卵を育てながら考える

昨日は当直だった。病院の外に咲く桜は満開で、私のホルモンはアンバランスで、持ち込んだ西加奈子の小説で号泣し、自分の担当ではなかった患者さんのお看取りでも涙が止まらなかった。夜中にお見送りだったのでしばらく目が冴えてしまって寝不足当直となった。

筋肉注射と鼻スプレーをして5日目の今日、夕方に薬の効き目を見るために電車で寝落ちしながらクリニックに行ってきた。今日も本当にたくさんの患者さんが不妊外来に来ていた。25で就職した私は、結婚や育児が女の幸せと母親に擦り込まれながらも、仕事が楽しかったし、好きになる人に片っ端から振られたし、仕事は上手くいってたし、で気付いたら40を超えていた。お金を払えば時間が取り戻せるのかなぁと思ったり、他の人たちの心情を妄想するのもどうかと思って、パソコンで来月のレクチャーのスライドを作って待ち時間を潰していた。

採血担当の看護師さんはぶっきらぼうだった。こう言うところに来てる患者ってみんなナイーブなんだから気をつけたほうが良いよ、と思いながら、また待合に戻ってパソコンに向かった。その後いつも通りベルトコンベア的に内診室に案内され、エコープローベをぶっこまれ、「右は5個、左は・・・。ま、やりましょう。」とだけ言われ、子宮洗浄をされた。自分の子宮の中を見るのは初めてだった。案外綺麗じゃないと思っていると、水を入れられて張った子宮は鈍痛で返してきた。これ出産のときってすごい痛みなんだろうなぁ、大丈夫かな、と不安になった。よくお産は立ち会っているけど、お母さんたちの痛みに耐える形相と分娩隊の介助を見てるとまあまあ卒倒しそうになるし、私。かなり不安になった。

医者から採卵と胚移植の日程をあっさりと決められて診察は終了。あとで看護師さんに聞くと右は5つ、左は2つ育ってたらしい。「採卵数」でぐぐると5ー10個くらい、と出てきたのでまぁ中間かと安心した。とはいってもこれまで中の中の成績で納得した事は一度もない人生を送ってきたせいで、中の中かよ〜と意味なく落ち込み、でも7はラッキーセブンだし、と自分に言い聞かせつつ10万円お支払い。不安は尽きないけれど神様に任せるしかない。

病院戻って、仕事終わらせて、夫に電話。「今週末採卵と採精だから時間作ってね。精子ちょうだいね。7個取れたけど受精が何個で成立するか分かんないし、戻せるのは1ー2個で妊娠成立の可能性は2割だし、流産は2ー4割だし、可能性の方が低いわけだけど。7個は普通みたいよ」夫は一度も受診していないから半信半疑である(1信9疑くらいかも)。今日もきっと思われただろうな、「一事が万事」って。「協力お願いね。信じてるよ。」と言ったら「うん。」と言って電話は終了した。

昨日亡くなった患者さんは旦那さんがベタ惚れのカップルだった。長い事入院してて、全然お家に帰れなくて、もうそろそろダメってときに桜が満開になって、担当医と看護師と夫婦で桜を見に行ったらしい。病室に行った時には本人は息を引き取っていたけれど、壁に貼ってあった花見の写真の中でその患者さんはとても穏やかな笑顔を浮かべていた。その夫婦には子供がいなかった。

妊娠したい私といざ妊娠した後の変化が怖い私と、ダメだった時にどう思えば良いのか不安な私と、一体どうなってしまうのか一事が万事と思っている夫と、折り合いはつくのだろうか、決戦は土曜日〜月曜日。

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