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【感想】シンフォニック=レイン

ブランド : 工画堂スタジオ
発売日 : 2004-03-26(オリジナル版)

原画 : しろ
シナリオ : 西川真音
音楽 : 岡崎律子

◾️ストーリー

雨が止むことなく降り続ける街ピオーヴァは、音楽家を夢見る若者達が集う、音楽の街でもありました。
クリス=ヴェルティンは、恋人のアリエッタが暮らす生まれ故郷の田舎街から遠く離れ、彼女の双子の妹トルティニタと共に、街のシンボルであるピオーヴァ音楽学院に通っていました。
魔導奏器フォルテールの奏者、フォルテニストになることを目指し、クリスがこの街に来てから2年以上の月日が流れ、季節は冬……。

あと数ヶ月で卒業を迎えるクリスは、フォルテール科の卒業課題として、一月半ばの発表会で、歌唱担当のパートナーと共に、オリジナル曲を合奏しなければなりませんでした。
しかしクリスは、未だにそのパートナーさえ決めようともせず、ただやる気のない毎日を送り続けていました。
週に一度届く恋人からの手紙と、この街に引っ越して来たときに出会った部屋の居候、身の丈14センチほどの小さな音の妖精フォーニが、彼の世界のすべてでした。

雨 ーーー
いつまでも、止むことなく降り続ける雨。

雨音が奏でるメトロノームにのせて、魔導奏器フォルテールの音色を響かせましょう。クリスの奏でる音色と、音の妖精フォーニの歌声が重なり、響き渡る時、何かが起こるのでしょうか?

……さぁ、妖精の歌を奏でましょう。

工画堂スタジオ シンフォニック=レイン 
公式HPより


◾️本作の魅力について(ネタバレ無し)

最高の雰囲気の良さ、最高の音楽。
雨の音が奏でるアンサンブル。


★はじめに

素晴らしい作品に巡り会った時、それが「とても面白かった、感動した、心に残る言葉に出会えた」と色々感想を持つのですが、全てが「好きな作品」とイコールではないと思っています。
それでも「素晴らしい作品である」には間違いないですけどね。

さて、『シンフォニック=レイン』がどうだったかと言えば明確に「好きな作品」でした。

愛にまつわる様々な形を見る事になるので、鬱物語だとも言われたりしますが、その言葉だけではとても足りない優しい想いがありました。

今回の感想は『シンフォニック=レイン HD EDITION』をプレイしたものとなります。
感想の前半はネタバレ無しで自分が思う作品の魅力について。後半はネタバレを伴った感想となります。
たくさんの方に『シンフォニック=レイン』を触れてほしい。
どうぞお付き合いください。


★音楽と雨の音

物静かでどこか儚げな空気感をまとう本作はそれ自体が大きな魅力。雨が降りやまない街ピオーヴァで紡がれた物語と優しい旋律。
“雰囲気が良い作品”という評し方がありますが、本作ほど当てはまる作品は他に無いでしょう。

これはOPムービーを見れば理解します。
あ、これは傑作なんだなと。

OP曲「空の向こうに」
それぞれのかなしみがあって
イエナイナミダがある
In the rain

歌い出し歌詞たった一節に全てがありました。

キリスト教が伝える愛の形を物語の糸口として、人を想う気持ちが、優しくも哀しくも美しくも描かれました。

そんな物語を彩るのは岡崎律子さんの音楽。最高の上の表現があるなら、惜しみなくその言葉を使いたい素晴らしさ。

音楽と物語が優しく溶け合い、この儚げで素敵な世界観が出来上がっていました。

『シンフォニック=レイン』は様々なリニューアルがされ愛を持ってファンの方に届けられた作品です。この世界に魅了された今となってはその理由が分かります。

強い言葉で言えば、世間で称賛する場合に使う名作とは一線を画して、本質的に本作は名作であり傑作なのだと自分は思っています。


★岡崎律子さんの音楽

本作プレイのきっかけは亡き岡崎律子さんの音楽。すぐに心奪われました。
めちゃくちゃに良い。

物語は主人公クリスが音楽学校の卒業演奏の為に、ヒロイン達と一緒に楽曲を演奏しました。
その全てが岡崎律子さんの作詞作曲。
個人的にはフォーニが歌う「I'm always close to you」と、ファルシータが歌う「雨のmusique」が好きです。

フォーニ役の笠原弘子さん、ファル役の浅野真澄さんが歌うバージョンも大好きですが、岡崎律子さんご本人がカバーしたバージョンも至高。これに関しては別で後述します。

本作で使われた楽曲は岡崎律子オリジナルアルバム『for RITZ』でセルフカバーされていて必聴の盤で強くオススメします。
これは持ってた方が良い。

どのヒロインの楽曲も物語の雰囲気に調和していて、曲を聴くだけで『シンフォニック=レイン』の世界に浸れるのはあまりに大きい。雨の日に聴くなら尚更。
本作に惹きつけられる最大の理由となりました。

