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任意の単語を、最小限の手数で、なるべく、「黄金」に近づけるゲーム

オモコロ杯2023で優秀賞をいただきました
ホーッ ホーッ

あー、明日学校行きたくないなあ。

なんで習ってない漢字を書いちゃいけないの?
一樹という名前を「一き」って書いたらバランスが崩壊して美しくないじゃないか!
なんで掛け算の式は前後入れ替えちゃいけないの?
3×2=6より2×3=6の方が偶数と偶数で奇数をサンドイッチできてて美しいじゃないか!!

自分の中の美学と、他人が決めたルールの狭間に苦しみ、結局いつも美学を捨ててしぶしぶルールに従う。敗北の日々。

嫌だなあ、学校行きたくないなあ、眠れないなあ。
ベッドに入り、電気も消され、何もすることがなく、しかし頭の中はモヤモヤでいっぱい。違うことを考えようとしても、忍び寄ってくる現実世界。どこにも逃げられないし眠れもしない。それでもまた明日は学校に行かなきゃいけない。
僕は、なんとか今日を、明日を生き延びるために、そして自分の中のピュアな美を守るための趣味を編み出し、脳内で熱中するうちにいつしか眠りに就く。そんな小学生時代を過ごしておりました。

カチッ

皆さん誰しもそういう「脳内趣味」って、ありますよね?

遊び相手もいらない。機械も、紙とペンもいらない。明かりすらいらない。眠れない夜を乗り越えるために、ベッドの中で独り、ルールもスコアも全部自分が決めて良い最高のゲームに興じたい。
僕の脳内で完結してるんだから、誰かにルールや採点方法を説明して納得してもらう必要なんてない。今この瞬間だけは、誰の指図も受けず、誰にも邪魔されず、ただ自分の中の「美」にのみ忠実なピカソとして生きることができる。

僕の脳内趣味は、任意の単語を、最小限の手数で、なるべく、「黄金」に近づける、というゲームです。
このゲーム、通称(自称)「黄金ゲーム」を、僕はひたすら20年くらいずっとやり続けてきました。

今日は思い切って、僕が温めてきたこのゲームを、この世界観を、世に発信したいと思います。
理由は特にありません。ただ同じようなことを考えている人がいたらめちゃくちゃ握手したい。
そして反論も受け付けません。だって僕が作った僕だけのゲームなんだから。
「みんなのルール」でがんじがらめになり、互いが互いを縛り合っているこんな世の中だからこそ、自分だけのルールの中で揺蕩う余裕を守り抜きたい。

ルール1.「あ」「う」「お」は幹、「い」「え」は糊

わかります。いきなりすごくよくわからないですよね。でも脳内趣味ってそういうもんなんです。ルールだけじゃなくて、ゲーム内に登場する用語も全部「自分の感覚的にしっくりくる言葉」なので本当に他人に説明しづらい。
ここからは、「僕は~と思っています」という構文を使うと文章がめちゃくちゃ長くなるので、全部断定調でいかせてください。くりかえしますが、僕のルール、僕の世界です。

まずはこちらの模式図をご覧ください。

日本語の母音は「あ」「い」「う」「え」「お」。実はこの5音は、『異なる性質を持つ2種類』に分けることができます。
「あ」「う」「お」は、幹(みき)です。実体を持ち、単語の骨組みになるような音。積み木をイメージしてください。
「い」「え」は、糊(のり)です。実体はぼやけているが、幹同士を接着させる効果を持った音。デンプンノリをイメージしてください。

幹が連続する単語は、質量があるものの図体がデカくてずうずうしく、そして音同士の接着力が弱いためにすぐバラけてしまう危うさがあります。
(例:なまず、マグロ、おとこ、桃太郎、アルコール、かまぼこ)
糊が連続する単語は、その実体なさゆえに頼りなく、そして紙に糊を多めに塗っちゃったときのイヤ~なシワ感・ヨレ感があります。
(例:えび、ねぎ、右手、尻毛、篳篥[ひちりき]、練り製品)

幹はとなりに糊があって初めて音の並びがスマートになり、糊はとなりに幹があって初めてその性質を長所に変えることができる。
つまり、母音の並びというのは本来、幹と糊が交互になっているのがもっとも美しい姿なんです。
「カレーライス」がその一例です。

