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ダンス・ワークショップ

チベット人にCADを教えるボランティアの仕事は、はじめの頃は毎日のようにツェリン・ドルジェとロプサン・ダワ・ラが来ていたのだが、突然、何の連絡のなく来なくなっていた。どうしたのだろう?と思っても連絡先が分からない。そこでNGOの高橋さんに2人が来なくなって1週間が経つという話したところ、
「失礼なヤツらね。私から連絡しておきます」
と言ってくれたのだが、それでも2人は来なかった。設計の仕事は建築家の中原さんに頼まれてデラドゥーンのミンドルリン僧院の新しいチョルテン(仏塔)を3Dで作った程度(VectorWorksで苦労してモデリング&レンダリングしてビットマップファイルで出力してあった。ビットマップなので綺麗な輪郭線は表現できなかったが、それでもN氏は上機嫌でレストランに来ていた外国人旅行者にそれを見せびらかしていた)で、あとは何もする事がない。暇な日々が何日も続いていた。

日本にいたらこういうときにはアルコールを飲んで時間を潰していたのだが、ここはインドだ。連続飲酒の泥沼に陥ってしまったらどうしようもない。デリーへタクシーで送られ、強制送還になってしまうだろう。それだけは避けたかった。せっかく来たインドである。3ヶ月は初心貫徹したい。根性でアルコールが止まっていたわけではなく、インドで潰れたらどうしようもないという心配もあったが、毎日、ヒマラヤを拝んでいると、ごく自然に飲酒欲求が湧いてこなかったから不思議である。これもヒマラヤのパワーか・・・
レストランに置いてある「旅行人」のバックナンバーも大概読んでしまっていた。マクロードの町を徘徊するといっても1時間もあれば全て見学できる町である。カンチェン・キションの図書館やメンツィーカン(チベット医学暦法大学、カンチェン・キションの横にある)を見学するなら話しは別だが、そこまで行くとなると帰りの坂道がしんどい。タクシーやリキシャに乗ればいいじゃないかと言う話しもあるが、そこは貧乏性の私である。歩いていける所は歩く主義だ。そうやって何をして暇を潰そうかと考えていた所にダンスワークショップの話が入ってきた。
数日前の夕食の時、レストランのマネージャーの奥さん直子さんが
「今度、毎年ダラムサラでダンスのパフォーマンスやワークショップを開いているLeeさんが来てまたワークショップをやるらしいのですが、PEMAさんも参加してみてはどうですか?身体や心がリラックスできると言う話しですよ」
そういえばレストランで昼間、ボランティアのノリちゃんがポスターを作製していた。
Lee氏によるダンスパフォーマンスとワークショップは2001年10月15日から10月21日にかけて、9-10-3の屋上で行われた。このイベントは1998年から毎年行われており、2001年は4回目だった。タイトルは「ふれあい道」だ。
Dance Rhizome
Butoh Performance & Workshop
15th to 21th October, 2001
このダンスパフォーマンス&ワークショップの前年、2000年に行われた三回目になるMr.Lee&Michie(日本人)による『暗黒舞踏』系モダンダンスパフォーマンスにはリチャード・ギアとダライラマ法王の妹ジェツンペマ女史も見に来ていたらしい。
Lung-ta Restaurant‘S Event
Post-Butoh Dance
15th to 25th March, 2000
リーさんたちは、世界を股にかけるダンサー集団『Dance Rhizome』のメンバーで、各地でリゾーミング・ワークショップをする予定であるという。
2001年10月15日の午前中、階段横の私の部屋でCADを触っていた私は、多くの人々が階段を登って屋上に行くけはいを感じた。興味があったので私も屋上に言ってみると、白人の集団と、日本人の女の子がワークショップに参加するために集まっていた。たぶん今日も2人は来ないだろうな~~~と思い、一応、
「今日は屋上でダンスのワークショップを受けています。来たら屋上まで呼びに来てね」
といった張り紙を扉に貼っておいて屋上に向かった。
