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第81期名人戦七番勝負第3局高槻対局 観戦旅行1日目

行くかどうか悩んだ観戦旅行

第81期名人戦の開催地が発表されたのは2月中旬、A級順位戦最終一斉対局の前だった。最終局の結果次第では最大5者によるプレーオフとなる可能性がある。その顔ぶれの中に豊島将之九段も名を連ねていた。
かねてより豊島先生の名人戦をリアルタイムで目に焼き付ける事を願い、日々の応援に励む私としては、唯一の土日開催である高槻対局は、是が非でも観戦したいと高槻市内のホテルを連泊で予約していた。
しかし最終局を終え、挑戦者は藤井竜王に決定し、豊島先生の挑戦は来期以降に持ち越された。
遠いし行くの、やめようかな。余計につらくなるかな。まだホテルもキャンセルできるし。失意の中で私はふと、素敵な事を思いついた。それが今回の名人戦観戦旅行の目的のひとつにもなった。

5月13日 大阪・福島駅に到着

私は大学生の頃に毎週、福島駅近くで開催されていた講座に通っていたことがある。もう30年近く経つが、仲間と一緒に夢を追っていた記憶が懐かしく、思い出深い駅の一つだ。
福島駅の風景は、降りてすぐにみえるミスドなど、街並みの所々には30年前の面影がまだ残っていた。足早に横断歩道を渡り、目的の場所を目指す。
Googleマップを頼りに、ついに発見した。
「純情順位戦」朝日新聞北野記者のインタビュー記事で豊島先生が漕いでいたブランコに、私も揺られてみたかったのだ。

上福島東公園

土曜日午前中の公園はおそらく5歳くらいの男の子、3歳くらいの女の子を遊ばせながら0歳児のベビーカーを見守る若いお母さんがおられるだけで、とても静かだった。怪しいオバさんだと思われないよう、お母さんに挨拶をして、一番お兄ちゃんのボクに声をかけた。
木に登ろうとしてみたり、ダンゴムシ!と熱心に捕獲に勤しんだり、元気でとても可愛らしい。豊島先生が初めて将棋会館を訪れたのもこの子くらいの頃だったのかと、重ね合わせずにはいられなかった。
そっと、ブランコに乗ってみた。何十年ぶりだろう。きっと豊島先生も同じように何十年もブランコに乗ることはなかったのではないだろうか。豊島先生が見た景色を思い浮かべながらしばらくの間、揺れに身を任せた。

高槻市の大盤解説会は午後1時からなので、もう少し時間はある。ちょうどお昼時なので、ランチはぜひイレブンでと、11時30分の開店と同時に店内に入った。
初めてのイレブンは想像していたよりも小ぢんまりとしていて、革張りのソファーやステンドグラス風の照明など、落ち着いたバーのように洒落た雰囲気だ。カウンター席でサービスランチの「一口ヘレカツ」を注文する。
澤田真吾七段が、一口では食べられないと仰っていたその通りだと納得しながら、しっかりと肉厚の美味しいヘレカツを頬張った。たくさんの棋士先生方の思い出の味として、将棋会館が高槻へ移転しても、どこかで再出店されるなら必ずまた食べに行こうと決めた。

イレブン「一口ヘレカツ」サービスランチ

阪急電車で高槻市へ

大阪駅から高槻市へ向かうには、JRと阪急と2通りの行き方があるが、私は阪急を選んだ。そして阪急梅田駅は今回の旅の目的の一つでもあった。
京都線・宝塚線・神戸線の始発・終着駅であり、1番から9番ホームまでが全て同じ3階フロアにある。鉄道ファンでなくとも、美しいマルーンカラーの車体が横1列にズラリと並ぶ光景は圧巻だ。到着した電車から溢れ出す人の波が大都会の駅にふさわしい活気を思わせる。
北野記者の純情順位戦でも紹介されていたが、北野記者がスポーツ報知に在籍していた当時のこの記事が私にとって強く印象に残っている。