ちなみに「ん」や「ー(伸ばし棒)」などは幹・糊のどちらでもなく、1個くらいおまけで添えてある分にはすごい嬉しいが量が多いと食傷気味になる、定食の小鉢です。

この基本ルールが全ての出発点になります。

ルール2.究極形は「黄金」

僕が「美しい」という言葉をしつこく使っている理由がここにあります。
幹と糊のサンドイッチになっている単語の中でも、母音が「あいうえお」の順で1回ずつ使用されている単語の美しさは、言葉に表せないくらい至上。これを僕は「黄金(状態)」と呼んでいます。

幹と糊が交互になっている美しさがまずあり、単語の両端がちゃんと幹になっているので糊が外にこぼれることもなく、そして全ての母音が「あいうえお」の順で1回ずつ使用されている。これ以上に美しい並びがあるでしょうか?

もし、幹と糊のルールがなかったら、単純に「あいうえお」を1回ずつ使ってる単語集めになるんですが、僕はやっぱり幹と糊のルールがまず一番大事なんですよね。
エドはるみ」・・・ちょっとちょっと!蓋してないじゃん!糊が外側にダダ漏れじゃないか!!
隠れ蓑」・・・うーん、蓋はできてるけど、中身で糊が渋滞してて触り心地が気持ち悪いなあ。それに「か」と「く」が接着できてないから、「か」だけポロッと落ちちゃいそうだ。
ポリバケツ」。安定感と接着力を兼ね備えた非常に美しい単語。
(ネットでは「ポリバケツ語」という用語もあるくらい、この界隈ではトップランナーの単語です)

しかしそんなポリバケツすら、「おいあえう」なので、黄金ではない。正直黄金って、日常生活の単語ではほとんど存在しない気がするんですよね。ネット検索して出てきたのは山梨県西八代郡に所在する「甲斐上野(かいうえの)」駅か「ハイグレード」くらい。
もはやほとんど空想上の概念。空想上のゲームの中でも更に幻の存在。

じゃあ黄金ゲームって何なの?存在しない黄金を求め続ける哀れな探検家へのレクイエム?

ルール3.全ての単語は「黄金」を志向する

そう。このルールこそ、僕の黄金ゲームの真骨頂でありもっとも重要なルールです。

黄金ゲームは、任意の単語を、最小限の手数で、なるべく、「黄金」に近づけるゲームです。
素材そのままで黄金という単語はごくわずかしかないかもしれない。でも、いま目の前にある単語のポテンシャルを最大限引き出せば、どんな単語も黄金に生まれ変わらせることができる。そう信じて、周りにある全ての単語をとにかく黄金に作り変えようとしてきた。つまり「黄金に極力近づけるための操作」こそ、錬金術師としての僕の20年のすべてであり、このゲームでプレイヤーが目指すゴールなのです。

錬金術の手法を簡単にご紹介しましょう。
主には「並べ替え」と「ダイヤル回し」、そして「取り寄せ」です。

並べ替えはわかりやすいですね。以下に模式図を示します。
(ここでは初学者のためにわかりやすく、幹は四角・糊は雲形で囲っていますが、訓練すれば自然と視えるようになります)

「ポリバケツ」を「バリツケポ」に並べ替えるだけです。
元々の素材が良ければ、ちょっと手を加えるだけであっという間に黄金になる。
「バリツケポって何?」「存在しない単語じゃん」じゃないんです。重要なことは、ポリバケツは極めて手短な操作で黄金になる、つまり「ポリバケツは黄金に結構近い=良い単語!」ということなんです。だってこの世に素材そのままで黄金たる存在なんてほとんどないんだから、いま手元にある単語をかたっぱしから黄金へと導く努力をしなきゃダメなんですよ、我々は。
エドはるみも素材そのままでは糊で手がべたついてしまいますが、並べ替えるだけで「はみるエド」になるんだから、十分良い単語なんです!(それに「エド」が順番そのままで使えてるのもポイント高い!)

僕の熱量が伝わってますか??