さて、岡崎律子さんの音楽はアニメファンの方なら親しみがある方も多いと思いますし、個人的にも思い入れがあります。

シンガーソングライターであり、楽曲提供もよくされていたので、ご本人が歌ってなくても耳にする機会はたくさんありました。岡崎律子さんの音楽は独特な泣き節のような、やたら耳に残るメロディーが多いのも思い入れがある理由でしょう。

様々な楽曲を提供している中、古いアニメ作品ですが『アキハバラ電脳組』挿入歌「シンシア、愛する人」という曲が好きで好きで‥‥。
(カバーで大鳥居つばめ役の林原めぐみさんが歌唱してるバージョンも良いです)
あとは『円盤皇女ワるきゅーレ』挿入歌の「Agape」も外せませんね。

どちらの曲も魔性の力があるのか、聴くたびに胸が締め付けられるような、儚くも美しい旋律に気持ちが持ってかれます。
この先もずっと好きな曲なんだろうなー。


★雨の降りやまない街ピオーヴァ

雨が降り続ける街は青空が覗く事などなく、どこか哀しげで閉塞的な空気に満たされています。
ただ不思議なのは鬱屈した負の感情ではなく、雨音が心地良い優しい感情を抱く事。

優しいと言っても幸せに溢れているわけでなく、儚さが溢れている。
儚いとは”淡くて消えやすい”意味で捉えてもらえればよくて、優しい世界が消えゆきそうな焦燥感が常に付きまとうような感じ。
それがそのまま哀しげな空気感に直結するわけです。 

そんな不思議な舞台で音楽を奏でる主人公クリス。音の妖精フォーニも不思議な物語に重要な存在。

彼を想う遠距離恋愛の彼女アリエッタ。
離れた距離を埋めるかのように毎週欠かさない手紙のやり取り。
そして想い合う2人の気持ちを、クリスの横で見守るアリエッタの妹トルティニタ。
公式HPに紹介されている人物構図だけで物語に潜む複雑さが覗き見えます。

リセルシアやファルシータとの出会いも愛の形を別角度から見せてくれます。

雨の降り続ける街を包む雨音は、ヒロイン各ルート全てにアンサンブルを奏でます。
抽象的な伝え方ですが、ネタバレ無しならそうとしか言えないです。



★ I'm always close to you

この曲に関しては少しだけ語らせて下さい。
作中では音の妖精フォーニが歌う曲で、優しさに溢れた名曲です。

『シンフォニック=レイン』の楽曲は岡崎律子さんが闘病生活中に作られたのは有名な話し。
本作の発売1ヶ月後に亡くなった為、本作の楽曲全てが遺作となりました。
その背景を知っているかどうかで捉え方が変わる曲でもあります。

どうか歌を聴きながら歌詞を読んでみて下さい。
短い歌詞です。すぐに読めます。

“それは なによリチャ一ミングなこと”

歌詞に込められたメッセージ。
この曲だけはどうしても岡崎律子さんに寄り添って聴いてしまいます。

どんな事を思ってこの歌詞を書き上げたかなんてもちろん分かりませんし、感じ方は人それぞれですが、自分には彼女がこの世を去ることを解った上で残したメッセージに思えるんですよね。

生き続ける人達への言葉で、この歌詞以上の言葉に出会ったことはありません。

聴くたびに必ず泣いてしまいます。

岡崎律子さんご本人が歌うバージョンで、改めて聴いて欲しいと願います。


★難しいけど楽しい音ゲーのパート

めちゃくちゃ難易度高くて無理でした。
実はソシャゲの音ゲーは結構得意でフルコンボをコンプする楽しい!みたいに変な自信がありましたよ。

キーボードのブラインドタッチが出来ないので、そもそも土俵にすら上がれなかったです‥‥。

シナリオ間に音ゲーパートが来た時は迷わずオートプレイにしました。
下手にプレイして岡崎律子さんの素晴らしい楽曲を汚したくなかったという、もっともらしい理由をつけて逃げました。

でも、音ゲーパートだけでも成立するくらいよくできていました。練習したらめちゃくちゃハマるかも。

⚠️ここからネタバレあり⚠️










◾️ネタバレ感想

閉塞感のある少し不思議な世界で、様々な愛の形を見届けることになりますが、全てがハッピーエンドではありません。

儚くも雨露と溢れた想いもあります。
哀しく愛憎に染まる想いもあります。

それでも惹きつけられる魅力溢れた結末でした。


★リセルシアとファルシータ

人間の内側を見せられるような悲しい話や狡猾さを見ました。2人に共通した根底は、幸せを望み愛されることに飢えていたこと。
ただ、求める愛の形は全く異なるものでした。

