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コロナ感染・raw data に respect を

 定点観測下患者数もグラフ上今や束状となり(図1左図の右部分)、変異株ハリスはほぼ収束した感じです。大流行が危惧される変異株BA.2.86型ピロラは、都安研の2023/11/1現在の世界の新型コロナウイルス変異株流行状況によれば、今のところデンマークのみに第3系統として登場し、他国に追随する気配は無いようです。忙中閑ありの今、国内感染現況を整理しつつ検討する好期と思い、以下の3項目について述べたいと思います。

 A:定点観測下の平均患者数推移
 B:定点観測下の都道府県の平均患者数
 C:定点観測下の第8波の集計見直しについて
 
 当シリーズで既述のことも多く、まとめのようなものです。そんな気になったのは、なんとなくコロナ感染の収束を感じる故かもしれません。 

A:定点観測下の平均患者数について

 25週目の「定点観測による一医療機関の平均患者数」が報告されました。患者数がぎっしり書き込まれた都道府県地図には、平均患者数2.07と少ないながら、最小値の長崎県1.03と最高値の北海道5.87の範囲内に、全ての都道府県がひしめきあっています。数値がべったり貼りついた同地図は、デルタ株のように患者数ゼロの都道府県を見ることはありません。感染者数の人口数比化の行きつく処はこうなるのかと、やや寒気を覚えつつ眺めています。
 文字、数値が小さくなりましたが、述べることの根拠でもありますので、定点観測下の都道府県患者数データベースを表1として載せます。

   表1:「定点観測下の一医療機関の平均患者数」データベース

*2~4検査週の患者数欠如は、全体の統計処理に支障なしと判断しています。
*都道府県名の赤色圏は大都市圏、青色圏は中都市圏、黒色圏は小都市圏を表し、
*最下列の赤数字行は週平均患者数、青文字の右端列は都道府県の平均患者数です。

 各検査日の平均患者数は、表1最下段の赤い数字列です。
 定点観測患者数は、定点5000を都道府県数47で割り振って、一都道府県あたり凡そ100(≒5000/47)の定点が割り当てられたもの、と当シリーズは解釈しています。都道府県人口数、ウイルス感染力等は無視した機械的割り当てですから、オープンデータ時はその数倍の医療機関が処理した大都市圏、中都市圏の感染者数は、定点数に割り当てられた医療機関数に従って患者数は少なくなり、逆に小都市圏では定点数が多くなり患者数は増える傾向が必然となります(図1左)。

 定点観測下の患者数推移は、小都市圏の感染詳細を知るには都合よくなりましたが(図1左、図3参照)、大都市圏と、中都市圏の多くは患者数漏れを招くことになります。このことは、定点観測が全国的状況を表し得ない不具合の最大要因になった、と当シリーズは推測しています。患者数に都道府県人口数比が関与する余地が全く無かったことが基本にあると思われ、定点数で求められた患者数とオープンデータ期の感染者数を比較するには、定点数で算出された患者数を人口数比で補正することが必要があると思われます。
 図1に、その補正前後の患者数波形を比較します。

    図1:定点観測下と補正後の都市規模別の平均患者数経過

*左右図ともにエリス波を表しています。
*左右図とも、左スケールは全国患者数、右スケールは都市規模別患者数を表し
*補正後の大都市圏と小都市圏の患者数位置が、補正前の位置と逆転しているのに注目です。

 図1左では、大中小の都市規模別感染者数(上から青、灰色、赤の線グラフ)はほぼ平行し、ピーク形成は不十分で、平均患者数は小都市圏>中都市圏>大都市圏の順を示しています。補正後の図1右では、オープンデータ期と等しく小都市圏<中都市圏<大都市圏順となり、ピーク形成が明らかになりました。補正した患者数波形が、変異株エリスよって感染者数を適切に反映し得るかが按じられましたが、図1右は変異株が及んだ経過を確実に表現していると判断しています。

 25週目の患者数も(表1右より2列目)、大中小都市規模別患者数比は都道府県数47(=9:16:22)の振り分け通りで、小都市圏で多く大都市圏で少ない傾向が続きます。この比は初回患者数以来のもので、当然のことながら今後も続きます。鋳型に操作的にはめ込んだような患者数比ですから、補正しなければ全国的な感染傾向を表すものにはなりません。定点観測下の患者数は、感染の自然経緯を表す波形には遠いものとなります。

B:定点観測下の各都道府県の平均患者数

 都道府県別の平均感染者数は、表1右側端の青文字列で示されます。
 図2上段左にそのグラフ化が示されます。グラフの感染者数(赤い線グラフ)は、平均値11.13のラインの上下を行き来きしながら、ほぼ横一線の波形を示します。