続いてダイヤル回し。これがなかなか説明しづらい。模式図を書いてみます。

針すなお。非常に惜しいじゃないですか。「な」さえ何とかなれば黄金になるんです。こんなに黄金に近しいポテンシャルを秘めた単語を「幹と糊が交互じゃないから」という理由だけで捨てられますか?彼には将来性がある。あまりにも惜しい。だからこうするんです。

自転車のカギのダイヤルを回すかのように、「な」を3回まわして「ね」に変える。
これで瞬く間に黄金です。これがダイヤル回しの術。
ちなみに理想で言うと、今回のような幹から糊への変換ではなく、幹は幹、糊は糊同士で変換する方が美しいとされています。

そして「取り寄せ」。ここまでくればなんとなくおわかりでしょう。
これを

こうします。

その単語を黄金に近づけるためなら、ゼロから錬成したって良いんです。これを許容しなければ、3文字や4文字の単語は生まれながらにして黄金を目指す道を絶たれることになります。そんな社会で良いのか!?
ただ20年やっている僕からすると、ゼロから錬成したというより、他の単語の操作の時に余ってそのままになっていた「部品エ」を今回の操作のためにもう一度お取り寄せしている、みたいな感覚の方が近いです。だから黄金ゲームでは「取り寄せ」と呼んでいます。ああ説明が面倒くさい。

取り寄せは原則として「あ」「え」といった母音のみです。「し」や「ゆ」は取り寄せられないのでご注意ください。

並べ替え」、「ダイヤル回し」、そして「取り寄せ」。
黄金ゲームは基本的にはこの3つを駆使して単語を黄金に近づけるゲームです。

習うより慣れろ、ということで、いくつか練習問題を用意しました。脳内ゲームの練習問題って何?

練習問題

解説に入る前に1つお伝えしたいのが、家元である僕自身がこのゲームの絶対の正解ではないということです。基本的なルールはお伝えしましたが、これは自分の美学と向き合うゲームでもありますので、僕の錬金術と違っていたからといって落ち込む必要はありませんからね。

まず「①マリオ」。

これは簡単ですね。シンプルに「ウ」「エ」の2つを取り寄せます。

続いて「②キノピオ」。この辺りからちょっとずつ難しくなります。

黄金ゲームは、「黄金を目指すこと」と「単語の原型をなるべく保つこと」の間に生じるジレンマと闘うゲームです。黄金にするために操作を増やせば、それだけ元の単語が持っていたはずの本来の良さがなくなってしまう。理想をどこまでも追いつつ、でも今あるものの良さを大切にするのが黄金ゲームなんですね。
キノピオの場合、僕はまず「ノピ」を「ヌペ」にダイヤル回しして生まれる「キヌペオ」という単語がめちゃくちゃ好きです。キノピオという元の単語の響きを残しながら黄金に極めて近い単語になっている。だからまずキヌペオ確定、そして最後に頭にちょこんと「ア」を取り寄せて置いてあげる。これが僕の解です。

「③ピーチ姫」はこちら。

4音すべてが糊なので、操作の自由度がかなり高く、ゆえに操作者側の美学が問われる1問です。
皆さんの中に、「ピ」を「パ」「イ」に分霊して、「チ」「ヒ」「メ」をそれぞれ「う」「え」「お」になるようにダイヤル操作することで「パイーツヘモ」にした方はいらっしゃいますか?これはNGです。
なぜか?ピーチ姫の2文字目「チ」と4文字目「メ」は、操作後の黄金でもそのまま2文字目(い)・4文字目(え)に置けるはずの単語なのに、頭からガチャガチャ変えたらあまりにも風流がなくないですか?本来なら、「チ」と「メ」はその場所でそのままの形で使ってあげるのが最も原型の良さを残せている。だから、パイーツヘモではなくパーチフメオを採用しています。

そして「④ドンキーコング」。

黄金じゃない。そうなんです、このゲームは黄金に「なるべく」近づけるというゲームなので、最終的に黄金にならなくても良いんです。
「ド」をダイヤル回しで「ダ」に変え、4文字目に糊の「エ」を取り寄せる。ここまでは皆さんOKでしょう。
しかしなぜ、そこから更に「コ」を「ク」に、「グ」を「ゴ」にダイヤル回しして「ダンキークンエゴ」にしないのか?あるいは「コ」と「グ」を入れ替えて「ダンキーグンエコ」にしないのか?

