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追憶の街(2)〜Time to Leave〜

「K大学前」という名の駅に着いた時、主役さんが電車を降りた。

瀟洒な住宅が並ぶ街を歩いていく。

向かいからは楽しそうに喋りながら坂道を降りてくる学生たち。


不意に俺の頭の中に映像が飛び込んできた。

彼女と一緒に買い物したあと、お気に入りのカフェでランチしたり。

雨の日に傘を持って迎えに来てくれた彼女が笑ってるところとか。

古い映画のフィルムみたいなシーンが流れていく。

そっか。
彼女とこの街で暮らしてたんだな。


くるりと風景が変わった。
図書館かな?青々とした芝生の中庭。

ベンチに座って、真っ青な空をぼんやりと眺めている主役さん。

「空はあの頃と同じだな…」

そんな彼を目を丸くして見つめるショートヘアの女性がいた。

彼女だ!MVの。

視線に気づいた主役さんと彼女、微妙な笑みを浮かべてお互いに歩み寄った。


彼が旅立ったあの日からの、彼女の日々が俺の頭の中を流れていく。

一緒に暮らしていた部屋を引き払った後、
かねてから興味のあった学問を学ぶため、大学院に入り勉強に打ち込んだ。

彼への想いを吹っ切るためでもあったけど。

修士課程を終え、縁があってK大学に勤務していること。

泣き明かした夜もあったけど、今は主役さんの活躍を心から応援している。

最初はぎこちなかった二人だが、すっかり打ち解けて話し込み、あたりは夕闇が迫っていた。


うん、これはもう幸せになってもらうしかないな!

俺は主役さんの隣に座ると思いっきり叫んだ。

「こんな偶然は二度とないぞ。
気持ちを伝えるのは今しかない!!」

俺の叫びが届いたのか、主役さんは彼女の手を取って言った。

「勝手言ってるのはわかっている。
でも今度こそキミを幸せにしたい!!」

うっすらと目に涙を浮かべた彼女がゆっくりと頷く。

良かった! もう絶対にその手を離すなよ。

その時、かすかに電子音みたいなのものが聞こえた。

あ、これ俺のスマホの起床アラームの音だ!

と、いうことは。
そろそろ戻る時間みたいだな。

幸せにね! 

ふたりとも俺に感謝しろよ(笑)


寄り添っている二人に微笑みかけ、俺はこの世界をあとにする。

空には金貨みたいな月が眩い光を放っていた。

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