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「のり弁当」の主題による変奏曲 Var.2「ツナサンド」(WIP)

「ああ、ツナサンドか」

直人は胃の辺りをさすり、無感動に呟いた。
エビサンドか、なんならローストビーフが良かった。
エビサンドに添えられた
アボカドのクリーミーな歯応えを、
ツナサンドに求めることは出来ない。

ビニール袋のフチをつまむのに苦心しながら、
直人は袋の口を開ける。
そして濡れていないことを確認し、
公園のベンチに座った。

直人の呟きに顔をあげた同僚の佳代は
「ツナサンド、私は好きよ」
「もう持ってこないわ」と言った。

「いや、俺も好きだよ」

空気が一瞬、小さく緊張し、
そしてすぐまた緩和した。

こうした些細な嘘が、
直人の日常に染み付いていた。

のせられたレタスの水分が、
パンに染み、しなびている。
直人はそれを、一口サイズに噛み切る。

唾液が口の中に広がる。
とにかく腹が減っていた。

ツナの慣れた味わいを楽しむ。
直人の体全体は、消化の活動のために動き出した。
街路樹が風に揺れ、かさかさと音を立てる。
その中、ビニールの音が、
オーケストラを従えたエレキギターのように
存在を主張している。

体が消化活動を始めるのと同時に、 脳から何かの物質が出る。
満足感が染み出して、心を温かくした。

些細な嘘。 それは誠になっていった。

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