坂戸市でのワークショップレポート〜「全く新しい坂戸妖怪」が生まれる場を捉える〜
妖怪研究家の市川寛也先生と一緒に「全く新しい坂戸妖怪をつくろう!!」というワークショップを行っています。
舞台は埼玉県坂戸市。私がコミュニティー・スペースで勤務していた際に坂戸市の民話をテーマにしたまち歩きを行い、偶然撮影された手ブレ写真を使った表現が生まれたという体験があったため、「ぜひ坂戸を舞台にワークショップができたら…!」と思ってのことでした。
ワークショップは全3回。
〇第1回目
・7月に開催し、市川先生による「妖怪採集」を行いました。坂戸市の萱方地区にある築120年超の古民家である春皐園(しゅんこうえん)さんから浅羽野地区にある土屋神社までの道中、参加者の方々と対話しながら妖怪の気配を感じる物や場所、音、空気感などを探します。
普段は見過ごしてしまうような謎の三角地帯や看板、折れた竹、塀に塗られた赤い線など、一つひとつの風景が異界へと繋がっているような不思議な感覚を味わうことができました。
〇第2回目
・8月4日(日)に開催し、「妖怪採集」で集めたコラージュ素材(「こらくた」)を使ってコラー獣づくりを行いました。今回のブログで詳細をお伝えいたします。
〇第3回目
・9月8日(日)に開催予定。これまでのワークショップを振り返り、土屋神社に伝わる「テンマサ」(昔、2つあったという太陽のうちの1つを弓矢で破壊したという伝説や、土屋神社の神木杉に棲み、近くを通る人を脅かしたため地元の方々から恐れられていたという言い伝えがあります)に因んだお札を紙版画で作ります。
今回は第2回目のコラー獣づくりの様子をお伝えします。
「脚折雨乞」の見学
ワークショップが始まる前、ご都合が合う方々と一緒に、坂戸市のお隣である鶴ヶ島市で4年に一度(前回はコロナ禍で開催が見送られたため8年ぶりの開催とのこと!)開催される「脚折雨乞(すねおりあまごい)」という神事を見学しました。
ワークショップの時間の都合上、最初に行なわれる渡御の儀と出発の場面のみの見学。伝承に因んで群馬県の板倉雷電社の御神水を注いで龍神となる瞬間を見ることができ、心が震えました。
ワークショップスタート!「妖怪採集」のシェアタイム
※写真について、参加者の方々から許諾をいただき掲載しております。
脚折雨乞の会場から坂戸市中央地域交流センターへ移動し、いよいよワークショップがスタート。
参加してくださったのは、小学生が2名(2年生と5年生)、大人が私を含めて5名の計7名。
第1回目は坂戸市にお住まいの方の参加がありませんでしたが、今回は坂戸市内にお住まいの方が2名(小学5年生の男の子と大人の方)参加してくださいました。
初参加となる方々もいらっしゃるため、はじめに「妖怪採集」の概要と歩いたルート、見つけたもの、さらには土屋神社に伝わる「テンマサ」について私から説明させていただくことに。
参加者の方々の中で話題になったのは、こちらの看板。「妖怪採集」の前後では全く違った意味に感じると盛り上がりました。
写真を使って前回の様子をシェアしている際、坂戸にお住まいの方から
「歩いたコースに『いぼ地蔵』があったのではないか?」
という情報をいただきました。
「いぼ地蔵」とは、土団子を供えるといぼが治るという言い伝えが残されているお地蔵様のこと。
現在は新しく作られたお地蔵様が「一本松」という交差点付近につくられており、その近くにかつての「いぼ地蔵」が残されているそうです。
さらに、坂戸市在住の小学5年生の男の子から
「土屋神社には時々遊びに行くよ。小学校高学年になると学校の授業でも歩いて行くことがある。大きなお祭りも開かれて、家族で行ったんだ!」
という情報が!
市外・県外から参加した方々の発見と、市内に住む方々の視点とが混ざり合った瞬間でした。
「こらくた」観察
シェアタイムの後は、「妖怪採集」の時に参加者の方々が撮影した 「こらくた」(=collage×actor、actantの造語。コラージュ素材)を机に並べて観察。
参加者(特に小学生の2名)が注目した「こらくた」は、こちら。
〇「なんだか骸骨みたい!」―民家の前に置かれていた謎の物体
〇「元・瓦かも知れない!」「土管っぽい!隠れているのかな?何かの住処かも!」「(空洞部分が)人型みたい!」「石に紛れて妖怪がいるのかもしれない!」―神社で見つけた瓦のようなもの
〇「馬みたい!」―春皐園さんの近くにあった木
〇「なんだか、こういうポケモンいる!」―土屋神社にあった岩
机に並べられた「こらくた」を見て「なんだか、かるたみたい!」と呟いた小学生。それ自体がどこか妖怪的な雰囲気を持つ「こらくた」を参加者の方々同士で対話しながら観察したことで、イメージが一層膨らみました。
「コラー獣」づくり
観察した「こらくた」を使って、「コラー獣」づくり。はさみを使って「こらくた」を思い思いの形に切り抜いて並べ、ピンと来た形ができたら糊で貼っていきます。
制作過程の中で、参加者の方々から素敵な呟きがありました。
春皐園さんにあった机の「こらくた」を選んだ小学5年生の男の子。
「最初は間抜けな顔に見えたけど、これ(植物の葉)を付けると凛々しくなった!」
素材を組み合わせるからこそ生まれる見え方の変化。コラージュという表現方法ならではの発見をしていただけたことが嬉しかったです。
小学2年生の男の子は浅羽城跡が写った背景素材を選び、先ほど「馬みたい!」と話していた素材を切り抜きました。
この「こらくた」が顔部分になると思いきや、楕円形の石や紫陽花の「こらくた」を切り抜いて並べ、最終的には真ん中の石の部分に一つ目がある「コラー獣」が完成!
