服は恋人。〜グリーンジャケット〜

 滑り落ちるような光沢がほのかにまとわる、豊かで鮮やかなグリーンの生地。裏地はヌメっとした漆黒に、白地のブランドロゴがパターンプリントされている。グリーン、黒、白。これはパリの息吹だ。パリの春だ。
 生地こそ輝くグリーンだが、シルエットはまさに正統派のジャケットそのもの。久しぶりに復帰する職場において、私の心に勇気と癒しを、そして周囲に信頼感と威厳を、それぞれ与えてくれる一着になるだろう。

 その見目麗しいジャケットを、私はそっと羽織ってみる。私に合うだろうか?こんな素敵な服… 期待と不安が入り混じる胸の高鳴り。そして鏡を見る…

 …あぁ、なんて素敵!

 かくして、彼は私の元へやってきた。

 帰り道、クローゼットで私の帰りを待つ現役の恋人達にも思いを馳せる。みんな個性派だけど、彼、仲良くなっていけるかしら…
 中にブラウスやシャツではなく、Tシャツを合わせるのも良い。レザーのショートパンツもきっと可愛いはず。なんなら、下にカラフルな柄物を持ってきてもとびきりオシャレだ。うん。彼は確かに個性が強いけど、なんだかんだ私の仲間たちとも仲良くしてくれそう。

 私の服選びは恋と似ている。うん、服は恋人と同じかもしれない。出会いのときめき、想いが叶うかの期待と不安、そしてお付き合いが始まった瞬間の、この高揚感、幸福感。
 最近の私は、服選びにおいて、“いかに自分が綺麗に見える=社会生活において有利になるか”に重きを置きすぎていたなぁと思った。もちろんそれも正しい服飾の在り方だとは思うけど、社会生活における優位性を高める=他人から見て美人に見えなきゃいけないわけで、「自分の着たい(デザインが好きだとか、着心地がいいとか)!」っていうことを押し殺していた。それは恋愛で例えるならば、周囲の大人達から「彼、良いわよ」と勧められて、自分は好きでもないけどお付き合いを始めるようなものではないか?
 御曹司との将来安泰の恋もいいけど、…この胸の熱い想いは止められない!

 私、久しぶりに恋をしたみたいです。周囲には反対されるかもしれないけど、この春は、この恋を存分に楽しんでみるつもり!

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