リセルシアは歌うことを愛した少女。
父の歪んだ愛情がもたらす狂気と、ただそれを正しいと受け入れるリセ。
リセが健気なのがまた心を抉るわけです。
性格的には内気な少女ですが、リセが歌う楽曲の歌唱や雰囲気は何故か明るく希望に満ちています。
もしかしたら本来彼女がありたかった姿や願望が、そのまま歌詞や雰囲気になっているのかもしれません。

これってよくよく考えてみると、かなり哀しい話じゃないかとなりますが、一瞥の希望は心の拠り所となるはずなので、どうか幸せな未来をと願ってしまいます。

結末は読み手に想像の余地を残したENDでビターな幕引きでした。

個人的な見解は、クリスの未熟さがリセを救う事など出来なかったと考えています。
それでも若いゆえの青さが、哀しく優しく寄り添うような魅力がありました。

ファルに関してはまさかまさかの展開。
穏やかに流れた時間もルート終盤に急変。ある意味一番衝撃的な物語で、正直呆気にとられてしまいました。
優しくお淑やかな彼女の内に秘めた真っ黒な感情は貪る愛。
完全に予想外でまんまと引っかかりました。

ファルを悪女にさせてしまった理由も物語で語られましたが、そんな事より醜く歪んだ感情の先にあった結末に、やるせなさをもたらして放心してしまいました。
かなり読後の考察を生むエンディングです。

自分の叶えたい夢のためには愛すら利用する。
身体を差し出してまでクリスの才能を踏み台にする狡猾さと、ファルに利用されても良いと納得してしまうクリスの青さ。愛が歪んでます。

本来は決して美しくない愛なのに、本作のファルの愛は歪に美しく感じる。
この二律背反が生まれてしまう愛の形。
でも何故か陰鬱な気持ちはなく、歪な美しさに酔ってしまいました。

これは見返りを求める愛。
醜いはずの愛は、彼女の狂気と異常性を孕み、クリスを侵食してエンディングを迎えます。

全く共感は出来ませんが、彼女がクリスに向ける愛の形も、ある意味で本物の愛なのでしょうね。

ファルさん、怖すぎるよ‥‥。

彼女の罪はクリスにとっては既に愛となってしまう。罪の告白などもはや意味を為さない。
余白を残す幕引きは正直言ってかなり好みです。

罪の言葉と雨の音。これもアンサンブルなのでしょうか。それは美しい音色でした。



★哀しみトルティニタ

個人的に本作のメインヒロインはトルタだと思っています。彼女の抱えた嘘と罪悪感が泣けてきます‥‥。

移ろう心、彷徨う心、愛する心
アルとトルタ、揺れるクリスの心。
切なさは雨音にかき消されることなく、ただそこに在りました。

クリスを嘘で縛りつけるトルタの罪。
このルートで描かれたのは、トルタが罪悪感で押しつぶされていく姿そのもの。

アルと偽り交換する手紙とクリスマスの再会は、アルとしてでは無く、トルタ本人として愛してもらいたい渇望が苦しいほど感じ取れました。

心が疲弊し贖罪を求めて葛藤するトルタは哀しいですがとても魅力的で、彼女こそメインヒロインであった理由となります。

またクリスも心の何処かで嘘をついている。
好きという気持ちはアルだけでなく、ずっとそばにいてくれたトルタにも抱いている。
このハッキリしない優柔不断な態度が、プレイヤーを物語の沼へズブズブに沈めてきます。

トルタのエンディングは2つありましたが、最初にグッドENDをクリアして思ったのが、どこがグッドENDなんだよ!って事。
意味深な言葉や謎が明らかになりそうな気配を感じるも、およそ幸せとはいえない幕引き。
TRUEルートではどうか幸せな結末を祈るばかりでした。

真のトルタENDである”al fine”でトルタの視点に立った時、雨の謎や、アルとクリスの秘められた真実が明らかになります。ここから物語は核心へ。

アルは意識不明でクリスは記憶を失っている。さらには雨はクリスの心が魅せた幻であった事が明かされ、いよいよ心穏やかではありません。真実を突きつけられると思いのほか戸惑いました。

おい、まじか‥‥。

この心の隙に取り入ったトルタは、確かに卑怯なのかもしれませんが、全てはクリスへの愛が狂わせた行いです。
アルと偽って出した手紙に垣間見える儚い望み。
何度もクリスの愛を試すかのような振る舞いを、トルタ本人は醜いと自虐しています。