    図2:定点観測下と補正後の都道府県別の平均患者数経過

*3図とも、青棒グラフは都道府県人口、赤折れ線グラフは感染者数。
*3図とも、左スケールは人口数、右スケールは感染者数を表します。

 図2上段左の平均患者数(赤折れ線)が、横一線を維持するのは、各都道府県に割り当てられた等しい定点数の医療機関が、ほぼ等しい患者数を診た結果を反映している故と思われます。即ち、最大人口数を有する東京都であろうが、最小人口数のである鳥取県であろうが、定点数に相当した患者数しか表わせないのです。
 
 図2下段グラフは、オープンデータ終了前5ケ月間の都道府県人口数(青棒グラフ)と感染者数(赤折れ線グラフ)の推移を示したものです。両者がほぼ同一曲線状上に並ぶのは、感染者数の人口数比化をグラフ的に証明したものと思われます。オミクロン株第6波期は、感染者数波形は人口数波形周囲に不規則に平行していましたが、患者数波形は次第に人口数波形に近づき、1年有余を経てほぼ完全に図2下波形を呈するに至ります。
 図2下段グラフの作成は難しくありませんが、基本にオミクロン株感染者数データベースが必要ですし、グラフ表出には表計算エクセルの操作を繰り返す手順が必要です。このグラフを始めて見た時は驚きでしたが、コロナ感染の現在の立位置を知る最良の助けになりました。

 図2上段右は、図2上段左をその人口数比で補正したフラフです。オープンデータ期の図2下段に幾分近づいたものの未だ及ばないのは、A項で述べた如く、元データが大都市圏になるほど患者数が少なくなる定点配分を反映しているためと思われます。

 図3は、参考として定点観測下初期の都道府県患者数グラフを載せたものですが、左から右にかけての大中小都市規模別の波形が、ほぼ横一線ながら明らかに認められ、ここまで表現するグラフに感心したものでした。

      図3:定点観測初期の都道府県人口と定点感染者数

*突出した沖縄県波形は、人為的な背景が後になって判明し改善されました。
*患者数は、大都市圏で少なく、小都市圏で多い傾向が明らかですます。
*小都市圏の多彩な波形変化は、大都市圏よりも情報が豊かなことを示しています。

 変異株エリスは、図3のグラフ波形変化を均し、図2上段左の現在波形へ進化させ、単調な横一線のグラフに変えてしまいました。グラフとしての表現価値は失われ、定点観測下の都道府県平均患者数比は意味を持たなくなりました。
 「定点観測による一医療機関の平均患者数」が、この都道府県人口数と患者数波形関係に、一言も触れないのは不自然を感じます。

C:定点観測の第8波集計し直しについて

 NHKの新型コロナと感染症・医療情報サイトは、「定点把握」データ 過去の参考値と最新データを連続表示 と銘打って、「一医療機関の平均患者数(全国)」なるグラフを掲載しています。グラフには修正された青の第8波と黄色の定点観測下の患者数波形を連結し、両者に波形的な意味を連続させるものとの説明があります。グラフは、厚生労働省と国立感染症研究所の共同制作グラフと画面上に告示されおり、「厚生労働省は、今後の感染者数の推移を過去のデータと比較できるようにするため、2022年10月から2023年5月7日までの「第8波」を含む感染状況のデータを、「定点把握」で集計し直し参考値として発表しました(青色の棒グラフ)」との説明文を載せています。
 当シリーズの「定点観測における患者数の在り様」で、集計見直しに関しては、オープンデータの raw data を集計し直すことの非常識さを批判しました。現在でもそのグラフは、そのまま掲示されています。当シリーズとしては、そのグラフに対する批判は、現在も今後も変わりないことを改めて述べおく必要があると考えています。

C-1;背景が全く異なる現象をつなげても無意味です

 定点観測の集計見直しを担当された方にしてみれば、当シリーズが集計見直しを批判しながら、定点観測波形を補正・修正しているではないかと反論されるかもしれません。当シリーズとしては、既に2023年8月に、「定点観測における定点配分に関する疑義」として先ず問題点を指摘し、それを基にして意見を述べ、補正した場合は元の定点観測波形を併記して比較する等、それなりの順序を尽くしたつもりです。
 もし raw data を修正する必要があるならば、まずオープンデータで得られた第8波に関する問題点を疑義として指摘しておくべきではないでしょうか。「今後の感染者数の推移を過去のデータと比較できるようにするため」との説明はまるで子供だましで、集計し直した波形を「参考値として」と国民に勧めても、何のための参考値なのか、そしてどんな参考になるのかを具体的に述べる必要があるのではないでしょうか。

 当シリーズとしては、第8波型と定点観測下の患者数波型が、比較しようにも全く別物であり、別物と認識することの重要性を理解してもらいたく、図4を始めとしたグラフで説明したいと思います。

  図4:オープンデータ期第8波と定点観測による変異株エリス波形

*スケールは左右図でそれぞれで異なります。
全感染者数は全て raw dataであり、全患者数は全て定点観測下の感染者数を意味します。
*左右グラフの比較を容易にするため、折れ線と両淡青面比は等しくしました。  
*都市規模別の感染者数(左)と患者数(右)の逆転は、求める対象が異なっていることに注意。

