエンターテイメントとして楽しむ事が出来た。

普及活動や指導対局などで普段から説明したり人前で話す事に慣れておられるからか、巧みな語り口で観客を惹きつける。さすがと感じたのが連盟理事を務める鈴木大介九段だ。

ご自身も九段の先生であり麻雀大会でも活躍されるなど素晴らしい経歴でありながら気取らず自虐を交えて面白おかしく話されるので、対局の緊迫感からひととき解放されて大笑いすることができた。対局者のファンであっても、大盤解説会をきっかけに他先生と触れ合えた事で良さに気づくかたもきっと多いはずだ。

報道される事が無い、対局者とのエピソードトークも興味深かった。大介先生は昨年藤井三冠との初手合いとなったB級2組の順位戦について、藤井さんにとってはただの一戦かもしれないけどこちらは一年前から(順位戦で同じ組に在籍する棋士は一年に一度対戦する)楽しみにしていたのに…と仰っていたのが印象的だった。結果あっさり負かされてしまったと笑いを誘っておられたが、きっとどの棋士先生にとっても藤井三冠は対戦してみたい、楽しみな相手なのだろう。

大盤解説会のお楽しみとしては次の一手クイズが欠かせないと聞く。私は初参戦だ。この時は2回チャンスがあり、ビギナーズラック恐るべし、私は62手目豊島竜王の☖8七歩を運良く当てる事が出来た。

61手目☗7四歩で☖7三の桂頭を狙われており、この桂馬を逃がすか、他の手で攻め返すかである。私が豊島先生の将棋を好きでたまらない理由のひとつが、果敢な攻め将棋だ。ここで逃げる事はしないだろう。むしろ相手を上回る強気な手で逆襲するはずだ。そう考えていくと自然に☗8八の角に狙いを定めた☖8七歩が浮かんだ。

実際にその通りに豊島竜王が指された時の嬉しさは、棋力が無い自分だからこそ相当なものだった。尊敬する先生と同じ指し手をたったの一手でも共有出来ただけで幸せになれる。ファンは棋譜並べや日々の応援を通して、その先生の将棋をよく見ているからこそ、先生だったらどう指すかとあれこれ悩むのが楽しい。解説の先生方にとっては出題のタイミングを見計らうのも腕の見せどころで大変だがぜひどの会場でも続いていって欲しい。

投票箱から一枚ずつ投票用紙が取り出され、当選者の名前が発表される。解説陣の先生方は立会人の中村修先生と貞升南先生だった。先生方どうか引いてください!的中しているかたは皆同じ気持ちで抽選の行方を見守っていただろう。竜王戦ポスターや扇子、記念グッズの手ぬぐいなど次々と当選者が決定し拍手で祝う中、ついに私の名前が呼ばれた。「◯◯県の◯◯さん」私だ…!

椅子から転がり落ちるように慌てて立ち上がり壇上へ向かう。和服姿の中村修九段が笑顔で迎えてくださり、直接手渡しで先生ご本人の揮毫色紙を拝領した。本当に上品で素敵な方だ。TVでしか拝見したことのない修先生。緊張でかすれる声を振り絞り、応援しておりますとお伝えする事が出来た。すると先生からは遠い所からよくお越しくださいましたとお優しい言葉を掛けて頂けた。感激で涙が出そうだった。

こうして私の竜王戦プレミアム観戦&大盤解説会初体験という濃密な1日が終わった。残念ながら豊島竜王の勝利を見届ける事は叶わなかったけれども、美しくも真剣な対局姿を拝見できた事、大盤解説会で大笑いした事、次の一手クイズで素敵な揮毫色紙を頂けた事など全てが自分にとって新鮮で感情を揺さぶられた。私の平凡な日常に鮮やかな彩りとなって将棋の世界の魅力を余す所なく堪能させて頂けた。

昨年からのコロナ禍でイベントが次々と中止や延期を余儀なくされてきた中、将棋のタイトル戦という大舞台を初めて観戦できた事には感謝しかない。先生方、読売新聞社様、関係者様、またこの全3回にわたる長文レポートをお読みくださった皆様にも心からの御礼を申し上げたい。(完)

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