7月第1週放送(いつか憧れの)初段を目指す!スキがない将棋
矢倉は純文学、何だかとっつきづらい?
NHK将棋フォーカス将棋講座の7月は「堅陣を頼りに攻める相矢倉」がテーマだ。
2023年7月2日放送。衣装も厚手のパーカーからロンTに衣替え。豊島先生はスッキリと額や首筋を見せる夏らしいスタイルで爽やかに登場された。
題材は2009年2月24日に行われた第59回予選2回戦の畠山成幸七段(当時)が選ばれた。
NHK杯予選は1日で3局を指すというハードな対局で、この日は豊島先生にとっても思い出深い一日なのだろう。5月には予選決勝の福崎九段戦、6月には1回戦稲葉四段(当時)を放送で取り上げている。
豊島先生曰く、矢倉は純文学という言葉もあり、難しいイメージはあるが、バランス型の将棋と比較すると攻め駒と守り駒がはっきりしていて、わかりやすいそうだ。
私も言葉のイメージだけで思い違いをしていたが、そもそもこの言葉を話された米長邦雄永世棋聖も、正統派、王道、といった意味合いではなかったらしい。
端歩のようなじわりとした手に長考するところなどが、まるで男女の愛憎がもつれあうばかりの純文学のようで、パッと見てわかりやすい娯楽小説のような面白味はないが、深いコクを味わえる良さを例えたのだと話されている。
攻めは飛角銀桂
矢倉の良さは8八玉でガッチリとした守備態勢を築くことで、攻め(飛角銀桂)と守り(金銀3枚)を分けて考えやすく、攻め駒は一致団結して総力戦で攻めることができる。
4筋からの総攻撃に備え、☗3五歩→☖同歩→☗3五角としたが、ここで注意がある。相手の角が☖4二にいるのでこの手順が成立したが、もしも角が☖6四にいたら、飛車はいつも狙われるので、うっかりコビンを開けてしまうことが無いようにしたい。
4筋を攻めていく理想形はこちら。ここまで綺麗な駒組みで進める事は実戦では難しいかもしれないが、飛角銀桂が連携しあって攻めていくのは威力抜群だ。
今日のパーフェクトな一手は☗4四歩。「敵の打ちたいところに打て」の通り。初心者の私なら深く考えずにここぞとばかりに☖4五銀を桂馬で狙いたいと思ってしまうが、違うのだ。その場合はあっさり☖4四歩と桂頭に指され、みすみす大事な桂馬を失ってしまう。
同じような攻めの流れに見えても、手順の前後だけでガラリと形勢が逆転してしまう将棋では、駒を使う順番は本当に大切なのだとこの説明で感じることができた。
振り飛車の可能性を熱く語る藤井猛先生
この日は将棋フォーカスのゲストに藤井猛九段が招かれ、第8期叡王戦での菅井竜也八段の活躍にふれて振り飛車の可能性について語ってくださった。
美学を感じる藤井猛先生の振り飛車には熱狂的ファンが多く、豊島先生も以前に囲碁将棋チャンネル「豊島銀河の素顔」でファンだと公言しておられたように、棋士仲間からも憧れられる存在だ。
今期順位戦A級とB級1組の全24名の棋士のうち、純粋な振り飛車党は菅井先生のみ、佐藤康光九段と澤田真吾七段は両方こなすオールラウンダー、残り21人は全て居飛車党と非常に偏っている。10人、20人に1人というのは珍しいことでは無いけれど、ちょっと少ないかなと仰る藤井猛先生。
しかし振り飛車党の復権を予感させるような菅井先生の大活躍とともに話題となったのが、6月2日の王座戦挑戦者決定トーナメントで豊島先生が本田奎六段を相手に三間飛車の対抗形で勝利したことだ。
早速、番組スタッフが豊島先生ご本人へ直撃インタビューした内容が紹介された。
なぜ飛車を振ったのかという問いに対し、叡王戦を見て影響を受けたのもあり、菅井先生は途中まで優勢もあり、自分から積極的に攻める展開を目指せそうなので興味を持ったそうだ。攻めの棋風の豊島先生にはとても魅力的に映ったのだろう。
ファンが一番聞きたかったことに答えを頂いた気分だった。ずっと振り飛車で行くということはないけれど、温めておいてまた機会があれば指してみたいと仰ってくださった。
これに関しては藤井猛先生も、興味を持って早速振るっていうのがいいねとご満悦の表情だった。振り飛車でAIの評価値が低く出ることに惑わされてはいけない、人間同士の勝負には全く関係ないと熱弁される藤井猛先生には、そのブレの無さに心惹かれてしまう魅力がある。
キラーフレーズにTwitterが沸く
さて、今回の記事では、先週日曜日の夜に補講のツイートをされた豊島先生のこの言葉を紹介せずには終われない。
言うまでもなく某八段の「す」は菅井先生だが、念の為答え合わせの菅井先生のツイートがこちら。
普段のツイートでは絵文字や顔文字さえ使わない豊島先生の、「俺」。
「😭😭😭」。
このギャップ萌えからの凄まじい破壊力。愛され力。
説明すればするほど野暮になる。
どこまでも深く底無しの豊島先生の不思議な魅力にハマってしまう理由はこんなところにもある。いやはや、恐るべし。