 グラフ波形を読む基本は、波形なるものがその背景にある様々な変化の合成であるという、当たり前なことを先ず理解しておく必要があります。
 図4左の元日前後が深い切れ込み notchは、帰省現象、支配している変異株種多様化、感染者数の都市規模別差等の諸々の要素の合成となります。同図右は、変異株エリスによってもたらされた患者数推移を、厚労省の考案した定点数で算出された患者数を合算した波形ということになります。また、同右図の中央に見られる notch は、当シリーズでは変異株エリスの国内移動を表すと推測していますが、両者の構成する諸要素は何もかも違うのです。
 厚労省は、図4に並んだ両者を、何故関連付ける必要があると判断したのでしょうか。

 更に、図4右をもって図4左を、具体的にどのような方法で集計し直したかについての説明がありません。特に、両図中にある肝心の都市規模別感染者数層の違いはどのように整理(修正)されたのでしょうか。集計見直しのイメージが想定できないので、その詳細を全ての人が納得できるよう具体的に説明する必要があります。
 それにしても、いとも簡単に過去データを書き直すとは、raw data に対する respect 欠如に驚きます。波形修正が、定点観測波形の正当化を目論んだ操作と疑われても仕方ないではありませんか。  

C-2;第8波の特異性
 
 コロナ感染に限らず、致死率=死亡者数/感染者数は、病原菌、ウイルスとその変異株等の質、つまり感染力や重篤性を規定する重要因子です。コロナ感染の場合も、感染者数と死亡者数は、それぞれ異なるピークとピークが支配する領域を綿密に求め、苦労して致死率を求めたものでした。分子/分母のいずれの変化も致死率の変更をもたらすことは、第8波の波形修正を手掛けた定点観測担当者、「一医療機関の平均患者数(全国)」なるグラフの出典元の厚生労働省、国立感染症研究所もご存じと思います。致死率を簡単に変えてまでの第8波の波形修正の必要が何処にあったのか、それは国民に明らかにすべきと思います。

 第8波に関しては、当シリーズとしては、他の波形よりも注意深い関心を持つものです。図5左に、オミクロン株に入ってからの感染者数と死亡者数の経緯を、同右に第8波を拡大して両者の関係をグラフ化しました。

      図5:オミクロン株の感染者数と死亡者数の推移

*左図の各波ピークは、左からオミクロン株第6波、第7波、第8波となります。
*右図=左図のオミクロン株の第8波を拡大したものです。
*感染者数と死亡者数の関係は、両者を一グラフ画面で表すとより明らかになります。

 図5左で注目するのは、第7波の感染者数(中央青面グラフ)と死亡者数(同赤折れ線グラフ)比が、第8波(同図右ピーク)で逆転していることです。つまり、第7波は感染者数1823324、死亡者数2188、死亡率は0.12ですが、第8波は感染者数1692325、死亡者数3861、死亡率0.22であることは、第8波では感染者数の減少にもかかわらず死亡者数は増加するという現象を表しています。死亡率は、デルタ株、第3波等に比べれば遥かに少ないので問題ないと片付けられそうすが、オミクロン株経過を俯瞰すれば、死亡率は第7波より第8波で倍増しているのです。約2倍に近い死亡者数を無視は出来ません。

 当シリーズとしては、感染者数に相応した死亡者数以外に、別のなんらかの要因が推定される死亡者数が存在し、両者が合わさって第8波全体の死亡者数増に至らしめたと推測します。第8波の主要変異株の病原性が途轍もないハイリスクだったわけではありません。そもそも第8波は、正月を境にした帰省現象が主となる波形で、波形前半では東北北海道感染や東京都を中心とした厳しい感染者数増時期を伴っていたものの、中途~後半は、帰省現象の回復過程を如実に表わしているのです。

 第7~8波期は、感染者数の人口数比化が浸透し、変異株数は急増し、一価ワクチンに続いて二価ワクチンが国内広く施行された時でした。感染者数減と相応しない死亡者数増の背景に、そのどれかが該当する可能性があり、関心が向かうのは当然です。図5右の raw data による第8波像は、厚労省作成の「一医療機関の平均患者数(全国)」の第8波像では波形を明らかに造り替えています。感染者数を変えれば当然致死率が変わることを承知で、目的があって波形修正に至ったと推測しています。厚生労省も国立病院研究所も豊かな情報源をお持ちでしょうから、第8波の死亡者数増背景を既に承知していたかもしれません。そんな渦中の第8波ですから、厚労省が波形の集計し直しを独断専行されたとあれば、その意図が注目されるのは当然です。

 当シリーズも、第8波の死亡者数増に関しては注目して検討中しており、結論を明らかにするには至っておりません。自由で活発な論議を経て状況証拠が揃えば、その背景が明らかになると信じています。国が判断することではありません。

 結語は、「raw data には respect を」ということになります。

                  2023/11/18
                  精神科 木暮龍雄

 


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