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21.抵抗は続く

1950年代に始まるチベット人の抵抗運動は場所や形態を変えながらも現在に至るまで続いているが、チベット問題の根本的な解決にはまだ程遠いのが現状である。チベット人の自由を叫ぶ抗議の声はいつも、中国当局の暴力によって踏みにじられており、チベット本土のあらゆる町に監視カメラが設置され、チベット人たちは日々、四六時中監視されている。そのような状況の中で、ここにきて新たな抵抗の形が出現した。焼身抗議である。
チベット本土において、2009年2月27日、ンガバのキルティ僧院の僧侶のタペが初めて焼身抗議を行い、死亡した。2009年2月以降、2012年4月19日まで、チベット本土において焼身抗議を行った人々は下記のとおりである。
【1】タペ(アムド地方ンガバ・キルティ寺僧侶/20代/入院中)
2009年2月27日、僧院で法要が禁止されたことへの抗議として、ンガバ中心部の路上で、チベット国旗とダライ・ラマ法王の写真を掲げ自らの体に火をつけた。武装警察の発砲を受け、連れ去られた。
【2】プンツォク(キルティ寺僧侶/20歳/死亡)
2011年3月16日、ンガバ中心部の路上で「ダライ・ラマ法王の帰還を」「チベットに自由を」などと叫びながら自らの体に火をつけた。この日は2008年のキルティ寺での抗議行動から3年目。
【3】ツェワン・ノルブ(カム地方タウ・ニンツォ寺僧侶/29歳/死亡)
2011年8月15日、チベットの自由、ダライ・ラマ法王の帰還を求めて、タウ中心部の路上で自らの体に火をつけた。
【4】ロブサン・クンチョク(キルティ寺僧侶/18歳/入院中?)
【5】ロブサン・ケルサン(キルティ寺僧侶/18歳/入院中?)
2011年9月26日、2人で「ダライ・ラマ法王に長寿を」などを叫びながら、ンガバ中心部の路上で焼身抗議。警察に連れ去られた。
【6】ケルサン・ワンチュク(キルティ寺僧侶/17歳/入院中?)
2011年10月3日、ンガバ中心部の路上で、ダライ・ラマ法王の写真を掲げ、中国政府への抗議を叫びながら自らの体に火をつけた。当局に連行され消息は不明。
【7】カイン(元キルティ寺僧侶/18歳/死亡)
【8】チュペル(元キルティ寺僧侶/19歳/死亡)
2011年10月7日、ンガバ中心部の路上で、2人は手を握り合って体に火をつけた。カヤンのいとこタシは2008年の中国当局による弾圧で殺害された。
【9】ノルブ・ダムドゥル(元キルティ寺僧侶/19歳/死亡)
2011年10月15日、ンガバ中心部の路上で「チベットに自由と独立を」「ダライ・ラマ法王の帰還を」などと叫び焼身抗議。
【10】テンジン・ワンモ(尼僧/20歳/死亡)
2011年10月17日、自らの属するンガバ・マメ寺近く(ンガバ近郊)で、ダライ・ラマ法王の帰還や信仰の自由を求めて焼身抗議。
【11】ダワ・ツェリン(僧侶/38歳/僧院内で治療中)
2011年10月25日、カム地方カンゼ寺の中庭で法会に参加している最中、灯油をかぶって自らの体に火をつけ、中国の支配に抗議の声を上げた。
【12】パルデン・チュツォ(尼僧/35歳/死亡)
2011年11月3日、カム地方タウの街中で焼身抗議。ガンデン・チャンチュプ・チュリン寺の尼僧。
【13】テンジン・プンツォク(元僧侶/40代/死亡)
2011年12月1日、カム地方チャムド・カルマの政府庁舎近くで焼身抗議。名刹カルマ寺の元僧侶。僧侶拘束に抗議する遺書を遺した。「チベット自治区」では初。
【14】テンニ(元キルティ寺僧侶/20歳前後/死亡)
【15】ツルティム(元キルティ寺僧侶/20歳前後/死亡)
2012年1月6日、2人ともにンガバ中心部のホテルの中庭で自らの体に火をつけ、路上で「ダライ・ラマ法王の帰還を」「法王に長寿を」などと叫んだ。
【16】ソナム・ワンギェル(ソバ・リンポチェ)(僧侶/40代/死亡)
2012年1月8日、ゴロク・ダルラクの路上で、チベットの自由とダライ・ラマ法王の帰還を訴え焼身抗議。養老院や孤児院を運営し、地域の尊敬を集める僧侶だった。遺言の音声や遺体の写真も公開された。
【17】ロブサン・ジャムヤン(ンガバ・アンドゥ寺の元僧侶/22歳/死亡)
2012年1月14日、ンガバ中心部の路上で、ダライ・ラマ法王の長寿とチベットの自由を叫んで焼身抗議。火傷と武装警官らの暴行により入院後に死亡した。
