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酒と肴と経済と あれから、これから、〜プロローグ〜

2016年に老若男女が集い、旨い酒と食卓を囲みながら語り合った政治、経済、暮らすこと、生きること。 あの時のひとつひとつの言葉は心の真ん中にしっかりと根を張り、今に繋がりをもたらしています。登壇者、参加者、主催者は今日、何を思って、どう過ごしているのでしょう。 5年後の今だからこそ聞きたい、あれから、そしてこれからのこと。何かの糧となるだろう言葉が集まりました。

「酒と肴と経済と」は2016年にpeace flag projectが企画した催しです。
震災後の対応や、安保関連法案、共謀罪法など不穏な法案を続々強行採決していく政権に不信感が募り、とはいえ政治活動などとも縁がなく、声高に反対を叫ぶよりも目指したい未来を軽やかに表明していこうと、平和を願う青い旗を手作りし掲げ、上映会やお話会なども開催していました。

ワイワイ楽しく、けれど集まるのはいつも子育て世代の女性が中心でした。そこで、男性や若い方やもっと幅広い層に来て欲しいと、peace flag project代表井﨑敦子さんと事務局の町田紀美子さんが中心になり、食卓を囲みながら経済の話をする会を計画したのがはじまりでした。

上関の美しい海から高島美登里さんと漁師さんたちと持ってきてくださった獲れたてのお魚、屋久島の自然農家本武秀一さんのつやつやの新米、京都大原の野菜を使った料理家岡田桂織さんに美しく美味しい肴をご用意いただき、寺田本家24代目当主寺田優さんに持ってきていただいた発酵力を感じるお酒でいただきました。

ゲストには麹文化研究家なかじさん、鳥取で自家製天然酵母パンとクラフトビールづくりをするタルマーリ―の渡邉格さん、ロックバンド銀杏BOYZの元ギタリストで現在は周防大島で自然栽培に取り組みながら、僧侶として暮らす中村明珍さんをお迎えし、目指したい暮らし方を模索、実践している方々にご参加いただき、二日間に渡りお話を聴き語り合いました。このときのことはずっと心に残り、この場にいた方々といつもどこかで繋がっているように思えます。

町田紀美子さんは2017年に故郷東京に戻って緑豊かな深大寺の地に「park」というお店を開き、子育てをしながら美味しくて安全な食、心地よい衣服や生活道具など、暮らしにまつわる素敵なものごとを届けています。

井﨑敦子さんは、2019年の京都市会議員選挙に左京区から無所属無党派で立候補し、草の根プロジェクトという素人だらけの選対を立ち上げ、公職選挙法を勉強しながらも既成概念にとらわれない選挙活動を繰り広げ奮闘し、惜しくも落選するも、介護や福祉の現場で働きながら市民がもっと気軽に参加できる政治のための様々な試みを続けています。

コロナ禍で厳しい選択が個々に迫られる状況のなか、あのとき聞いた話は今こそ改めて必要なものだと思い、このたび当時の映像を振り返り書き起こしをいたしました。企画者登壇者のことば、そして当時高校生で参加してくださっていた早野さんといまも繋がっているという町田さんによる大変勇気づけられるインタビューも掲載しました。

もどかしさや息苦しさのなかでも小さく撒いた種がすくすくと芽を出し花開くことを思い浮かべ、皆さんそれぞれが好きなことや大切にしていることをあきらめずに耕し続けられることを心より願いながらこの内容を共有いたします。
また皆様と美味しいものを囲みながらいろんなお話しができますように。

企画者のことば
イベント当時のこと、そして現在、未来について思うことを聞いてみました。

井﨑敦子
プロフィール:1964年10月27日生まれ。大阪府岸和田市出身、小・中・高校生活は奈良県天理市で過ごす。立命館大学二部文学部哲学科卒業。大学卒業後、会社員を経て、2013年京都左京区北白川にオーガニック食材店スコップ・アンド・ホーをオープン。2015年夏、安保関連法案に反対して仲間とともにピースフラッグプロジェクトを始める。2016年秋/仲間とともに、買い物を通じて顔の見えるコミュニティ作りを目指して京都ファーマーズマーケットを始める。2017年、政治と暮らしの距離を縮めたいと仲間とともに、くらしとせいじカフェ京都を始める。2018年、介護初任者研修を修了し、介護の仕事をアルバイトで始める。2019年、京都市議会議員選挙に無所属新人で立候補。すべて継続し現在に至る。

