見出し画像

鋼鉄でできた秘境は人工衛星の高性能カメラで撮影すると一面グレーの砂漠のようだ。だから誰も気にも留めなかったし、そもそもそこに生きて辿り着くには周囲を球状に取り囲む磁気嵐の壁を抜けなければならない。あらゆる機械は破壊され、さらには動物の神経的な働きを大きく狂わせるそれは全ての生物の侵入を明らかに拒んでいた。
しかし私はひょんなことから、2月上旬の数瞬、北東にある山脈に繋がる経路において磁気と磁気の隙間のようなものが現れることを発見した。この山に身を追われたことを感謝したのはこの時が初めてだった。山脈は磁気嵐の影響を受けて厚い雲が覆い薄暗い。その中を這うように生活する私の目は光に過敏に進化したのだろう、ある夜から朝にかけた時間、霧のむこう、わずかにオレンジとブルーが混ざって発光する現象を見逃さなかった。ついに頭がおかしくなって幻を見たかと思ったが、それは近づくにつれて大きな光となり、気がつくと私は鋼鉄の秘境に続くなだらかな道に出ていた。衛星に捉えられないのは不思議なほどの発光であったが、恐らく巨大な嵐の中にある一筋の抜け道であるが故、この場所が隠され外部から観測されないのだろうということは容易に想像できた。
暫く歩くと光が徐々に途切れ、信じられないことにその先に色とりどりの花が咲き乱れる様子が確認できた。ふと振り返ると背後も一面花畑であり光の道はどこにもない。空は青い。私は恐ろしくなった。私にはこの花を摘み帰る家がない。初めて何か歌のようなものが浮かんだ気がしたがそれは喉の奥で掠れて消えてしまった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?