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短篇小説

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#夏眠

短篇小説 夏眠

 クジラを盗まないかと男が誘ってきたとき、俺は水槽の回遊魚が左から右に横断している様子を眺めている最中だった。入射する人工的な光に照らされて、からだをくねるたびに背中がビニール紐のように淡くきらめく。群れは全体として面を形成し、局所的な速度の変化は波のように伝播してゆく。すすむにつれて収束してゆく面は、方向を左にかえ反対の切れ端に接続する。トーラス体となった魚たちはそのまま渦を巻くようにあきもせず旋回しつづけ、他の魚がやってきても穏やかにその道をゆずるだけである。  男は、う