椎名さんのこと

 中学生の頃に知った3人の椎名さんが、「椎名」という姓に対する僕の憧れを形成した、という話。
 
 まずは、目下のところ椎名界で最もポピュラーな存在ともいえる椎名林檎さん。
 音楽を聴くということに興味を持ち始めた小6のとき、父のCDの棚の中から日本人アーティストを頑張って探して発見したのが、椎名林檎のアルバム、『無罪モラトリアム』と『勝訴ストリップ』だった。林檎さんがこちらを見つめるジャケット写真になんだか不気味なものを感じたのを覚えている。
 最初はこの2つのアルバムの凄さというものが分からなかったけれど、父のiThunesアカウントにダウンロードしてあった『三文ゴシップ』は聴き心地がよくて、小6の誕生日に買ってもらったiPod shuffleでなんども繰り返し聴いた。椎名林檎を聴いていると少し大人な気分になれたからというのが、歌詞世界も分からないのに聴き続けた理由の一つだろう。
 ちなみに父のCDコレクションは殆どが洋楽で、日本人アーティストは椎名林檎の他に、サディスティック・ミカ・バンドとYMOしか残されてなかった。その辺が自分の好みを決定づけたのかもしれないな、と今になって思う。
 
 次に出会ったのが、文学界を代表する椎名さんである椎名誠さん。
 中1の時に母に薦められて読んだ『岳物語』が猛烈に面白くてずっと読んでいた。当時は、入学した中学校を不登校になりかけており、精神的にも相当に不安定だったから、”数少ない世の中の楽しいもの”として『岳物語』は、ある意味救いだった。ただ実際のところ、当時のウジウジした自分が、同世代の生き生きした少年である岳くんの姿をどのように受け取ったのか、というのはよく覚えていない。普通に考えれば、劣等感を喚起するだけのような気もするが。
 どうでもよいことだが、椎名誠さんは、「シーナ」という一人称を使っていたというインパクトがとても強いので、そのとき好きだったミュージシャンの椎名林檎さんと同じ姓、というイメージはあまりなかった。

 最後の椎名さんは、俳優の椎名桔平さん。
 これまでの2人の椎名さんと較べると、少し印象が薄めなのだけれど、中2か中3の頃に放送していた『SCOOPER』という深夜のバラエティ番組のメイン出演者が椎名桔平さんだった。最新技術を搭載した便利グッズなんかを紹介するおふざけ番組だったと記憶している。ダンディにふざける椎名さんはすごくカッコいいオジさんで、当時の僕はそれにハマって毎週観ていた。

 こうして、思春期の短期間のなかで3人の「憧れの椎名さん」に出会った僕は、椎名さんへのハードルを凄まじく高めてしまったのである。
 ちなみに、実生活においてまだ椎名さんに出会ったことはない。

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