―― やる気の源はなんですか?
やる気の源、なんなのだろう?と考えてみましたが、実はとても曖昧で「生きてる間はちょっとでも楽しく生きたい。自分がそうだということは誰もがきっとそうなのだろう」という気持ちでしょうか。そんなぼんやりした気持ちの襞をめくっていくと被差別部落出身の母と一般人?の父との間に生まれたこと、数々の差別を直接受けてしまった経験、そこを発生源とする強い怒りがあるのかなと思うのですが、怒りの反動で生きていることがものすごく愛おしくなったのだろうと思います。
リンカーネーションは分子レベルでは厳然とした事実だと思いますが、私の怒りや悲しみや愛情や、そういったものは今の今、まさに一回きりで、だけど、だからと言ってそんな大層なものではなく、誰もがそうであるから、取るに足りないものでどうでもいいものであり、しかしながら同時に、世界の成り立ちに少なからず関わっている、なくてはならないものなのだろうと思っています。
すべて一回きりで、今がすべてで、「生きているうちが花だ」と思うので、なるべく楽しんで生きられたらいいなあと思っています。
要するに目的ではなく過程がすべてで、それは十人十色だろうから、「こうでなければならない」ということは何もない。
ということは、「私はこうしたいんだ」っていうのは通したらいい。
相反するようですが、人とつながっていくときはそんなことを考えています。

―― 5年前のイベント当時と今とで、そのモチベーションが変化したりやり方を変えたりしたことはありますか?
一昨年、選挙に出てみて、やっぱり社会の見え方は変わってきていると思います。
「やってみたら見えてきたこと」っていうのがあって、民主主義で人々が目指していることって、さっきの「生きてる間はちょっとでも楽しく生きたい。
自分がそうだということは誰もがきっとそうなのだろう」っていう状態を作り出し維持することだと思うのですが、今の仕組みだと、民主主義ではなくて多数決主義だなあと思います。多数決&おまかせっぱなし主義。
なぜか「政治が世襲」という恐ろしいパターンの中で生み出される国会議員や、勉強出来ることがスーパーパワーを持っているという思い込みの中で選ばれた官僚にほぼ任せきりになっている。そんなはずないだろう?って思っていましたが、民主主義は未完成で、仕組みが全然ないのだな、ということが選挙に出てみてはっきりした。
これは希望だな、と思っています。
腐敗でも不正でもなくて、そもそも未完であり、仕組みがないのだから。
無いなら作っていけばいい。
ワイワイと小さな単位で楽しみながら作っていけたらいいと思います。
ルールはただ一つで、サケサカでもテーマだったかと思うのですが、言葉にすると「自然」や「いのち」ということになるのでしょうか。
「活き活きと生き死にを繰り返す世界」を大事にしたいと思います。

―― 個人やコミュニテイーの枠を超え、考え方の違いやフィーリングが合う合わないを超えて価値観を共有したいときや言葉を伝えるときに心がけていることはありますか?
日常というのはありがたいもので、なにかを人に伝えなくてはいけないことって、そうそう無いと思うのです。たいていのことは「概ねオッケー」で流れていくのが日常の偉大さですよね。でもどうしても伝える必要があるときは本当の事を率直に言うことでしょうか。
それで破綻してしまうこともあるという覚悟をしつつ。

―― いま一番感じる幸せとか、喜びとか、大切なことはなんですか?
友達と語り合っている時、ご飯を食べている時、綺麗な海や川に浸かっている時、旅行に行くこと、買い物すること、面白い本を読んでいる時、面白い映画を見ている時、ずーと考えていたことがちょっとわかった時、犬と一緒に昼寝している時とか、きりがありません。自分の日常は今の所、小さな幸せに満ちているのだなと思います。

―― 逆に、嫌だったり腹立たしかったりすることはなんですか?
大規模な自然破壊、マスメディアやSNSでの情報操作、政治権力の乱用、人権蹂躙、ありとあらゆる差別。
自分の日常から離れたところで起きているように思われるこういうことが、実は自分の日常にも大きく影響しているのだと思いますが、自分のことを棚に上げているかのような一抹の罪悪感と表裏一体!