参加者や一緒に参加してくださったお父様とのやり取りの中で
こうして、「頭に付いている花で人々の気を惹き、油断したところで襲いかかる」という生態系が生まれました。
切り抜き並べるというプロセスの中で新たな「こらくた」の観察が行われ、よりしっくりくる顔部分のイメージが生まれたのでしょう。
また、コラー獣の生態系についても予め全てを決めて制作したわけではなく、作ったコラー獣を発表する場面で生まれた参加者とのやり取りの中で改めて作品を観察したことによってイメージが膨らんだのだと思われます。
「人を襲う」というイメージと「花」が持つイメージとの関連性を持たせるため「誘き寄せる」という生態系がお父様や参加者の方々とのやり取りの中で生まれたことに感動しました。
新たに生まれた〝技〟
ワークショップの中で参加者の方々に
「コラー獣づくりをした後に出る、切り抜いた後の紙の使い道に悩んでいるんです💦何か良い活用方法や、それに限らず新たな表現を思いついたらぜひぜひ教えてください!」
と投げかけた結果、次のような〝技〟が生まれました!
○裏側から見て光にかざす
まずは、小学5年生の男の子が考えた「裏側から見る」という〝技〟。
一度作ったコラー獣を裏側から見て光にかざすと、表から見るのとはまた違った雰囲気に。彼が「(影になって)黒っぽいのが、本当に妖怪みたいな感じ」と話していたように、表側から見るのとはまた違って不思議と妖怪感が増します!
○切り抜かれた紙でステンシル
ほぼ同じタイミングで、小学2年生の男の子は「こらくた」を切り抜いた後の紙をステンシルシートのように使うという〝技〟を編み出しました。
黒い色鉛筆で行うことで、先程の「裏側から見る」という〝技〟と同様にシルエット感が増します。
やがて、一緒に参加してくださったお父様とのやり取りで目や口が描き加えられました。
○余った素材でフレーム作り
「ゴミ・ゼロ」を目指して切り抜いた後の紙の活用方法を考えてくださった参加者の方。切り貼りしてフレームを作るという〝技〟を考え、その中に骨格標本のようなコラー獣を表現されていました。
これまでは背景素材をこちらで印刷して作っていましたが、余った紙を使ってフレームを作るという手もあったか…!今度私もチャレンジしてみたいです。
伝播・変容していく〝技〟
ワークショップの中で私が興味を持ったのが、こうした〝技〟が伝播・変容していく様子です。
ワークショップは長机を向かい合わせる形で座席を用意し、真ん中に「こらくた」を置きました。また、冒頭に振り返りのシェアタイムを設けたことで、参加者の方々が交流しやすい雰囲気を心掛けました。
けれど、こうした工夫以上に、参加者の方々が積極的に温かな雰囲気を生み出してくださったからこそ、特にやりとりが活発になったワークショップ中盤〜終盤にかけて〝技〟の伝播や変容が見られました。
同時並行的に起こっているため正確ではありませんが、ほぼ時系列でワークショップの場面の写真と、そこで起こった出来事をまとめていきます。
【場面1】
小学2年生の男の子が考えた「切り抜かれた紙でステンシル」の〝技〟を見て、5年生の男の子は「版画みたい!」と興味を示していました。初めて出会った小学生2人の間でのやり取りが少しずつ生まれていき、とても嬉しかったです。
【場面2】
小学2年生の男の子のお父様がワークショップの雰囲気を温かく盛り上げてくださり、「大人のアイデアは盗んで良いんだぞ〜」と参加者同士の交流(特に、自然とは生まれにくい子どもと大人との交流)を促してくださいました。
造形教育でいうところの「途中鑑賞」の時間を一応設けましたが、このお父様の働きかけがあったことで〝技〟の伝播・変容が豊かに展開したと感じました。
【場面3】
早速、フレームを作るという〝技〟を応用させた小学2年生の男の子。余った紙を切り貼りしてフレームを作りつつ、他の参加者の方々の表現を積極的に見に行く様子がみられました。
やがて、お父様とのやり取りの中で白い部分に絵を描き加えるという新たな〝技〟を編み出しました!
