不妊治療を始めてみた
34歳から付き合った彼となかなか結婚に至らず、40歳10ヶ月でようやく結婚した。2、3年前から避妊はしていなかったけれど遠距離恋愛だったし、排卵日と行為のタイミングが合わないなら仕方ないよね、と思っていたけど結婚して改めて夫のことが好きになって、この人の子供が欲しいと思い始めた。結婚して1年経っても妊娠しなかったら不妊症、とか言う定義から考えたら、私たちは不妊なのかもしれないと思って、いろんな検査をする気で近くの婦人科に行ったら、「40歳超えてたら、人工授精が一番確実です」と検査をする前に諭された。初診料800円だけ払って。その先生におすすめの人工授精産科を聞いたところ「数が大事。いっぱいやっているところはそれだけ慣れているわけだから。」と。確かに、それは自分の専門でも言える。
早速Googleでめぼしいところを探して見たところ、いくつか出てきたけれど怖かった。最近の私の診る心疾患の患者のほとんどが体外受精、顕微授精で生まれているからだ。お金かけて病気の子を産んでしまったら、どうしたらいいのか分からない。22週未満だったら堕胎することもできるだろうけど、小児科医と言う立場で子供を選ぶ行為をした時点で私はもう働けなくなる気がした。障害を理由に自分の子供を殺した小児科医なんて最低だし。
でもやっぱり子供は出来そうにないし、意を決して人工授精クリニックに行くことにした。夫の赤ちゃんの頃の写真を見てたら可愛すぎたから、絶対可愛い子が生まれてくるに違いないと思えたし、そんな子に出会いたいと心から思った。結婚から4ヶ月のところで大阪の中心地にあるクリニックの予約を取って、仕事を半休とって受診してみた。
狭いクリニックに患者さんがたくさんいて面食らった。こんなに世の中にはこんな保険適応外の医療を受けたがっている人がいるのか、こんなに妊娠ってしないものなのか。こんなに大金をかけて子供を欲しがっている人たちがいるのに、乳児院はいっぱいで入れないとかなんなんだ、とか、とにかく知らない世界に踏み込んだことでめまいに近いような感覚を覚えた。
待合で一人待つ私の顔は白んでいたんだと思う。診察室に呼ばれ、子供が欲しいと伝え、夫と私の職業を伝えたら、経済的に問題ないと考えたのか、「顔色悪いですが、緊張していますね。あの、先生老化は抗えないです。せっかく結婚されて、もし本当に子供を望むのなら早いうちにやるのが一番です。それでも成功率はギリギリ2割ですから」と体外受精を勧められた。「次は生理2日目に来てください」と言われ、採血してその日は職場に帰ったが、病棟で寝ている子どもたちの病歴にIVF-ET, 体外授精、不妊治療の末、などの言葉が並んでいるのを見て心が落ち込んだ。
夫の反応はイマイチだった。あー、んー、くらいしか返ってこない。そもそも結婚するまでに7年かかった超優柔不断男である。現在の職場は岡山。私が月5回当直があるので、基本会えるのは月2回の週末だけ。一緒に住めると良いねと言いつつ、来年からのポストは決まっておらず、どこに行くかも分からない。そんな状況で子供なんて作って、と考えただけで多分彼の頭はショートするんだと思う。これは仕方ない。でもよくよく考えて見たら、結婚して子供ができるなんて想定内でありながら予想外のタイミングだったりするわけで、それが自然妊娠だろうが人工授精をしたくなった私の気持ちだろうが関係ないはずである。だからこれは飲んでもらうしかない。
そうこうしているうちに生理が来たので予約をとって受診してきた。私はまた能面の顔で待合に固まっていた。仕事は通称名を使っているので、呼ばれ馴れない夫の名字を何度か呼ばれて慌てて立ち上がり診察室に入って行った。注射と点鼻薬の話、採卵、採精の話、培養して戻すスケジュールを一気に話された。最初の説明が一番大事だけど、大抵長くてよく分からなくなっちゃうんだよな、と思いつつ話について行った。
注射と鼻薬をもらって、抗生物質とアスピリンを処方され会計へ。さらっと本日のお会計82000円。さらに 52万円を来週中に振り込んでくださいと。すごいなぁ、みんなこの大金さらっとはらうんか、とドン引きした。引きすぎて頭真っ白になりながら職場には一瞬で帰ってこれた。
本日鼻スプレー3回目、お尻注射2回終了。最愛の卵ちゃんたちが育ってくれるよう頑張ってくれないとね。痛い思いしてるんだからホント頼むよ!!
つづく・・・
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