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ポルノグラフィティ「君の愛読書がケルアックだった件」をイメージした小説7

放課後、帰ろうとしたところを担任の先生に呼び止められた。先生の隣には女性が立っていた。少し雰囲気が新井さんに似ているような気がした。

「この方は新井さんのお母様だ。」

どうりで雰囲気が似ているわけだ。

「今朝のことで今井にお礼が言いたかったみたいで、学校までわざわざ来てくださったんだ。」

「美羽の傍に君がいてくれたおかげで早い対応が出来たの。ありがとうね。」

「そんな僕なんて何も…。」

「今、少しお話出来るかしら。」

「はい。」

担任の先生とはそこで分かれ、校庭のベンチに新井さんのお母さんと二人きりになった。何の話をされるのだろうか。僕は緊張していた。

「そんなに緊張しないで。」

「は、はい。あの、新井さん…あ、美羽さんは大丈夫ですか。」

「大分、落ち着いたわ。心配してくれてありがとう。」

「いえ。良かったです。」

「突然のことで驚いたわよね。美羽は…昔から心臓が人よりちょっと弱いの。だから体育とかも見学することが多くてね。」

僕の学校は体育の時間、男女は別々で行っていたから新井さんが見学していたことを全く知らなかった。

「あの…美羽さんは治るんですよね。」

その問いかけに新井さんのお母さんは、ちょっと困ったように笑った。

「えぇ、きっと治るわ。」

言葉ではそう言っていたが、治すのは難しいのだとその表情から何となく悟ってしまい、僕は次に言う言葉を失った。
少しの沈黙が訪れた後、新井さんのお母さんは鞄から一枚のメモを取り出した。

「美羽が入院している病院と部屋の番号。もちろん美羽には了承済みよ。良かったら会いに来てあげて。詳しくは知らないけど今井君のこと、気にしていたから。」

「分かりました。ありがとうございます。」

メモを受け取ると、新井さんのお母さんは優しく微笑んだ。

「引き止めて、ごめんなさいね。それじゃ。」

そう言うと新井さんのお母さんは帰って行った。
僕はしばらく渡されたメモを眺めていた。会うのは気まずいが、このままでいるのは嫌だ。今度の週末、新井さんに会いに行こう。
メモを鞄にしまい立ち上がる。空は赤く染まりかけていて、頬をかすめた風は少し冷たく夏の終わりが近づいていることを告げていた。

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