米津一成(PedalFar!)
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【花を撮る】枯れていく花を愛でる、という感覚
春先にあったこと。
住宅街を歩いていたら20mくらい先にピンクのきれいな花が見えた。写真を撮ろうと思ってスマホを取り出しながら間近まで行ったら、その花は少し枯れ始めていた。
(ああ惜しい。二、三日早く見つけていればなあ)
そう思って写真は撮らずに通り過ぎた。
少し歩いてから、立ち止まってふと思う。
(それってさあ、あんまりじゃない?)
人間に例えたら「素敵」と思って近づいたらシワや白髪に気
父と子のパピコ【甲斐大和→松本 120km vol.06】
6月中旬の土曜日に健太郎のサッカーの試合があり、カミさんと二人で応援に行った。
健太郎は左のサイドバックだ。父親に似てあまり器用ではないが、スタミナはあるし足もそこそこ速い。繊細なボールタッチは望むべくもないがドリブルでの突破力はある。自陣から相手陣内へ、相手陣内から自陣へ、試合中はずっと走っていた。
後半の試合開始直前、観客の中から健太郎の名前を呼ぶ声がした。そちらを見ると女の子三人組が健太郎に
父と子のパピコ【甲斐大和→松本 120km vol.05】
「あれ、ここに置いといた『サイクルスポーツ』は?」
週末に読もうと思って昨日買った自転車雑誌が見当たらない。
「さっき健太郎が読んでいたわよ。なんだか熱心に読んでたから部屋に持っていったんじゃない?」
キッチンからカミさんが答えた。
(へえ)
ほんの少しほくそ笑む。ゴールデンウィークの松本行きから戻って、少し意外だったのは、健太郎が以前よりロードバイクに興味を持つようになったことだ。それまでは
父と子のパピコ【甲斐大和→松本 120km vol.04】
お下げ髪をなびかせて篠田美代子の娘が走って行く。そのあとに健太郎と私が連なり松本の街を走る。篠田美代子の娘に先導されて松本の街を自転車で走る日が来ようとは。苦笑いのような別の感情のような、複雑な心境と戸惑いと可笑しさがこみ上げてくる。
小さな交差点の手前で速度を落とすと、彼女はこちらを振り返って左を指さした。左折して少し走ると広い駐車場のあるコンビニがあった。
「夏希ちゃん、ありがとう。健太郎、ち
父と子のパピコ【甲斐大和→松本 120km vol.03】
去年「四十歳になった記念に」と、ずっと途絶えていた松本時代の中学の同窓会が開かれた。今でもつきあいのある当時のクラスメートが、一年しか通っていなかった私にも声をかけてくれた。
四十人ほどの当時のクラスメートのうち、二十数人が集まった。少し遅れて皆が集まった居酒屋に着いた私は、中学の頃、毎朝教室に入るときと同じように篠田美代子の姿を探していた。座敷の端に座っていた彼女と目が合い一目で分かった。笑顔を
父と子のパピコ【甲斐大和→松本 120km vol.02】
二人の篠田美代子。
一人は去年、中学時代の同窓会で二十五年ぶりに再会した篠田美代子。もう一人は遠い記憶の中、中学二年の夏に会った篠田美代子だった。
「やっぱり坂上君だ。びっくりした!」
「篠田さん……」
「どうしたの? こんなところで」
「里帰りというか、親戚の処へ行く途中です」
「あ、そうなんだ。去年会ったとき時々自転車でこっちに来てるって言ってたものね」
彼女の表情が驚きからやわらかい笑顔に
父と子のパピコ【甲斐大和→松本 120km vol.01】
少し勾配がきつくなった急カーブを抜け、その先にある広い自販機コーナーで脚をとめた。廃業というかすでに廃墟になりつつあるこの自販機コーナー。私が東京〜糸魚川ファストランを走っていた頃は、よく参加チームがここにサポートカーを駐めて臨時のエイドステーションにしていた。今でもそうなのだろうか。スタート地点が高尾山口から山梨県内に変わってから、あのイベントにはずっと参加し損ねている。
そんな思い出に浸っ