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ブルース名盤紹介39 Prodigal Son / Robert Wilkins

ギター1本による多彩な表現力。

今日はミシシッピデルタ〜メンフィスの
元カントリー・ブルース・シンガーで
ギタリストの
ロバート・ウィルキンスについて
書いていきます。

元、と書いたのは、
1936年以後、
彼はブルースの世界から
きれいさっぱり足を洗い、
信仰の道へ入ってしまったからです。

そのロバートが、
まるで黒歴史のように、
口を閉ざして、振り返りもしない
若かりし日のブルース音源集。

それが今回紹介する
”Prodigal Son”です。

このタイトルにもなった
”Prodigal Son”。
ローリング・ストーンズが
ベガーズ・バンケットで
カバーしたことでも有名です。

生い立ち

本名はロバート・ティモシー・ウィルキンス。

1896年1月16日,
ミシシッピ州、デルタ地帯の北部の町、
ハーナンドーに生まれます。

ブルース・ファンにとっては、
生まれを聞いただけで、
ワクワクする地名、ミシシッピ。
彼もまたその地の出生でした。

母親はチェロキー・インディアンと
白人のハーフで、
父親は黒人でした。

2歳の頃、父親は
密造酒を作っていたのがバレて、逃亡。
その後、母親は再婚しました。

その継父はなんとギタリスト。
若きロバートは、
その継父にギターを教わることに。

そして15歳の頃には、
ハーナンドーのパーティで
演奏するようになり、
ガス・キャノンや
ジム・ジャクソンと出会います。

その後、1915年にメンフィスに移住。
そこでも、ファリー・ルイス、
フランク・ストークス、
メンフィス・ミニー等と知り合いになりました。

このように
様々なミュージシャンとの交流を深め、
ジャグバンド結成など、精力的に活動。

ミシシッピデルタ〜メンフィスにおける、
南部のブルース・ムーヴメントの
一端を担う存在となりました。

そしていよいよ1928年には初録音。

ミシシッピ・デルタやメンフィス、
テキサスなどなど、
カントリー・ブルースの
アーティスト達が、
こぞってレコーディングされ始めた時代。

まさに
「カントリー・ブルースの夜明け」
ともいうべき時期でした。

それでは曲を聴いていきましょう。


曲紹介

◆Rolling Stone

1928年9月7日、メンフィスにて。
記念すべき初の録音。

ディープなミシシッピ・サウンドの
イメージぴったりな曲。

ブルース特有の、
絶妙な音程を行き来する
低くほの暗い歌声。

そこに相の手を入れるギター。

世俗離れした雰囲気に、
ゴスペルの道へ進むという
彼の未来を予感させます。

◆That's No Way To Get Along


1929年9月23日、メンフィス録音。

のちに
”Prodigal Son”として再録音される曲。

先に触れた、
ローリング・ストーンズがアルバム
「ベガーズ・バンケット」で
カバーしたオリジナルがこれです。

この頃は
”That’s No Way To Get Along”
というタイトルで発表されていました。

◆Alabama Blues

1929年9月23日、メンフィス録音。

ブルース以前のフォーク・ソング調の曲。
覚えやすいメロディが楽しく、
ロバートも優しい声で歌います。

軽快なリズムを刻みながら、
メロディで味付けする
ギターテクニックが素晴らしいです。

◆Get Away Blues

1930年2月、メンフィス録音。

パーカッシブなギターのイントロ。
コードチェンジの緊張感や、
リズムパターンを
めまぐるしく変化させる
リフの自由な展開。

ロバートの魅力の一つとして、
この多彩なギターテクニックを
忘れてはいけません。

◆New Stock Yard Blues

1935年10月10日ミシシッピ州、
ジャクソンでの録音。

ティム・ウィルキンス名義で、
2人目のギターにサン・ジョー。
パーカッションにスプーン(!)演奏の
キッド・スプーン。

このカタカタいう
スプーンの音色が特徴的。

まるで、サン時代における、
エルヴィス・プレスリーの後ろで、
カタカタとベースの弦を
叩きつける演奏をした
ビル・ブラックを思わせます。

この曲を、若き日のエルヴィスは
きっと聴いていたんではないか。
そんな事を想像するのも楽しいですよね。

◆Losin' Out Blues

1935年10月12日、ミシシッピ州、
ジャクソンでの録音。

ロバートのブルース時代を
締めくくる曲、と考えると
感慨深い作品。

不思議なコード進行が、
どこか異世界へ導いてくれるようです。

本CDは、
録音順に並べたコンピレーションですが、
偶然とはいえ、
アルバムを締めくくる曲としてピッタリ。

冒頭の”Rolling Stone”から
この”Losin' Out Blues”まで、
様々なバリエーションの曲が
楽しめる「アルバム」としても
素晴らしい作品です。

まとめ

今日はロバート・ウィルキンスの
”Prodigal Son”について
書きました。

彼はこれらの録音の後、
ブルースの演奏を一切やめて、
信仰の道に進むことになります。

きっかけは、1936年に
自分の演奏するパーティで起こった
殺人事件でした。

当時は、
悪魔の音楽と考えられていたブルース。

惨劇を目の当たりにし、
悪魔の音楽を奏でていた自分を
責めたのかもしれません。

その後、1960年代の
ブルース・リバイバルで
再発見されましたが、
その際も彼は、ゴスペル演奏に徹します。


そんな彼の
限定されたブルース時代の音楽。

夏目漱石の”こころ”に登場する
先生が、その過去について
口を固く閉ざしたように、
ロバートも、この時代について
語りませんでした。

不健全で、やましく、
それでいて魅惑的な
青春時代のほとばしる熱情。

本CDから、
そんなロバート先生の独白が
聞こえてくるようです。

今日は以上となります。
最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。

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