ああ、説明が面倒くさい。なんというか「余計な操作が多い」んです。そしてその多さの割に完成形が大したことないんです。
「コ」を「ク」に、「グ」を「ゴ」に変えてしまうと、お互いの音が本来持っていた母音を打ち消し合っています。しかも、そこまで激しい操作をしているのに幹の数はドンキーコング時代と変わらない。その結果生まれた「ダンキークンエゴ」は、たしかに定義上は黄金だがものすごい気持ち悪い。
同じく「ダンキーグンエコ」も、入れ替え・取り寄せ・ダイヤル回しと大きな操作を3種類も噛ませた割に…なので、やはり達成感に欠ける。別にそうしても良いんですが、もっと手短な操作で「ダンキーコンエグ」まで持っていけるならそれで良くないですか?

これらの操作原理を客観的に考えると、「元の単語が本来持っていたはずの特徴」と関連していることが推察されています。
複雑な操作を繰り返して元の単語の良さが完全に失われるくらいなら、出来る限り最小限の操作で幹と糊が噛み合っている「ダンキーコンエグ」の方がずっと良い。たとえ黄金になり切れなかったとしても、僕はダンキーコンエグが彼の理想形だと判断します。言い換えれば、これがドンキーコングという単語の「限界点」なのです。

黄金ゲームは、任意の単語を、最小限の手数で、なるべく、「黄金」に近づける、というゲームです。
最小限の手数とは、素材の良さを消してしまわないこと。だから「なるべく」なんです。全ての単語は黄金を志向する。しかし、全ての単語が実際に黄金になるわけではない。
全ての素材を無理やり黄金に改造するのではなく、素材が持つポテンシャルを最大限に引き出す。我々操作者はそれを介助するだけ。黄金を志向しているのは操作者ではなくあくまで素材本人。

ああ、説明が面倒くさい。初学者の皆さんは、とにかく具体的な操作を繰り返して感覚を掴み続けるしかありません。
たとえば

「流れるランチだゾ」は

ないごれる ランチづえゾ」になります。「ランチだゾ」は黄金まで持っていけますが、「流れる」は持っていけない単語ですよね。

「ケーキのうらみはこわいゾ」は

のケーウキあ らみうえほ わいズえこ」ですよね。
3文節中2文節が黄金まで持っていけたので、まずまずの仕事と言って良いでしょう(僕は文節ごとに切って操作する派です)。
「わ」はかなり厄介で、わ行には「わ」しかない(”わいうえを”なんていう五音は僕の世界には無い)ためダイヤル回しもできないほどかなり強い文字で、「わ」がある文節は「わ」を軸にして何とかするしかありません。
「ひなみざわ」だったら、「なみずへ・・・」にしたいところをグッとこらえて「ぞへぬみわ」にしなければならないほど、わは1文字で情勢を変えてしまうパワーがあります。

あなただったら、「川口さんの恋を応援するゾ」をどう料理しますか?


世の中には文字があふれています。

1つ1つの言葉はどれも余すことなく、本来的に黄金を志向しています。

書いてある情報の中身なんてもう一切気にならない。
そんなことより、黄金です。

書いてある情報の中身なんてもう一切気にならない。
そんなことより、黄金です。

「あイーうえお」か、「AIUEO」か。
あなたはアルファベットをどうやって黄金に近づけますか?


世の中には文字があふれているので、黄金を求めて外に出かけることも多々あります。

さーて、今日も黄金を探しに行くか。

うーん、近所はあまり文字がないなあ。

やっぱ駅前ですね。
ハウスメイト惜しいなあ。ウを捨ててハイスメトかなあ。
クレジットカードかあ。んー、まあドを捨ててクレカジットーですかね。

傾斜がキツめなのでドベンチャーイルンが限界ですね。

これは比較的ダイヤル軽めなので分霊せずにはちのえすが良いんじゃないでしょうか?

なるほど。

おぉーっ!?ん、あー・・・

おっ!?

おおっ!?

いや確かに幹オンリーで小鉢余っててカサも大きいし純増型の3手詰めでダイヤル重たくてうまく回らないやつだけど分霊使っても詰手数が変わらない横滑りの二股傾斜で後半濁しつつヘッドの軽さ残したまま一旦セーブするんかい!!

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