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手術後の 「初めて」 ② 〜ヘアカット〜

抗がん剤で脱毛した頭の毛は、手術から2ヶ月も経った頃には少しずつふわふわと生えてきて、3ヶ月の頃には、もう襟足の方は帽子の下からも見えるようになった。
5月の連休明けにはベリーショートだと言えるほどにはなって、近くのスーパーまで帽子なしで行ったりできるようになった。
前髪は短いままだったけど、耳の上と襟足の毛は元気に伸びてきて、5月も半ばを過ぎると、母からも、
「鳥が巣でケンカしたみたいになってきてる」
と言われてしまうほどだった。

新しく生えてきた髪の毛はやはり聞いていたとおり癖っ毛で、ボサボサうずうずと伸びてきて、全体としてもアンバランスな感じになっているのはわかっていた。
それでもまだ、伸びてきてくれた髪の毛たちがいじらしくて、ずっと切れずにいた。
バカみたいだけれど、
「ボクたち、やっと帰ってきましたよ」
と言われているような気がして仕方なかったのだ。

そして今月の病院の帰り道。通っている美容院に寄ってみた。(たまたまだけれど、病院と美容院は同じ駅にある)
前髪は依然としてまったく伸びてきてくれないけれど、耳の上の毛も後ろの毛も、今月に入ってから、ようやく、
「オッケー! ボクたち、やっと満足した気がします」
と言ってくれ始めた気がして、美容師さんにほぼ一年ぶりに顔を見せつつ、髪を染めるべきか相談がてら、来月の予約を入れようと思ったのだ。
(母に似て、私は早くから白髪が生えて、今は頭の上半分はほとんど真っ白である。頭の下半分側は黒い髪が多いので、ちょっと不思議なツートーンになっている。髪もくるくるしているので、後ろだけでみると、ちょっと犬みたいに見える)

私が20歳過ぎの頃から通っているので、担当してくれている美容師さんはいまや40年弱の付き合いである。
顔を見せると、ただ相談して予約を入れるだけのつもりだったのに、ちょうどお客さんが最後だったタイミングだったらしきこともあり、相談も何も、こちらが何を言うより前に、椅子に座らされ、横と後ろのうずうずはみ出していた髪たちを、ざくざく、ささささっと切り出した。
「手術も終わって、治療ひと段落お疲れさま祝いってことで」
と、カット代はサービスしてくれた。

あんなにいじらしく思えて切れずにいたのに、初ヘアカットはこうして終わった。
すっきりして、いい感じになって、満足だった。
前髪がまったく伸びてきていないのが少し照れ臭くて、そう言うと、
「そこは一番最後だから! 大丈夫」
何が大丈夫なのか分からないが、前髪は一番最後らしい。
髪を染めるかについては、
「何度も言うけど、石田ゆり子さんと近藤サトさんは同い年だから! どっちを選ぶもよし、どっちを選ぶかは君次第」
とのことだった。(ちなみに、白髪の範囲の白黒が逆になる(頭の下の方が白で、上の方が黒い)ことは絶対にないそうだ)
いずれにしても、髪をちゃんとカットするのも、どう染めるかも、もっと伸びてきてからでいいとのことで、しばらくはこのツートーンの白黒ワンコのようなベリーショートで夏を過ごすことになりそうだ。

手術後の「初めて」というよりも、治療を始めて以来の「初めて」だったかもしれない。
美容院に行くのはずっと面倒だったけれど、次に美容院に行くのはいつになるのか、今は少しだけ楽しみに思える。

長らくお世話になってきた帽子たちにも感謝。

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