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8月第1週放送(いつか憧れの)初段を目指す!スキがない将棋


攻守バランスの良い“雁木”

8月第1週の日曜日。甲子園球場で行われる夏の高校野球の開会式のため、将棋フォーカスは5分短縮されたが、将棋講座はいつも通り約10分の尺が確保されていて一安心した。今週は高校野球の為、とよぴー先生のお悩み相談室はお休みです、などと言われたら将棋に迷える子羊たちが先生のアドバイスを求めてさまようことになるので大変だ⁈

8月のテーマは「バランス重視の雁木戦法」。
雁木、と言えば”地球代表”のキャッチフレーズで知られる深浦康市九段の得意戦法であることと、アゲアゲさんこと折田翔吾五段の“ガガガンガンギ🎵”が耳に残るくらいで、自分で指したことはなく、ちょっとレアで玄人向きな戦法なのかなという先入観があった。

題材となったのは、豊島先生が初優勝した第71回大会の2回戦、服部慎一郎六段(当時四段)との対局で、動く棋譜はこちらのページに記載されている。

そもそも雁木って何ですか?と山口恵梨子先生。ナイス質問、同歩同銀だ。初心者はそこから知りたい。すると豊島先生、☗6七銀☗7八金になっていて大体その周りに玉がいたら雁木、とのこと。玉の位置は場合によって自在に変えられ、バランスの良さが長所になるらしい。
確かに、玉回りをガッチガチに隙間なく駒で埋めていた振り飛車の回と比較すると、ふわっとしてゆとりがある。相手の攻めに応じて変化していけるのはいかにも流行りのバランス型の将棋にピッタリ合いそうだ。

雁木は先手が自然に良くなりやすい

ちなみに、放送前に付け焼き刃で雁木の予備知識をつけておこうと読んだのが、「現代将棋ってこういうこと」(佐々木大地・増田康宏共著書 マイナビ出版)
先生方が会話形式でざっくばらんに説明してくださり、お二人のVSを盤側で聞かせてもらっているように楽しく読み進める事ができる。

雁木については特に増田先生はじめ若手棋士の間で見直しが進んでいるそうだ。しかし読み進めていくと複数パターンで先手よしになりやすいとの事。
あれ?後手に有利になる展開がなさそう…ではなぜ豊島先生は王座戦挑戦者決定戦で藤井七冠相手に後手で雁木を選んだのだろう。疑問が頭をよぎった。

しかも、今日のテーマが「角交換は雁木よし」で、
角交換はめちゃくちゃ嬉しいです、雁木にとって有利なんです、とニッコニコの笑顔で言い切っておられる。
あれ?豊島先生、藤井七冠が角交換を打診したのを拒否しておられたよね…ますます王座戦挑決とは話が食い違うので混乱した。

☗3七に桂馬を上がり、☗4八から4七へと銀を桂馬の横並びに配置するのが本日のパーフェクトな一手。その後☗2九飛と下段に飛車を引いた形が狙いだとのこと。確かに…!
☗4八に銀がいたままだと☖3八に角を打ち込まれて飛車を狙われる&飛車を逃げても龍を作られてしまい後手大成功だ。
しかしこの形にする事が出来れば、相手は角をどこにも打ち込む事が出来ず、宝の持ち腐れになってしまう。
つまり、相手の強力な持ち駒を押さえ込んだまま活躍の場を与えず、自分は全軍を躍動させれば当然有利に戦局を進める事ができるというわけだ。軍師豊島、お見事なり、と私が総大将なら間違いなく褒美を取らせたい。

自陣のどこにも角を打ち込まれるスキがない!

勇者の将棋(王座戦挑戦者決定戦)

そこで王座戦挑戦者決定戦の戦いかたを振り返り、なるほどと気がついた。
雁木で角交換してお互いに角を持ち駒にしておけば、自分はこのように角を使わせない駒組みで対策し、相手の角を死に体=実質的に戦力ダウンさせる事ができる。だが相手に対して一手まさる先手が同じように指すならば、自然に相手が良くなりやすいのもうなづける。増田先生と佐々木大地先生の検討でも先手よしの変化が多かった。

それに対し、”角交換せずに”後手雁木で戦った豊島先生は、相手の大駒2枚の出方に常に注視し、神経を張り詰めながら一手一手慎重に進めなければならない。難易度が一気に上がることは容易に想像がつく。

誰もが避けて通りたい、神経を使う展開を自ら甘受する事で、藤井七冠の研究から外し、勝負を挑んだハイリスクハイリターンな作戦だ。
自玉に降りかかる危険の全てを漏れなく読み、潰していく作業はこの大事な一番でどれほどの緊張感だったことだろう。豊島先生が全集中でやり遂げた事で、長く互角を保った状態で秒読みの最終盤を迎える事が出来たといえる。

私にはそんな緊張するシチュエーションは無いが、自分が地味ながらもやり遂げた作業を誰にも気づかれないのは寂しい。豊島先生の勇敢なチャレンジに、ちゃんと意味を理解して心から拍手を贈ることができる。今回の講座を視聴して何よりそれがとても嬉しかった。

放送終了後、すっかり恒例となった豊島先生ご本人の補足説明でも、”先手雁木”と仰っている事からも、後手をもって指し回すにはかなりの腕が必要だと思われる。まずは先手からトライしてみたい。

ちょっとレベチなお悩み解答⁈終盤の心得

優勢なのに終盤で大逆転されて負けてしまう。どうしたものかという本日のお悩み相談。
豊島先生曰く、逆転負けには2パターンあって、油断して負けてしまうのと、完璧に指したいとか絶対負けたくないとか思いすぎて負けてしまうパターンだそうだ。
自分がどちらのタイプなのか見極めて、油断しがちな場合は自分の優位を意識しすぎないように、完璧を求めてしまう場合はもう少しアバウトに、ちょっとくらい怖くても踏み込むといったイメージで指すように、というアドバイスだった。

行くべきなのか、戻すべきなのか、そのあたりのさじ加減にはまず現状の形勢を正確に判断できる棋力が不可欠だ。
実際、今年の朝日杯の公開対局で、豊島先生が菅井竜也八段に勝利された対局でも、私は最後まで菅井先生が優勢なのだと思い込んでいた。初心者には油断というよりもむしろ誤認が多いのではないだろうか。
豊島先生…優勢どころか大劣勢なのにドヤ顔で踏み込んだ挙げ句に鮮やかに詰まされる私はどうすれば…
「そこは自分で何とか頑張ってください」とにっこりと仰るのが目に浮かぶようなので、まずはしっかりと、安全確認を怠らずに指すように心がけたい。

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