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LINEの生活#24 トラウマ

今が...もしもの時...だな
「お」は東をおんぶしたまま、倉庫のドアを開けた。ドアが軋む音がする。
バアン!
ドアを開けた先には、謎の機械以外、何もなかった。
謎の機械は、文字の平均の身長くらいの直方体の上に、先の方に吸盤がついたチューブが、二本ついていた。
「お」は、東を、その機会にもたれかけさせるように座らせた。そして、チューブについている吸盤を、東の頭に取り付けた。そして、後ろに回り込んだ。機械の後ろには、赤いボタンがポツンと一つだけついていた。
ごめんな
「お」は、そのボタンを押した。

テンヌキが目を覚ました場所は、「ボス」の部屋だった。
(何回も思うけど、息苦しい場所だな、ここは)
テンヌキの頭の中に、まともに家来に食事も与えず、こき使っていた「お」の姿が浮かんだ。
うっ!
頭が痛い。テンヌキは頭に手を伸ばそうとしたが、できない。手元を見てみると、ロープが巻き付けられていた
(くそ...はっ!おじいさんは!?)
その疑問はすぐに解決した。死んだのだ。
「ボス」の椅子には、「お」が座っている。
「『お』!!お前か!?おじいさんを殺すように、家来に命令したのは!?」
「お」は紅茶をすすって言った。
「テンヌキ、お前は東を人間の世界へいかせようとしているらしいじゃないか。なぜなんだ?」
「当たり前だ!僕は東の願いを叶えるだけだ」
「東は多分、お前も一緒に人間の世界に連れていくつもりだろう」
知ってる!!それより、なぜお前はおじいさんを殺した!?

「テンヌキ」

「お」は冷たい声で言った。
テンヌキが凍りつく。あの時の声だ----
テンヌキには、あるトラウマがあった。

話は、十一ヶ月前の、一月十五日。
二千二十年一月一日!十三代目の「ボス」が決定いたしました!今回はその「ボス」が、お話をしてくださります!!
スピーカーから、テンヌキの声が響く。テンヌキは、劇場のステージに、「お」とともに立っていた。「お」は、高価な机の後ろに立っている。テンヌキは、司会者用の(?)机の後ろに立っている。机の上に乗ったマイクを通して、テンヌキは文字に声を通している。
劇場のステージの下には、このスマホのLINEの世界に暮らす、全ての文字が並んでいる。その文字たちから一斉に、大きな歓声が響いた。

「いやあ、凄かったですよ、『ボス』」
テンヌキと「お」は、会議室へ向かっていた。「お」はテンヌキの言葉を無視して、そのまま歩いていく。
(なんだこの文字、感じ悪い)
だが、テンヌキは顔色を一切変えず、
「もうお分かりになっているでしょうが、この後は、『これからのこの世界のこと』について話し合います。いい意見、ジャンジャン出して行ってくださいよ!」
「言われなくてもそうする」
おしゃべりをしているうちに、会議室についた。

この世界で優秀な働きをした文字が、『ボス』の家来になることができる
一代目の『ボス』が、一番最初に、この法律を作った。
この世界にいる文字たちは、「ボス」の家来になる事を望んでいた。「ボス』の家来になるのが、文字の誇りだ、と、教えられていたからだ。テンヌキも、その中の一つの文字だった。
この世界の「ボス』が決まると同時に、この世界の文字たち全員に、二週間の「チャンスタイム」が与えられる。「ボス」が決まるのは一月一日。その次の日、一月二日から一月十五日の正午までが、「チャンスタイム」。その十四日間の中で、最も優秀な働きをした文字が、秘書になれる。それに、テンヌキが選ばれたのだ!その他、雑用係などの、合計三十の文字が家来に選ばれた。
テンヌキのトラウマの原因は、ここから始まったのだ---。

続く

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