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プルースト効果もどきが塩酸で起きた話

本日3限、社会学の授業で「プルースト効果」(特定の味や香りからそれにまつわる過去の記憶が想起されること)が出てきました。紅茶にマドレーヌを浸すアレです。

続く4限、調理学の授業で酸味料の話が出ました。
「酢酸と違って塩酸は電離度が限りなく1に近いため、多量のH+が舌を刺激しますから、調味料としては不適です」

その瞬間、記憶の扉が開きました(味も香りも感じていないので厳密にはプルースト効果ではない気もしますが、キーワードで過去の記憶が急に呼び覚まされる現象って、他に名前がついているのか知りたいところです)

塩酸レモネード。

のてりあすの高校はもともと旧制女学校でした。そのせいかどうか、図書館に併設された書庫の奥深くには、戦前の料理本が数冊置いてありました。その中に、この強烈なネーミングの飲み物があったのです。しかしなにぶん数十年前の話。どこかに似たようなレシピが落ちていないか、ちょっと検索。

ん?
リモナーデ?

希塩酸自体はれっきとした医薬品として日本薬局方に載っています。その用途の所に「リモナーデ剤として使用」と書いてあるのです。で、リモナーデとは何ぞや。どうやら糖分を含む酸性の液状の薬で、塩酸やクエン酸などにシロップを合わせたもののようです。塩酸を使えば「塩酸リモナーデ」ということです。
何か謎が解けそうなので、まずは昭和12年の「婦人家庭百科辞典」の「リモナーデ」を引いてみます。「『レモナード』を見よ」とあります。つまり、リモナーデ=レモネード。
そして戦前の読売新聞を検索してみました。……ビンゴ。大正11年の家庭欄の記事に「リモナーデはどうして作りますか?」とあり、医学博士の某氏が各種リモナーデの作り方を分量付きで丁寧に記してくれています。中でも塩酸リモナーデは清涼飲料というだけでなく、「胃液の分泌を助け、消化力を進める」と、薬効を示唆されています。例の料理本にこの記事が参考にされたかどうかは定かではありませんが、塩酸レモネード=リモナーデは、薬と飲料の中間のような感覚で世間には知られていたようです。

当時友人たちと「見て塩酸だってヤバい」(※こんな言い方ではなかった)ときゃあきゃあ面白がってそのまま忘れ去っていたものを、30年越しで知識として再入手したのは何か不思議な感覚です。そのためのツール、スキル、きっかけ、全部望めば手に入れられる、大学というものはつくづく「知的好奇心を満たす場所」なのだなあと感じます。

そしてレシピ(配合というべきか)手に入っちゃったんだよなあ。買おうと思えば通販で希塩酸は買えます。……試してみるべきでしょうか??


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