屋上では9-10-3の滞在者の洗濯物がいつも干されているのだが、この日は取り払われており、テントが設営されていた。階段のペントハウスの横でCDプレーヤーを準備したり、ストレッチをやったりしているのがLee氏だろう。日本人だと聞いていたので、
「今日は私も参加させて頂いてよろしいですか?」
と聞いてみた。すると、
「是非、参加してください。最初は簡単なストレッチとダンスの基本をやります。とりあえずこの紙に名前とメールアドレスを書いてください。それと今回のワークショップのレジュメを書いてきたのでよんでみてくださいね」
そのときのLee氏が書いた文章であるが、私はこの中で「なぜダラムサラがスペシャルなのか?」という文章に惹かれた。
少し抜粋させていただく。
「この地ではヒマラヤ山脈を越えて亡命してきた多くのチベット人と、元から住んでいるインド人、もっと前から暮らしている猿や鳥、牛やヤギ、そして世界からこの地を訪れる各国外国人が狭い土地に共存して生きている。何せ「道が5本しかない」狭い土地だ。そこに何千何万かの人や動物が同居している。「袖振り合うも何かの縁」、すべての人や動物がそのことを理解して互いの存在を尊重しあって生きている。人と動物、人と自然とがいかに限られた空間を分かち合って生きていくべきか、生の「ふれあい道」の手本がここには存在している。こんな地は世界のどこでも見たことがない」
外国人相手だから当然、英語のレジュメであったが、分かりやすい英語で書かれていたのですらすらっとよんでしまえた。ダンスというとクラブで大音量のハウスミュージックで踊り狂う事しか頭に中にない私にとって、アート系のダンスパフォーマンスのことはよく分からない。レジュメに書かれていた「タシデレ!ウエーブ」とは一体なんなのか?「How are you? スパイラルへ」とか何とか書かれていたが、どういうことだろう?
ハウスで踊るのなら得意中の得意である。だが、Lee氏はなにやら環境音楽のような音楽を流していた。初日に参加していたのは、およそ15名ほどだったと思われる。用意が出来たところで皆裸足になって輪になった。その後、自分の方から空気の波を送ったり、逆に相手の波を受け取ったりする練習から始まった。おそらくこれが「タシデレ!ウエーブ」なのだろう。普段はテリトリーを守っている日常身体を開放し、相手の波動を受け止める。入ってくる人と身体のスペースを入れ違えるなり、それとも入ってくる人と一緒のベクトルで動くなり、いろんな迎え方で相手を迎えることができる。人と人とのコミュニケーションの重要なポイントだが我々は忘れがちになっている。
では「How are you? スパイラルへ」とはなにか?
相手のスペースに入ると流体化した相手のからだの回りにいくつもの螺旋の渦が出現していることが感じられる。その螺旋の線に沿って自分のからだのどこかをすりあわせるように動かしてみる。二人の心身の相互作用がうまくいったときにだけ何ともいえない快感が生まれる。そういえばペアになったベルギー人の女の子(もちろん彼氏あり)はこの「How are you? スパイラルへ」の練習中に恍惚とした表情だったのを覚えている。その後は日本人の女の子とペアになったり、ベルギー人の男とペアになったり、イスラエル人の女の子とペアになったりして1時間半ほどの最初のワークショップは終了した。昼食の休憩をはさんで午後もやるそうだ。私は午後からはツェリン・ドルジェとロプサン・ダワ・ラが来るかも知れないと思って初日のワークショップは午前中だけにしたのだが、その後、結局ワークショップ開催中彼らがくる事がなかったので全て参加した。しかも最終日の発表会にも参加して100人近い観客の前で皆で踊る事になる。
最後まで参加していたのは私を除くと以下の8名だ。確か3人がイスラエル人、4人がベルギー人、最後のyeshiだけがチベット人である。
bonishijima
gerritveronica
gilat77
niritk
shluki
troypenze
tsjabuko
yeshigyaltsen

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