―― これからやりたいことはありますか?
今やっていることの継続です。

​​町田紀美子
​​プロフィール:神代植物公園近くで、無農薬野菜や旬の素材を使ったランチプレートやカレー、開店前に手ごねで作られている無農薬小麦をつかったドーナツを提供するカフェとこだわりの生活道具が並ぶギャラリー「park」を営む。

―― やる気の源はなんですか?
生活道具とカフェの小さな店を営んでいますが、ここには人々の人生の煌めきが詰まっていると思っています。全ては誰かの思いや、日々の瞬間に選択してきた、尊い決断の積み重ねから形になったものばかり。道具も食材も、その生い立ちの全てが愛おしいのです。愛おしいと思うものを、店を訪れる人々に伝える。それが誰かの暮らしをちょっぴり彩るきっかけとなるって、すごくワクワクするのです。けれど決して押し付けないこと。あくまでたくさんある中のひとつとして、提案し続けることです。

―― 5年前のイベント当時と今とで、そのモチベーションが変化したりやり方を変えたりしたことはありますか?
あの時も今も「子どもたちがいる未来」を思っています。あの時と違うのは、店という小さな場所で、子どもたちが希望を持って生きていける未来に進んでいくための行動をしていること。誰もが自分を大切に思えるような場を作りたい。その多くは大それたことじゃなくて、一緒に経験することや、私たち大人が「生きるありのままの姿」を見せることなのかなと思います。懸命に、息抜きしながら、愛を持って、優しく思いやり合いながら。諦めなかったり、逃げてもいいよって思わせてあげたり。生きていて苦しい世の中ではなくて、ちょっとしたことに楽しさを誰もが感じられる世の中であるように。

―― 個人やコミュニテイーの枠を超え、考え方の違いやフィーリングが合う合わないを超えて価値観を共有したいときや言葉を伝えるときに心がけていることはありますか?
やっぱり押し付けないこと。誰かのせいにしたり、自分を正当化しないこと。様々な立場があり、そうせざるを得ない状況があることを理解すること。独りよがりな方向に想いが偏れば分かり合えることはないし、相手への共感が深まれば、こちらの思いも伝わるのだと思います。

―― いま一番感じる幸せとか、喜びとか、大切なことはなんですか?
家族や仲間たちと笑い合っている時。共にいる人が幸せそうにしていると、私も満たされています。

―― 逆に、嫌だったり腹立たしかったりすることはなんですか?
独りよがりの選択。私は地球に住まう様々な生物の中のたったひとつの存在なわけですが、自分以外もみんなそうなんですよね。だとしたら、自分以外の存在に敬意を払って過ごさなくちゃと思います。 大人はよく子どもに「自分がされたら嫌なことは人にしないこと」って言いますね。他人、動物、微 生物、自然。身近なところからもっと広い範囲まで想像力を巡らせて及ぶ影響を考えて暮らさないと なと思います。そうしない政治や、影響力を持つメディアや企業や人々や。それはないよなと腹が立ちます。

―― これからやりたいことはありますか?

ひとつの入り口をくぐれば、そこは未知のことだらけ。これからも様々な入り口をくぐって、面白い発見、驚きに出会っていきたいです​。

インタビュアー:竹添友美 
フリーランス編集・ライター。主に地域や衣食住、生物、ものづくりに関わる雑誌、WEBサイト、書籍の企画・編集・執筆を行う。
2013年に引っ越した京都で近所にオーガニック食材店スコップ・アンド・ホーがオープンし、そこでさまざまな無農薬野菜とその生産者さんたちと出会う。
2015年よりPeace flag projectに参加、翌年Kyoto Farmers Marketを開始、事務局に参加。

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