見出し画像

君はKiller7を知っているか?

まず初めに質問をする。

『狂い咲き桜満開』

この読み方を考えてみてほしい。普通の人は『くるいざきさくらまんかい』と読むだろうが、正しくは『クレイジーフラワーサンダーロード』である。何を言っているのか分からないと思うが、今回、紹介するゲーム……

『Killer7』においてはそう読むのだ。

Killr7って?

Killer7はグラスホッパー・マニファクチュア開発、2005年にカプコンから発売されたアクションアドベンチャーゲームであり、当時ゲームキューブで唯一『CERO:Z』で発売されたカルトゲーにも分類されるゲームであり、のちに暴力や性的表現がカットされたPS2版が発売。近年ではsteamでGCオリジナル表現版を遊ぶことができる。

内容を説明すれば、主人公の車椅子の老人『ハーマン・スミス』は『多層人格』と呼ばれる能力を宿しており、人格を変更することで肉体そのものが別人に変化してしまう能力を駆使し、都市迷彩を身にまとい自爆攻撃を行う『ヘブンスマイル』と呼ばれる生体兵器を倒しながら物語を追っていく……

というものなのだが、当時、ファミ通キューブ+アドバンスというゲームキューブとゲームボーイアドバンスのゲームを主に取り扱うファミ通の姉妹紙を購読していた筆者にとって、『ゼルダの伝説風のタクト』などで使われ流行の表現感があったがそれでも異色なトゥーンレンダリングの独特な表現と、マリオやカービィの新作などに交じり、記事に掲載された画像に漂う異様な雰囲気、車椅子の老人が主人公などという要素をもってして一目で『ただ者ではない』と感じさせるものがあった。それは数か月に一度発表される情報を追うごとに確信を増し、付録でついていたDVD収録のPVを見た時、かっこよさにひっくり返ったのを覚えている。

そもそもこのゲームは……雰囲気とカッコよさに全振りをしているゲーム……というよりはもはや前衛的な芸術作品の趣がある。

本作の監督から脚本、ゲームデザインなどを手掛ける須田剛一氏の独特のセンスは『シルバー事件』、『花と太陽と雨と』、『ノーモアヒーローズシリーズ』などで炸裂しており、良く言えば刺さる人に刺されば一生抜けない衝撃を与えるゲームを作るし、悪く言えば怪作や奇作、独りよがりなオナニーのような文章の続くノベル、インフルエンザの時に見る不条理な夢のようなものと評していい。例えば、氏は無類のプロレス好きであり手掛けた作品には大抵プロレス要素が入っているのだが、かつてヒューマンから発売されていたプロレスゲーム、ファイヤープロレスリングのストーリーモードの脚本を手掛けた際、主人公は最後自殺してしまうというなんとも癖の強いシナリオを書いている。実際、Killer7という作品も、筆者はそれこそ何十周とプレイしたのだが、いまだにこれがどういう話なのか?というのを説明する舌を持たない。欧米などではキリスト教的な観点から考察がなされたりしているそうなのだが……正直言ってこのゲームは不条理の塊だ。世界観は現代ベースではあるが、ストーリー展開は奇想天外というよりは次々と飛び出る語句で何となくわかるような気がするものの、その本意は理解不能だし、登場人物の会話は哲学的なのか啓示的と言っていいのかわからないが、率直に言って意味不明だし、そもそもかつて公開されていた公式ページの記述や副読本(設定集)などと本編の内容に明らかな矛盾や抜けすら生じている。時折メタ要素を挟んでもくる。ガンシューティング部分も普通だ。しかしながらすべてのシーンが例外なく、しびれるほどにイカしている。これがロックだ。とでも言わんばかりに。

ゲームシステムも驚くほど奇妙ではあるが考えられており……このゲームはAボタンを押すとキャラクターが決められた道線に沿ってレールのように動き、時折ジャンクションといって分かれ道のように移動する道を決定できる。つまりスティックで自由にキャラクターを操作できないそのシステムに最初こそ戸惑うが、慣れれば快適に移動できるし、自由に動けないからこそ計算されたカメラワークなどもキマっている。まさしくどうすればかっこいいのか? を考えて作られているシステムなのだ。そこに高田雅史氏のアンビエントなサウンドや最初にあげたような特徴的なルビを駆使したセリフ回し、シナリオパートの字幕で赤く、妖しく蠢く『殺』の文字のタイポグラフィーなどが合わさったこのゲームの体験は他では味わえないものだろう。

何をどう考えても確実に人を選ぶゲームであるのだが、あなたがこのゲームのPVを見て、『ビビッとキた』ならばその一点だけで、このゲームをプレイする価値がある。ハードでドライでナイフエッジな不条理世界をぜひとも体験していただきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?