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6月第1週放送(いつか憧れの)初段を目指す!スキがない将棋

(豊島稲葉戦?)安心して下さい、基本です!

今回の題材は5月第1週で予選決勝の福崎九段戦を紹介した同じ日に行われた2009年2月24日第59回NHK杯予選1回戦の対稲葉陽八段(当時四段)戦。この日、トーナメントを3つ勝ち上がれば本戦進出となる。お互いに当時は四段。初戦で好敵手同士の対戦だ。

豊島稲葉対決といえば同世代の関西実力者として修行時代から糸谷哲郎八段らと共に切磋琢磨してきた間柄で、毎回熱戦となる。
直近では2022年12月15日の棋聖戦二次予選での千日手指し直しの激闘(千日手局151手、指し直し局218手)が記憶に新しい。応援する側もヘトヘトになるほどの勝負だった。

豊島稲葉戦ってちょっと不穏なんですけど、と山口先生が訝るのも無理はない。
すると、実際の棋譜から逸脱して基本的に進めます、と豊島先生。初心者もホッと一安心だ。

棒銀の攻め方の基本の「き」

角換わりの種類は大きく分けて次の3つ
①腰掛け銀:5六銀。5筋の歩の上に座っている
②早繰り銀:4六銀。3五の地点を狙っている
③棒銀:2六銀。飛車先に銀が棒状に繋がっている

「攻めたい場所の数を数えましょう」(数の攻め)
狙った地点に利いている駒の数が、相手より自分の方が多ければ最終的に勝る。

「価値の低い弱い駒から順番に使う」
攻めた駒を相手に取られてしまうので、弱い駒から使っていく。

「攻めの駒は4筋より右側の筋」
居飛車の場合は、飛車側の駒が攻めと覚える。

「守りの駒→定位置に 攻めの駒→持ち駒にして自在に使えるように」
サッカーに例えると、ディフェンス陣にはできるだけ定位置をキープさせる。
フォワードの選手は神出鬼没に使える方が得点チャンスが広がる。

「端攻めを狙う時、2筋の銀は1筋の香車で前方を塞がない」
銀の行く手を遮ってしまっては効果半減となる(下図の通り)。

この局面で☗1五香と出ていってしまうと…
☖1三歩と守られ銀が1筋に出られなくなるので注意!

応用編・攻めのバリエーションを増やしたい!

将棋には手筋と呼ばれるちょっとしたテクニックがある。
プロ棋士の先生方は当然ながらテクニシャンなので、ごく自然にやってのけているように見え、初心者は残念ながらそのあまりのスムーズさゆえに気づくことすらないことが多い。
今回もその一つを紹介してくださり、今日のパーフェクトゲームのポイントに選ばれた。

端攻めで1筋にばかり気を取られていると、棒銀を起点に1筋だけでなく2筋3筋にも利いていることをうまく活用されてしまう。
今回はポトリと垂らされた☗1三歩がポイント。香車が吊り上げられたことで、2二の地点に隙が生まれ、2筋で歩を捌いている間に角を打ち込まれてしまった。銀桂両取りの技ありだ。まんまと罠にハマってしまわないように、相手の指し手の意図はしっかりと見定めたい。

☗1三歩を嫌がって☖同香と応じてしまうと…
☗2四歩☖同歩と応じるとすかさず☗2二角。
これが抜群の攻撃力を誇る角換わりの威力だ。

「豊島、飛車振ったってよ」

放送日6月4日の2日前、6月2日のことである。朝10時2分過ぎ、私は鳩が豆鉄砲を食らったかのような面持ちで目を擦り、我が目を疑った。
この日関西将棋会館で行われた本田奎六段との王座戦挑戦者決定トーナメントで、豊島先生が飛車を振ったのだ。

豊島先生が、飛車を振った。
2017年からの観る将の私にとって、リアルタイムで振り飛車を指す豊島先生の対局を観戦するのは初めてだ。
仕事になんてなりそうにない、もう帰るしかないという気持ちを堪えながら、何度も棋譜を見返した。間違いない。3手目で☗7八飛と三間飛車に構えた。

6月1日に藤井聡太竜王が史上最年少名人となり、羽生善治先生に次ぐ2人目の七冠を達成した翌日で、報道もまだ一夜明けた藤井新名人の話題で溢れている最中のことである。

結果、豊島先生が鮮やかな勝利を収め、2回戦へ駒を進めた。
三間飛車穴熊での勝利は、否が応でも4月23日に行われた第8期叡王戦第2局、挑戦者菅井竜也八段が藤井聡太叡王に勝った将棋を思い起こさせた。

豊島先生がなぜ、飛車を振ろうと思われたのか。感想戦取材のコメントにも、明確には書かれておらず、真意のほどはわからないままだ。
だからこそ、豊島先生の気持ちに想いを巡らせてしまう。

叡王戦の開幕前、菅井先生とVS(1対1の研究会で、より対局に近い)をされていたことは菅井先生ご本人情報なので間違いない(アイツは豊島先生しかいないかと)。そして豊島先生のツイートもおそらく菅井先生とのVSだろう。

万全の体調でVSに臨むために、午後9時台から就寝しようとする生真面目な豊島先生のことである。精一杯の準備として、振り飛車対策を綿密に行っておられたであろうことは容易に想像がつく。
何しろ電王戦では1000局近くと、凡人の想像を遥かに上回る数の対局をこなして臨まれた豊島先生だからだ。

その時の研究が奏功し、あくまで戦いの幅を広げる意味での振り飛車採用なのかもしれない。
実際、居飛車党の永瀬拓矢王座も一昨年の第34期竜王戦挑戦者決定三番勝負の大一番で、藤井聡太二冠(当時)に対して先手振り飛車を採用した。

永瀬王座も豊島先生も、元々は振り飛車もこなすオールラウンダーでもあるので、奇策というほどのことではないかもしれない。
永瀬王座と研究仲間であり、最新形に明るい本田先生の研究の深さを警戒して、ということも考えられる。

ただ、純粋に勝ちだけでいえば、あくまで経験上では圧倒的に多く指している居飛車の方が豊島先生にとって勝率が高いはずだ。
ここであえての三間飛車穴熊を選んだことについて、私個人的な思いではあるものの、豊島先生なりのメッセージが込められている気がした。

見事な振り飛車の指し回しで藤井叡王を相手に完勝を収めた菅井先生への賞賛と敬意。
そしてまだまだ将棋には未知の可能性が秘められており、自分もそこに向かって走り続ける、藤井七冠の独走は許さないという反撃の狼煙をあげているようにも感じ取れた。

もちろん、派手なパフォーマンスや目立つ言動は決してなさらない豊島先生なので、他意はないことも承知している。
ただ、爽やかに、軽やかに飛車を振って勝利された豊島先生のニュースは、今後も藤井七冠と見応えのある勝負が繰り広げられる未来が続いていく事を期待させるに十分だった。

さて、角換わりの話に戻ろう。
攻撃力抜群な角換わりは、魅力的な戦法である反面、自分も相手からの攻撃を受けるので、より慎重に、神経を使う指し回しが必要となる。先に挙げたような手筋で両取りの技をかけられるなど、一瞬の隙が命取りとなりかねない。来週の講座では腰掛け銀が予定されている。

山口先生風にいえば、豊島ブートキャンプに入る気持ちで立ち向かいたい。
ビリー隊長のように「お遊びのつもりか!」とは、お優しい豊島先生は決して仰らないだろうけども。最後には豊島先生や講座を学んだ皆様と一緒に歓喜のヴィクトリーポーズで喜びを分かち合えるように。

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