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スナックやじろべえ物語 2


今夜も私は黙々とグラスを磨く。
はて?この仕事いつまで続くんだろ…
使っては磨き使っては磨き。
永遠に繰り返されるんだよなぁ…
この仕事がある幸せってなんか良いんじゃない?って思うねぇ。
けど、客来ない…

ママの今日の衣装は…
胸元の大きく開いたニットのセーターに、超ミニのタイト姿。
ホントに目のやり場に困るわ。
何やら目玉を並べて五目並べしてらっしゃるよ、この人。

"カランカラン"

お、どなたかいらっしゃいました。

見た所60代、いかにも頑固なオヤジ風
カウンターに座るなり、おしぼりでありとあらゆる皮膚を擦ってらっしゃる。
このおしぼりだけは片付けたくねぇ…

その客は棚の酒をチラ見してはママの胸元をチラ見。これ、決めてる様で決まらないだろうな…。
こんな客にはこれだ

ーーデュカスタンファーザーズボトルーー
1954年当時のフランス首相が
「国民はアルコールを飲まずにミルクを飲むように」
と言ったそうな。そこでデュカスタン社が酒は大人の飲むミルクと皮肉とジョークを込めて哺乳瓶の形のボトルにアルマニャックを詰めて販売したそう。 
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良いよね、この皮肉っぽい感じ。
ママのチチ見ながら哺乳瓶咥えてろ。
なーんてそんな事は言いませんよ、お客様ですから。

私は黙ってロックグラスにミルク…
いや、アルマニャックを注ぐ。
もちろんジョークと皮肉をついでに提供した。
客は少しムッとした顔をしてたが、やっぱりママの胸元と足元に釘付けな様だ。

「ねぇ、ママ。もう最近の若いやつがさぁ…
ホントに頭きちゃって」

"最近の若いやつ"
この言葉を出したらダメだなぁと自分を戒める。
自分も若いやつだった頃もある訳だし、その若いやつからしてみたら、今時のジジイは…って事だ。
上手くバランスが取れてこそ、成り立つ上下関係だと思う。

ママが言う
「何がそんなに頭にくるの?」

その客はここぞとばかりに話し出した。
まぁ聞いてみれば、些細な事。
もちろん中には重大な失敗をした若いやつもいた様だが…。
一通り会話が尽きたのか落ち着いた辺りでママが聞いてみた。

「お客さんはなんでそんなに怒るんですか?」

「だってムカつくんだよ」

「けど、それは、相手が自分の思う通りにならない事を怒ってるだけじゃないの?
自分の思う通りになる人ってどれくらい居るのかしら?そんな操り人形みたいな人は居ないと思うし、ましてやあなたの希望通り動いたら怖くないですか?人は感情を持ってますし、意思がある生き物ですよ。あなたが思い通りにならなくて怒るのを理解してくれればいいですけど、理不尽な事言ってるって思ってるかも知れませんよ。ホントにその人の事を思って怒るのなら指導になりますけど、ただ自分の思い通りにならない事を怒るのは自分勝手な事だと思いますけどね。怒るのと叱るのは違うんですよ、そこら辺分かっていただけますか?」

客は呆気に取られて聞いているのかいないのか?そんな感じだった。
そしてフト我に帰ったのか
「勘定してくれ」
と言って立ち上がった。
会計を済ませてドアを出て行くその後ろ姿は、母親に叱られた子供の様に小さくなっていた
気がしたのは私だけだろうか…。

「ママ、なにもあんなに言わなくても良いじゃないですかぁ
あの人、もう2度と来ませんよ~」
頭から湯気でも出てそうなママを見て私はクスクス笑いながらそう言った。

「だってさぁー
あの体中拭きまくったおしぼり、誰が片付けんのよっ!!
もうあの時点で頭に来ちゃって!!
あーもぅっ!!」

って…ママめっちゃ怒ってますやん…。 


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新社会人になった皆さまおめでとうございます。

大変な時期ですが夢を持って新しいスタートを頑張って下さい。
私はもう指導する側ですので自分への戒めとして記事にしておこうと思いました。
”怒ると叱る”
これはホントに難しい事ですが
新人さんを褒めて伸ばすばかりもダメだと思うので
”怒るより叱る”
この方向で接する事が出来ると良いかなと思います。

偉そうな事は言っちゃいけませんけどね…