【18】ソナム・ラプヤン(35歳/入院中)
2012年2月8日、カム・ティドゥ県ラプ郷で焼身抗議。前日、同県シルカル僧院で1400人規模の抗議行動、ザトゥ郷の僧院でも抗議行動があった。
【19】リクジン・ドルジェ(元キルティ寺僧侶/19歳/死亡)
2012年2月8日、ンガバの第二小学校前で焼身抗議。警察に連れ去られ病院に移送。
【20】テンジン・チュドゥン(尼僧/18歳/死亡)
2012年2月11日、【10】マメ寺の尼僧。焼身抗議後、警察に連れ去られた。
【21】ロブサン・ギャンツォ(キルティ寺僧侶/19歳/不明)
2012年2月13日、ンガバ中心部の路上で中国政府への抗議のスローガンを叫び焼身抗議。警察に連れ去られた。
【22】ダムチュ・サンポ(僧侶/38歳/死亡)
2012年2月17日、アムド地方テムチェン県センゲ郷のボンタク寺で焼身抗議。僧院は数年前から当局の厳しい監視下にあった。
【23】ナンドル(18歳/死亡)
2012年2月19日、アムド地方ザムタン県バルマ郷のザムタン・チョナン寺近くで焼身抗議。
【24】ツェリン・キ(女子学生/19歳/死亡)
2012年3月3日、アムド地方マチュの野菜市場で焼身抗議。チベット族中学の学生だった。甘粛省では初めて。「現地からの情報として、炎に包まれた女子学生に向かって市場の漢族の商人らが石を投げていたと伝えています。」とNHKも報道。マチュの中学生たちは2010年に抗議デモを複数回行ない、実刑を受けた者もいる。
【25】リンチェン(32歳/死亡)
2012年3月4日、ンガバ・キルティ寺入口近くの監視事務所の前で焼身抗議。4児の母。
【26】ドルジェ(18歳/死亡)
2012年3月5日、アムド地方ンガバ県内で焼身抗議。
【27】ゲペ(キルティ寺僧侶/18歳/死亡)
2012年3月10日、アムド地方ンガバの軍の駐屯地近くで焼身抗議。
【28】ジャムヤン・ペルデン(僧侶/38歳?39歳?/治療中)
2012年3月14日、アムド地方レプコンのロンウォ寺前の広場で焼身抗議。
【29】ロブサン・ツルティム(キルティ寺僧侶/20歳/死亡)
2012年3月16日、アムド地方ンガバの路上で焼身抗議。
【30】ソナム・ダルギェ(農民/43歳/死亡)
2012年3月17日、アムド地方レプコン・ロンウォ鎮の野菜市場近くで焼身抗議。
【31】ロブサン・シェラプ(キルティ寺僧侶/20歳/死亡)
2012年3月28日、アムド地方ンガバ・チャ郷の路上で焼身抗議。
【32】テンパ・タルギェ(僧侶/22歳/死亡)
【33】チメ・パルデン(僧侶/21歳/死亡)
2012年3月30日、アムド地方ギェルロン・バルカム(ンガバ州の州都)市内で焼身抗議。2人ともツォドゥン・キルティ寺の僧侶
【34】チュパック・キャプ(20歳前後/死亡)
【35】ソナム(20歳前後/死亡。★計27人)
2012年4月19日、アムド地方ンガバ州ザムタン県バルマ郷のザムタン・チョナン寺近くで同時に焼身抗議。2人は従兄弟だった
2012年1月23日の中国の旧正月、本土のチベット人がこれを哀悼の日として平和的デモを行ったところ、中国治安当局と民兵は無差別発砲し、炉霍県(ダンゴ)で4人、色達県(セルタ)で2人、壤塘県(ザムタン)で1人の合計7人が惨殺された。また、ダライ・ラマ法王の長寿を祈るのに絶好の日とされる「白い水曜日」の2月8日にも、同様の平和的デモが、嚢謙県(ナンチェン)、トリンド、ザトゥ、ゴロク、金川県(チュチェン)、チャブチャなどで行われた。しかし、中国政府はチベット人が居住する大半の地域でインターネットと電話を不通の状態にし、とりわけデモが起きた地域での通信を遮断したため、これらの場所でどの程度の弾圧が行われ、どれほどの人々が殺され、拷問を受け、拘束されたかは定かではない。現在、チベット人居住地域は実質的に戒厳令下にあり、中国政府はチベット人全体があからさまに「宣戦布告」したような状態にある。
こうした状況に対して、チベット亡命議会は緊急を要するチベット本土の情勢について、プレス声明を通じて中国政府と国際社会への訴えを続けている。また、亡命議会の代表団はニューデリーに赴き、急速に悪化するチベット情勢についての説明を各国大使館で行なった。そして、チベット亡命議会は改めて中国政府と国際社会に対してアピールを発表し、中国政府と国際社会に訴えている。

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