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12.おわりに

第1次大戦後、ミュンヘン大学の地政学教授となったハウスホーファーは、ランズベルク刑務所において運命的な出会いをする。1923年、ミュンヘンのビヤホール暴動に失敗して捕らえられていたアドルフ・ヒトラーとの会見である。ヒトラーの片腕であり、ハウスホーファー教授の助手でもあったルドルフ・ヘスのテコ入れによって実現したこの出会いをきっかけとして、ナチス神秘主義の火ぶたは切って落とされることになる。
ハウスホッファーは毎日のようにヒトラーを訪れては、ユダヤ人によるドイツ支配を崩し、優秀なゲルマン民族によって全世界が支配されねばならないと説いた。そしてこの時、ハウスホーファーは『来るべき種族』をヒトラーに貸し与えたのである。
独房の中でページをめくるヒトラーは、強い興奮を覚えた。ハウスホーファーの解説により、この奇書が事実に基づいて書かれたものだと知らされたヒトラーは、自分たちこそこの小説に書かれた「来るべき民族」にほかならないと信じたのである。
更に、1925年、オッセンドウスキーの『獣・人間・神々』が出版され、地底の超人たちの存在に関するヒトラーの確信は不動のものとなった。おそらく彼の頭の中では、ヴリル・パワーとアガルタ伝説とが同一のものとしてとらえられていた。彼は、学者たちに命じてブルワー・リットンの生活を詳しく調査させ、リットンがヴリルヤにいたる坑道を発見した鉱山の正確な場所、そして訪れた日時までを割り出させた。また、1936年にはバルト海のリューゲン島やチェコスロバキアで、地球が空洞かどうかの入念な科学的調査が行なわれた。(もちろん、これらの調査は何の成果もあげることはできなかった)
一方でヒトラーは、アガルタと深いかかわりがあるはずのチベットの僧侶たちを大勢ベルリンに迎え、彼らが受け継ぐはずのヴリルの技法によって、世界を征服しようとした。これが先に述べた「緑の男の会」として知られている秘密結社のメンバーである。
彼らは、ベルリンの随所に配置され、ナチスの勝利を祈る儀式を行なっていたらしい。そして、ヒトラー自身も、政策を進める上で、高位の僧侶に意見を求めることがしばしばだったという。またこの僧侶たちは、ナチスの新聞紙上に幾つかの公開予言を発表したこともあった。こうした事実こそ、陥落したベルリンで発見されたチベット人たちの死体の謎の真相である。

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