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東北地方に偏倚する感染波

 オープンデータは無くなりましたが、厚労省がNHKを介し同じデータ形式の感染情報を続けて提供してくれることになりました。オープンデータを利用された多くの方々が背景にあつたからと私は推測していますが、コロナ収束を見届けたい人にとっても有難いことだと思っています。

 10月中旬、データベース上に並んだ数字を眺めていますと、感染者数が九州地方で減少し、東北地方で激増しているのに気付きます。2022/10/1~2022/11/3の約1ケ月の感染者数と死亡者数推移をグラフ化すると図1となり、東北地方で感染者数が激増し九州地方では漸減、死亡者数は東北地方に増加を認め、九州地方では想定内の範囲で推移していました。

             図1:東北地方に偏倚するコロナ感染症

    表1註2に示す東北地方と九州地方の2ブロック各自治体に新たな感染波が生じた気配は無いのですが、念のため2ブロックの2022/10/11~2022/11/2(図1上段の矢印線から右端まで)で感染者総数を算出しますと、東北地方175234、九州地方66329の大差でした。この間、前者は後者より8000人/日強の増加速度です。当然のことながら、東北地方の感染状況に何か異変が生じた可能性を推測しました。
 今回の表題「東北地方に偏倚する感染波」は、図1上段の感染者数グラフが発端でした。

 2ブロック間に感染者数や死亡者数に差があることは以前から気づいていましたので、上記の急増を検討する前に、日本列島南北両端に位置する2ブロックのオミクロン株から第7波に至る感染経過(約1年間)を比較検討しておくことにました(表1)。
   
   表1:オミクロン株→第7波・東北と九州の感染者数と死亡者数

                         人口        感染者数 ブロック感染率   死亡者数 ブロック死亡率
    東北     14365(1.1)   250996(1)            1.7%    2501(1.4)         0.017% 
 九州   13016(1)     342952(1.4)          2.6%         1745(1)            0.013%  
     註1:期間、2021/11/1~2022/10/31、人口、単位1000
  註2:東北(北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島)
      九州(福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島) 県称略
  註3:大都市圏の北海道、福岡県のブロック内人口率は、37%、39%
  註4:九州に沖縄を入れなかったのは、基地の影響を考慮。

 2ブロックは、人口数や大都市(北海道、福岡県)が占める割合がほぼ等しいので、結果の判断を容易にしてくれました。
 表からは、感染率は九州>東北、死亡率は九州<東北の違いが歴然としていますので、感染と死亡という現象には多くの要因が関わる次元の違いを感じます。それでも、デルタ株の東北:九州の感染者数比は1:1.7で、死亡者数は東北に高値でしたので、ウイルスは基本的に暖かい季節を好み、死亡には寒さという季節要因が関与している可能性が推測されました。
 注目すべきは、図1の2ブロックの感染者数比が、表1のそれと大逆転していることです。

  図2:オミクロン株→第7波・東北と九州の感染者数と死亡者数 

同期間内の感染者数(上)と死亡者数(下)

 表1をグラフに表しますと図2となります。表1で示された両ブロックの感染者数比、死亡者数比はグラフ上でも推し計ることが可能です。図2で注目したいのは、東北地方の感染者数グラフの右端に感染者が跳ね上がるように急増している部分(拡大が図1になります)が、常に東北地方を上回っていた九州地方の感染者を遥かに超えていることです。

 東北地方に突然急増した感染者数は、期間を同じくした死亡者数も増加しているので、新たな感染波の可能性が無きにしも非ずです。そのためには「東北地方に偏倚する感染波」なるものはピークを形成しなければなりませんが、未だ日数が不足しています。けれども、オミクロン株や第7波に比較して立ち上がりが緩やかなので、今のところ新しい感染波の可能性は少ないと思われます。図3の全国的な第7波終末を見ても、平たく分厚い感染者数が続き、新たな感染波を思わせる兆候はありません。第7波後は、過去に屡々みられた底上げ層に移行しつつあるものと推測しています。 

       図3:第7波・全国の感染者数と死亡者数

底上げ層に入る第7波

 改めて表1を見直しますと、人口比が東北:九州=1.1:1であるのに対し、2ブロックの期間内感染率が東北:九州=1.7%:2.6%でした。明らかに東北地方は感染過疎地(表現が適切でないかもしれません)で、それに比べれば九州地方はかなり高い感染率を維持してきたことになります。感染過疎地に対し感染浸透地と言うことしますが、このことは、大都市圏から中小都市圏に感染の主戦場が移った状況を思わせます。繁殖を目途するコロナウイルスにしてみれば、感染余地のある東北地方は魅力的なターゲットになったと思われます。

 コロナ感染が、大都市圏型から中小都市圏型に移行し、更に地域の構成人口に依拠した感染に立ち位置を変えつつある現況を、前回シリーズ「第7波の終焉」で述べました。九州地方のコロナが東北地方に移動したわけではありませんから、全国的にみれば水が低い方に流れるような感染状況が蠢きつつも、感染者数の多寡が均され図3の全国版に見る平坦な底上げ層が形成されるのではと推測しています。
     
                       2022/11/4
                       精神科 木暮龍雄


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