これを醜いと取る事は簡単ですが、自分としては感情が抗いトルタに寄り添って物語を見つめてしまう。
完全にトルタに感情移入してしまっているので、どうやっても彼女を赦してあげたい。
むしろ、そのままクルスを奪ってしまえば良いとさえ思っていました。

この哀しみが雨音に同期し、作品世界に色を与えてしまうのが何とも切ない。
改めてトルタを見つめ直すと思い知りますが、ずっと秘めていた気持ちの行き場所がなく彷徨ってしまう袋小路は胸が苦しくなります。

どれだけ辛い気持ちを持ち続けてきたのか、自分を責めていたのかと泣けてきます。
でも、この哀しさこそトルタの物語。
哀しみが増すほど物語は魅力的になっていく皮肉。彼女の哀しみの涙ほど美しい雨はありませんでした。

この空回りの最大の罪人は間違いなくクリスです。優柔不断さがトルタを明らかに苦しめて、結果自分を苦しめています。一途にアルを想っていればこうはならなかったはず。
優しさは罪なのですよ。

とは言え、クリスは記憶を失っているので一概に責める事もできない。また、流されていくのは若さと未熟さゆえでしょう。

トルタは唯一このルートで自身の気持ちをクリスに告げます。トルタの想いをクリスが受け入れるのは簒奪の愛。同時に2人にとってはアルへの裏切りの愛。
結ばれて故郷に戻った2人の運命は、アルが亡くなった事でもたらされる呪縛からの解放。

結果として”al fine”は幸せに満ちていたとは思えませんし、呪縛から解放されても、結局は罪悪感からは解放されないだろうと思ってしまいます。

アルが亡くなった事が、トルタの幸せに繋がるなんて考えたくはありません。
ただ罪悪感が増すだけ。
トルタの幸せに必要な条件は、アルの赦しとトルタ自身の赦しだったはずです。都合の良い奇跡が起きてくれればいいのですがそれもない。

なんか、モヤモヤしますよね。
自分としては「切ない」が一番近い感情ですが、そんな簡単な言葉でもない。鬱とも違う。

ただ思うのは、形がどうであろうと愛に溢れている。それだけは間違いないんです。



★音の妖精フォーニとアリエッタ

音の妖精フォーニ。可愛い。癒し。
本作のアイコンと言える愛されキャラクターです。

フォーニのルートは今までと違い、すっと胸に流れ込んでくるような優しさがありました。
ただ、角度を変えると優しいだけではないんですよね。
儚くも雨露となりこぼれ落ちた想いがあります。

フォーニの正体、al fineをプレイしている時にようやく気づきました。
でもここまでくればアル以外には無いはずなのに気づくの遅かったです。

アルに関しては手紙もトルタが書いていたものなので、フォーニから察するしかありません。

3年間一番傍にいて見守っていたんだなと、優しい気持ちになります。

TRUEルートはクリスの失われた記憶も戻り、フォーニの奏でる歌声が卒業演奏の会場に響き渡ります。そして、アルも目を覚まして全て幸せなエンディングへ。

ただ、フォーニを想う曲をフォーニの紡いだ言葉とともに物語が進む時間の裏でトルタを思い出すと‥‥。
幸せな物語のはずなのに、どうしてもトルタが頭から離れないんです。
この哀しさがトルタの魅力になってしまいますね。

アルとクリスには望む幸せなENDでしたが、その裏でトルタは何を思っていたのでしょうか。
手紙の真実に気付いたことをトルタに打ち明けた時、安心したとトルタは言っていますが、果たして本心からの言葉だったのでしょうか。

結局はまたトルタに気持ちが戻ってきてしまいました。彼女の涙がどうしても忘れられない。
哀しみが似合うヒロインは強いです。
やっぱりトルタ最高。



◾️最後にまとめ

ビジュアルノベルゲーム最高峰の雰囲気の良さと、思いもよらぬ愛の残酷さが魅力の作品でした。
それに岡崎律子さんの音楽が添えられ、心に染み渡るような幸せと哀しみを味わう事が出来ました。

更には制作者の方々の溢れる愛も加わります。
まさに愛を持って届けられた傑作です。
これは公式HPのトップでその愛がよく伝わります。

この先雨が降るたびに思い出す事になるでしょう。きっと、これからもたくさんの方が本作の愛の形に出会い心を奪われ、涙して強く惹かれてしまうのでしょうね。

本作に関わった全ての方、亡き岡崎律子さんに最大限の感謝を。
そして、この長い感想を読んでくださったあなたにも最大限の感謝を。
ありがとうございました。

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