コミュ障夫婦で花見・焼肉からの同意書

週末に当直の日はわざわざ夫に来てもらってもゆっくり出来ないから、そういう週末は会わないでいてもしょうがないかと思っている。今週末はそういう週末だった。先週末は久しぶりに温泉にも行ったし。と思っていたら、桜が満開なので近くの公園で花見をするから、と夫が土曜日から来ることになった。外も暖かくなるから、ベランダで焼肉でもしよう、と彼は言った。

土曜日は10時から美容院を予約していたので、朝に病棟回診をして、美容院に走って目立つ白髪を染めてもらい、夫の職場の上司に渡す内祝いをデパートで見繕い、花見のためのレジャーシートを量販店で買った。その後以前住んでた界隈の肉屋で焼肉の肉を仕入れ(スーパーの焼肉用に比べると圧倒的に美味しい)、スーパーで野菜を買い、パン屋で日曜日の朝ごはんとなる惣菜パンを買って、病院に停めていた車で家に帰った。その間に夫に何度かLINEを送ったが返事はなく、電話も出なかった。

家に帰ってチェロの練習を、と思った矢先に夫から電話があった。明らかに駅の構内にいそうな音が声の向こうから聴こえてきた。駅まで車で迎えに行くのがルーチンになっているので、1時間弱でこちらの駅に着いてしまうということは、チェロの練習は1時間も出来ない。せめて何時に行くつもりとか教えてくれたらこちらも動きやすいのに、彼の行動はしばしば衝動的である。まぁ、花見も焼肉も彼の衝動から来ているわけであり、私は振り回されながらでも最大限に楽しむっきゃないと思っている。

そういうわけでチェロは早めに切り上げて、彼の言う通りすぐに花見に出かけられる準備(レジャーシート、ワイン、グラス、つまみ、ウェットティッシュを鞄に詰め込む)をして、駅まで迎えに行った。彼は会うなり卵を大量に渡してきたので「何これ?」と聞いたら、「卵かけご飯をいつも食べるアホがいるから」と私をアホ呼ばわりして車に乗り込んだ。汚言癖もあるんだと思う。冗談でも言うべきでないことと近しい仲でも傷つけることがある。すぐに「自分の妻を貶めるようなことは言わないで」と目を見て言った。やったことはないけど、子どものしつけと同じだと思っている。本人はそこまで悪気があってやってるわけではないだろうから、ダメなことはダメと言うのは大切である。

桜が咲く公園は家から歩いて10分くらいのところにある。その一角で新品のレジャーシートを拡げ、早速夫が買ってきたベルギービールを飲み始めた。外で飲むビールは最高だ。そこに満開の桜があって、穏やかな土曜日の夕方海外に住む日本好きな友達に自慢の写真なんかを送りながら、我々はただただ流れる時間とアルコールを楽しんだ。日が落ちて冷えてきたので、家に帰って焼肉。(以前部屋の中でやったら1週間臭いが消えなかったので今回はベランダでやることにした。)近くを通る自動車道の音がうるさくて普通だとあまり楽しめないベランダも焼肉の焼ける音で中和されて、全く気にならなかった。

色々が終わってもう十分1日を楽しんだ後に、先週から本格的に始まった体外受精について同意書にサインをして欲しいと夫にお願いをした。「これに関して話を聞いてない」と夫は言った。簡単には話していたし、LINEでも受診の報告はしていたのだけど、面と向かって話はしていなかった。当然である。私は彼以上に衝動的である。彼が結婚という石橋を何度も叩いては壊している間、私はその川を何度泳いで往復して見せたか分からないくらい多動である。心友は魔女宅のキキである。「思い立ったらすぐ」行動に移してしまう。あきゅ、というあだ名も”名前+急"から作られた。特急とかそういう感じ。

自分の好きなようにそれぞれ46年、40年やってきた人間同士、自分の思い通りにならない他人と一緒になるのはたくさんの不都合を強いられる。夫は体外受精のパンフレットを何度も読み直し、しばらく黙った後、「一事が万事だ」と言った。夫の言わんとすることが分かって少し悲しくなったけど、私は相談を持ちかけているようでもう自分の中で結論がついてしまっているため、夫の思考を挟む余地がない、1人で全部決めてしまって先が思いやられる、と言う意味だと分かったけど、正直卵子の1個も無駄にしたくない今結婚の時のように5年も待ってられない。第一、夫は私に相談する前に結論を出して進めてしまっているため、その問題が存在していたことも知らずに過ぎていくことがある。毎日朝晩電話はしてるのに、お互い込み入った会話はどうも苦手だったりする。私はすぐ結論を求めるタイプで夫は塾考して結論を先送りするタイプである。結婚が決まった時、夫の父親から「よくこんなに長いこと待っててくれました」と言われたくらい。

その夜お尻にホルモン剤を筋肉注射するのを手伝ってもらった。共同作業だよ、と言わんばかりに。あまり優しくない注射だった。日曜日の朝、夫は同意書にサインをしてくれた。

子どもができたら変わるのかな。変わる部分と変わらない部分があるんだろうな。完璧な親はいないし、完璧な親の元にだけ子どもが産まれているんじゃないんだから、いいよね、私もここから頑張って。

つづく

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