「フレームを作る」「裏側から見る=シルエットを捉える」「ステンシルをし、目や口を描く」という、これまでの〝技〟が混ざり合った結果として生まれたものと考えられます。素晴らしい!
【場面4】
2作品目を作り始めた小学5年生の男の子。
1作品目を作っている時点で「2つ目はこれ!」と、「なんだか骸骨みたい」と話していた「こらくた」を使うことを決めており、宣言通り真っ先に切り抜いて組み合わせていました。
興味深いのが、切り貼りする過程で新たに色鉛筆が登場していること。
ちょうど隣で小学2年生の男の子がステンシルのように描いていたところ(まだ目や口は描いていない)で、その〝技〟が伝播したのだと思われます。
さらに、一度完成したと思われたコラー獣を背景ごと切り抜いて白い紙に貼るという新たな〝技〟を発明!
この部分をメインのコラー獣の部分にし、周りに余った紙を切り貼りしてフレームを作るという〝技〟や、余白に絵を描き加えるという〝技〟を取り入れ、変容させながら作品を完成させました。
最後のコラー獣紹介の場面。少しドキドキした様子の小学2年生の男の子の様子を見て、5年生の男の子が「じゃあ一緒にやる?」と誘い、2人で前に出ました。初めて出会った2人がワークショップを通して仲良くなっていく様子に胸が熱くなりました。
こうして合計12体の「全く新しい坂戸妖怪(コラー獣)」が誕生!
土屋神社に伝わる「テンマサ」に因んだものや、「妖怪採集」で見つけた不思議な物体・現象に因んだもの、それぞれに〝技〟や物語があり、どれも愛おしく感じました。
壮大な伏線回収ー物語が混ざり合うということ
さて、少し時を戻して、完成したコラー獣を紹介する場面。
先程の【場面4】で2体目のコラー獣を作っていた小学5年生の男の子が次のように説明しました。
「上の部分はお年寄り。それで、下の部分は子どもになるのかな。お年寄りは杖を持っているの。『お年寄りと子供に注意』…」ー。
この瞬間、鳥肌が立ち、思わず「おぉっ!」と声をあげてしまいました。
そうです。彼は、シェアタイムで話題になったこの看板に因んだ物語を即興的に紡ぎ出したのです!
なぜ嬉しかったかというと、前回の「妖怪採集」には参加していなかった彼の中に、他の参加者の方々が語った物語が宿り、彼の想像力をもって新たな物語が紡ぎ出されたため。
7月のワークショップで参加者の方々が「お年寄りと子供に注意」の看板を見つけて盛り上がった〝あの〟瞬間にこそ居なかったけれど、冒頭のシェアタイムで周りの参加者が一番盛り上がっていた話題や空気感を瞬時にキャッチして同じ温度感を味わい、その温度感をコラー獣で表現し、ワークショップの最後で伏線回収的な物語を即興で紡ぎ上げるー。
まるで「連歌」のごとく、投げかけられたものの本質を捉え、それに対してメタファーを用いて美しく応じることができた彼の感性に感動しました。「妖怪採集」で見つけた「お年寄りと子供に注意」の看板は、彼が生み出した「全く新しい坂戸妖怪」に対する注意喚起だったのかも知れません。
まとめ
「妖怪」や「民話」ってなんだろうと、まだまだ知識が乏しいながらもあれこれ考えています。
もちろん恐ろしい体験に対する教訓や狭義の教育のための手段として妖怪や民話が用いられたという側面もあるでしょう。妖怪の姿や物語の形を残し、継承していくことも大切だと思います。
けれど今回のワークショップを通して私は、妖怪や民話が持っている伝播し・混ざり合い・変容しながら残り続けるという性質について、その意味や意義について捉えたいと考えました。
囲炉裏や蝋燭を囲い、車座になって語り合うー。妖怪や民話が語り継がれ、その時代・その場・その瞬間にある要素と混ざり合い、新たなバージョンへと変容していった場は、きっと共想像的・共創造的な雰囲気に満ちていたことでしょう。
光と影、空想と現実、生物と物体、それぞれの人々が持つ知識・情報・人生経験などの様々な境界を曖昧にし、かき混ぜ、「正解」「事実」という枠をいとも容易く崩していくような揺らぎを生み出す妖怪や民話の力。その不思議な揺らぎに魅せられ、かき立てられ、働きかけ・働きかけられる混ざり合いの中で、新たな妖怪や民話のイメージが紡がれ続けていったのではないでしょうか。
ちょうど今回のワークショップで見られた、参加者の方々同士の関わり合いの中で生まれた、「こらくた」や〝技〟、アイデア、既存のテンマサの言い伝えや「お年寄りと子供に注意」の看板という現実世界の物などの混ざり合いから「全く新しい坂戸妖怪」が生まれたようにー。
次回のワークショップは9月8日(日)に開催します。ワークショップの詳細およびお申し込みは、こちらのGoogleフォームよりお願いいたします。
第3回目からのご参加も、市内外問わず大大大募集中!ぜひぜひよろしくお願いいたします!
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