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ポルノグラフィティ「君の愛読書がケルアックだった件」をイメージした小説5

「今日の休みは新井だけだな。新井は今日、日直だったのか…宇田、代わりに日直やってくれるか?」

「は~い。」

期待していた分、僕の気持ちは落ち込んだ。そんな僕の気持ちとは関係なしに時間は進んでいく。放課後になり日直の仕事も、あとは日誌を書くだけとなった。

「今井君、ごめ~ん。今日、大事な用事があって~残りの仕事頼んでもいい?」

「うん、いいよ。」

「ありがとう~!ホントごめんねぇ。」

そう言うと、さっさと荷物をまとめ宇田さんは帰って行った。宇田さんが出て行ったのと、入れ替わりで藤野が教室に入ってくる。

「今、宇田のやつ合コンがどうとか言ってたぞ。」

「じゃあ、それが宇田さんの大事な用事なんだよ。」

藤野は僕に何か言いたそうだったが、ため息を一つついた後、僕の席の前に座った。宇田さんが帰るのを見て、手伝いにわざわざ戻ってきてくれたのだろう。藤野は態度こそ素っ気ないが、優しいのを僕はよく知っている。

「さっさと終わそうぜ。」

「藤野ありがとう。でも今日はバイトって言ってなかった?」

本当に忘れていたのだろう。藤野は教室の時計を見た後、勢いよく立ち上がった。

「今井、悪い!」

「気にしないで。バイト頑張って。」

「おう。今井もそんなの適当にやって早く帰れよ。またな。」

「うん。またね。」

慌てた様子で走り去って行く藤野を見届けた後、視線を日誌に戻した。教室にはいつの間にか僕一人だけ。開けた窓からは心地よい風と、部活の生徒たちの活気ある声が届いた。
日誌が書き終わり、窓を閉めて帰ろうと思い席を立った時だった。先程までの心地よい風とは一変した強い風が教室へ吹き込んだ。

「え!?」

僕は驚いた。強い風にではない。その風によって現れた、たくさんの紙が教室に舞っていたことにだ。

「な、何これ?」

とりあえず僕は急いで窓を閉める。そして教室に散乱した紙を拾う。どうやら作文用紙のようだ。作文用紙には文字がぎっしり詰まっている。僕はそれを目で追いかけた。それは一つの物語を書き綴っていた。

「すごい…。」

作文用紙の出どころは窓際の新井さんの机からだった。つまりこの小説は新井さんが書いたってこと?
作文用紙をすべて拾い、中の文章を読みながら順番も戻した後、タイトルが書いてある一ページ目から順にまた読み始める。すごく面白い。僕は夢中になって読み続けた。
廊下から聞こえてきた笑い声に、僕は我に返った。手に持っていた小説を新井さんの机に戻そうと思った瞬間、教室のドアがガラッと開いた。

「あれ?今井?まだ残ってたのかよ。」

姿を現したのはクラスメイトの男子。

「あ、あぁ…日誌書いてたら遅くなっちゃって。でも終わったから、もう帰るよ。」

「なるほどな。お疲れ~。」

完全に新井さんの机に戻すタイミングを失った小説は、僕の鞄にしまわれた。
人の物、しかも新井さんの物を勝手に持って帰ってしまった罪悪感と、小説を最後まで読みたかった好奇心の二つの感情を抱えながら僕は家路に着いたのだった。

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