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仕切り直し?変異株レース

 前回調査時より増えた患者数ならば赤、減った患者数ならば黒で表しますと、連続した赤い感染者数部分は感染のピークに向かう過程、連続した黒い患者数部分は感染のピークから離れる過程を表すことになります。ピークを中心とした典型的な山型波形の場合は、グラフ上の患者数はほぼ赤と黒の患者数で色分けされます。どちらとも言えない場合は、赤の中に黒が点在するか、黒の中に赤が点在することになると思われます。大まかな感染経緯を raw data 上で手早く判断できることが期待され、「定点観測下の一医療機関の平均患者数」データベースで試してみることにし、表1としました。数値差(=量)ではなく、赤黒の色の違い(質)でグラフを見ることになりますのでご留意下さい。

 表1では、赤い数字で占める面(期間)の3通りが認められ、それぞれを A、B、C としました。今日的には C の患者数増が気になりますが、 A、B について先ず検討することにします。

       表1:定点観測下の都道府県別患者数の推移

*左端列=都市規模別都道府県名、右端列=都道府県別平均患者数、最下行=調査日平均患者数
*2~4週日資料が抜けていますので、第5週日の患者数増減は不明です。
*第11~12週目に、黒の感染者数が一過性に表れていることに注意。

 A~Bは、変異株エリスのほぼ最盛期に相当すると思われます。A、B 間の第10週目と第11週目辺りに、黒字が優勢となる面が一過性に現れ、感染があたかも小休止した如き期間が認められます。ということは、A、B 内にそれぞれピーク形成の可能性があり、変異株エリスに2峰性を推測させることになります。「定点観測下の一医療機関の平均患者数」データベースに変異株エリスの2峰性を認める意外な結果を得ましたので、患者数を赤黒の二色にわける今回の試みは一応意味があったと思われます。
 変異株エリスの2峰性については、当シリーズの「何かが通り過ぎた感じのコロナ感染」で、変異株エリスの日本列島東西間移動として検討を棚上げしていた課題でもありますので、この機会に述べたい思います。

     図1:変異株エリスの日本列島東西間の移動について

*上段図は、表1の変異株エリスの2峰性を表していると思われます。
  *下段図は、上段図を日本列島東西の患者数に分けたものです。            
*下段図の左右のピーク差は、表1の第8~12週目間にほぼ同じです。  

  図1上段は、表1の感染者数を人口数差で補正し、8行政ブロック毎の都道府県患者数に換算してグラフ化したものです。一見まとまりなく見える上段図ですが、行政ブロック名でピークを確かめますと、日本列島の東西に偏ることが分かります。行政ブロックを東西に分けてグラフ化しますと、西日本行政ブロックの下段左と、東日本行政ブロックの下段右の平均患者数グラフとに分かれます。
 両ピークには約4週間の週差があることが示されています。この間、日本列島に新たな変異株が侵入したとの報告はありませんので、変異株エリスは約4週間かけて日本列島を西から東に移動したと推測されます。つまり、表1の A、Bは、図1下段の左右両波形を表していることになります。グラフ上は notch の前後にピークを見る波形となります。グラフに表れる notch の意味、識別にはいつも苦労していますが(ex.第7波第8波)、変異株の距離的移動を示すグラフ上の具体的証しとなれば、当シリーズとしては貴重な資料の一つを得たことになるのです。

 本題のC について述べます。
 表1を見ますと、2023/11/19(第26週)の患者数が増減相半ばしたかと思うと、翌週の2023/11/26(表1C、第27週)には一斉の増加に転じ、ほぼ全ての都道府県で久しぶりの増加を示しています。新たな変異株の報告はありませんので、何らかの変化が変異株の中で生じたのではと思いました。厚労省は、寒くなるとコロナウイルスが活発になり患者数が増えるのは例年のこととし、注意観察を促しています。
 
 当シリーズもそんなものかなと思いますが、冬がウイルスの増殖に適しているのではとも思えます。変異株エリスは収束したものの、日本は変異株の溜まり水に浸かっているようなものですから、残存変異株は次々と次世代を生み出し、覇権レースを再開して生き残りをかけるのではと推測しています。そんなコロナウイルスに冬は天恵かもしれません。表1右の26週目以降の赤の患者数急増に、そんな活況を窺わせる事態を考えます。

      図2:定点観測下患者数と都市規模別の期間内変動

*左図の青矢印部分を拡大したものが右図
*右図中央の赤矢印線は患者数差の平均値0.37を示します。

 覇権レースは、図2左の定点観測下の都市規模別の患者数経過グラフでは見ることができません。その右端に形成された平坦な底上げ層の中にその再開を推測する以外にありません。そこで、図2左の青の下方棒線が示す第27週目の感染者数変化を拡大し、図2右として検討することになります。
 定点観測下の患者数は、定点配分の結果、常に小都市圏>中都市圏>大都市圏であることは繰り返し述べてきました。このことは、小都市圏での情報過多、大都市圏での情報過小を危惧させるものですが、同図の赤い線グラフの患者数差も、小都市圏で激しい上下を繰り返し、大都市圏では患者数変化は僅かでしかなく、中都市圏はその中間の変化を示しています。それにしても、生き残りをかけた覇権争いが、何故小都市圏で激しいのかと首を傾げたくなります。情報過多、情報過小による偏った患者数区分は、自然な患者数推移に定点配分が関与した人為的背景を、常に考える必要があると思われます。 

 こんな問題が変異株ピロラ侵入時にも続くとあれば、定点観測が変異株ピロラを時間的、情報量的に適切な対応を可能にするのか不安になります。

 コロナ変異株近況
 世界の新型コロナ感染は、厳しい状況を迎えつつあります。
 都安研の世界の新型コロナウイルス変異株流行状況(12月1 日更新)、GISAIDに登録された各国からのゲノム報告例数と国別流行株(10月20日~
11月20日)の新たな報告を載せています。世界で、主要変異株上位5種以内に変異株ピロラもしくはその下位世代を認める国は前回より倍増し、フランス、ベルギー、アイスランドでは変異株首位となった現実を報告しています。変異株ピロラがやがて欧州を席捲することは確実と思われます。
 日本への侵入は、変異株上位5種に未だ変異株ピロラを登録していないアメリカ経由を当シリーズでは想定し、1ケ月以上の余裕を推測していました。ところが、韓国、オーストラリアでは、既に変異株ピロラが上位5種以内に登録済となっている現状が報告されています。アメリカ経由とは別ルートもあり得るとなれば、欧州事情と合わせても、日本侵入は早まるかもしれません。

                     2023/12/4
                     精神科 木暮龍雄

         



 


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