頭端式ホームで日本最大規模を誇る阪急梅田駅
乗降客が渦に飲み込まれていくような錯覚だ

早足でせかせかと歩く大人たちの雑踏に揉まれながら、9歳の豊島先生は細く小さな体で、負けた悔しさを噛み締めながら一人で電車に乗って帰って行ったのか。おそらく、年の離れた弟の面倒をみる母の負担を思い、一人で大丈夫と気丈に振る舞っていたに違いない。その心の強さと覚悟が、将棋の世界で生きていくと早くに決めた豊島先生の底知れない胆力に繋がっているのだと感じた。

マイナスイオン漂う高槻城公園芸術文化劇場

阪急高槻市駅から徒歩10分ほどで到着した高槻城公園芸術文化劇場は、今年3月に出来たばかりの新築で、隅々まで美しく居心地は最高だった。午後1時の開始に10分遅れて到着したので、すでに古森悠太五段と加藤桃子女流三段の解説が始まっていた。

同じ1995年生まれで息もピッタリのお二人

戦形は先手渡辺名人が矢倉、後手藤井竜王が雁木で双方守りはガッチリと組み終え、手数も比較的スローペースの進行なので、ゆったりとした気持ちで観戦していた。古森先生の優しく低音で響く声に、昼食後でお腹がいっぱいな事もあり危うくウトウトしそうにもなった。
大盤解説会場のトリシマホールは座席数が1500の大規模ホールで、この日は約半分〜7割くらいの人の入りだろうか。天井までびっしりと埋め込まれたキューブ型の木材は音響を考慮して約2万7千個使用されているそうで、まるで森林浴のように芳香を漂わせている。

渡辺名人、藤井竜王も中盤の腹の探り合いといった感じで、ジリジリと間合いをはかる濃密な時間の流れだった。
解説会には高槻にゆかりのある複数の棋士や女流棋士が代わる代わるステージに登場された。
そして、今回の立会人である久保利明九段が和服姿でお越しになった時は、遠目でも強いオーラを感じた。解説会が始まってから両対局者の長考が続き、ほとんど手が進まない中で、私は振り飛車党なのでと謙遜しつつ現局面の狙いや注目すべき点、今後の予想手などをわかりやすく解説してくださった。

久保利明九段の和服姿は一際美しかった

夕方6時近くになり、このまま封じ手かと思いきや、突然パタパタと手が進む。封じ手を巡る攻防も勝負の大事な駆け引きだ。渡辺名人が封じる意思表示をして、1日目を終えた。消費時間、形勢共に綺麗な均衡を保っており、これぞ棋界最高峰の名人戦といった名勝負になることは間違いなかった。

高槻グルメを堪能

観る将にとって現地観戦の大切なお楽しみのひとつが、将棋めしを味わえることだ。今回、高槻市は市の公式サイトから一般公募で勝負ランチ・勝負スイーツの投票を行って名人戦の盛り上げに一役買っていた。終局後はたくさんのファンがノミネートされた店を訪れたことだろう。

中でも第1位の得票数を集めた人気メニューの店に、私も早速足を運んでみた。
新将棋会館建設予定地にも程近い「808 Curry&Vegetable」はこれから先生方の勝負めしとして人気が出そうだ。
紹介されていたのはグリルチキンカレーだったが、チキンにかなりボリュームがありそうで、遅い時間でもあったので定番のオススメだという野菜たっぷりの808カレーをチョイスした。

カレーのルーは野菜の甘みと旨みが凝縮されていて、辛すぎる事もなく、途中水を飲んだりせずにどんどん食べ進めていける。トッピングの野菜もカラリと素揚げしてあり見た目にも美しく、食感もいい。ライスの量は大盛りでも同じ価格なので、思わず丸山忠久九段ならどう注文されるのかなと頭に浮かんだ。

808カレー 野菜の旨みがバツグンでとてもヘルシー
ボリューミーなチキンカレーは次回のお楽しみに

朝から盛りだくさんで楽しんだので、十分すぎるほど満足したが、明日も朝から将棋観戦ができる。幸せな気持ちで眠りについた。
長くなったのでこの続きは2日目のnoteでご報告したい。

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