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酒と肴と経済と 参加者:早野拓真さんインタビュー(2020年9月)

これまで、2016年にpeace flag プロジェクトが開催したイベント「酒と肴と経済と」のアーカイブ記事を公開させていただきました。
今回の記事は、あの時高校生だった参加者のおひとり、早野拓真さんにインタビューさせていただいた内容です。

―― 酒と肴と経済とに参加してくださった時は、高校生でしたね。
はい、高校2年生でした。

―― イベントに参加してくださった時のディスカッションで、和歌山県の「きのくに国際高等専修学校」に通ってらっしゃることを知りました。遠くから参加してくれたことも嬉しかったです。
学校での学びも面白かったのですが、更なる刺激を求めて友人と参加しました。

―― きのくにではどのようなことを学んでいたのでしょうか。
小学校2年生から高校3年生まで通っていたので、本当にたくさんの時間をきのくにで過ごしました。
授業は一般的なスタイルとは違っていて、あるテーマを設けたプロジェクトごとにクラスが分かれていて、その中で一人ひとりが学びを深めていきます。小学校なら、建物を作るクラス、料理をするクラス等で、体験学習が主な授業で、どのクラスも異年齢学級になっていて、1年生から6年生が一緒になって学びます。
クラスの選び方は、4月の学校が始まる時に担任のような役割をする大人が、そのクラスではどんなことを行うのかプレゼンしてくれます。
それを受けて、子どもは自分のしたい活動をよく考え、興味のあることをそれぞれが選びます。プロジェクトがメインの学びですが、他には「数」と「言葉」という授業があって、数学や国語のようなものもちゃんと学びます。
小学校では、建物をつくるクラスや劇をするクラスに入っていて、中学校では元々昆虫などが好きだったこともあり「動植物研究所」という「自然との関わりを探る」をテーマに活動するクラスを3年間選びました。
このクラスの活動を通して環境問題に興味を持ったことをきっかけに、高校では、「食料主権と世界の仕組み」というクラスに入りました。このクラスでは「豊かさとは何か?」をテーマに農業・食料面の様々な問題について学びました。

―― それまでの学びを経て、イベントに参加した早野さんの実感として得られたものはありましたか?
学校の学びは楽しかったのですが、悶々としている部分があったんです。
例えば、農業でいうと農薬を使わないのはベストではあるけど、それだと生産量は少なくなる・仕事として成り立たない・ただでさえ農業人口が減る中で更に手間を増やすのはきつい等々、そこにはたくさんの課題があって、皆で話していたりしていても「色々あるけど、今がベターなんじゃないの?」と。
でも、僕はそこに納得できなくて。なんかもっと良い方法があるんじゃないか、実践している人はいないのかと思っている時に、このイベントで寺田優さんや渡邉格さんを始め、言うだけや否定するだけじゃなくて、自分たちの理想や思いを、きちんとビジネスとして実践している方々に出会えて、これこれ!と思ったことを今でも憶えています。
そこでの出会いがきっかけとなり、その後様々なイベントにも参加しました。
明珍さんのいる周防大島へも行きましたし、東京の「かぐれ」というアパレルショップでのイベントで寺田優さんに紹介頂いた小倉ヒラクのさんが新たに立ち上げた「発酵デパートメント」で働くことになったりと、あの時のご縁がここまで繋がっていくとは想像も出来ませんでした。
いつか自分のお店を持ちたいと思っているのですが、今でも「酒と肴と経済と」の時間の延長線上にいる感じがしていますし、あの時にあれだけ熱い思いを持っている大人たちに巡り会えて本当に良かったなぁと思っています。

―― お店を持ちたいと思ったきっかけは何ですか?
岡山の蒜山工藝という農家さんに行った時のことです。
蒜山工藝の高谷さんご夫妻は農薬と肥料をつかわず、「自然栽培」や「無農薬」というカテゴリに惑わされず、ひたむきに自然と向き合っているむちゃくちゃ素敵な農家さんなのですが、そこは「くど」という飲食スペースも運営していて、ある日そこに、ぱっと見はいわゆるギャルママさんたちという感じで、茶髪、化粧バッチリ、マニキュアばっちり、みたいな方々がお客さんに来られたんですね。
そしたら、くどのメニューって素材に大変こだわっているが故に、安いとは言えない金額帯なんですけど、ランチや飲み物、デザートまでしっかり食べた後に、レジ横で売っている、これまた安いとは言えないお餅を何袋も買って帰っていったんですよね。その光景を見た時に、「うわーお店って面白い」って思ったんです。
お店の可能性を感じたというか。
もしかしたら、あのママさんたちは、日頃からものすごく食にこだわってらっしゃるのかもしれないし、蒜山工藝にきて素直に美味しいと思っての行動かもしれないし、それはあくまで僕の想像でしかないんですけど。
長く使えるものとか、本当に体に良いと思えるものって、伝えようと思った時に、どうしても価値観が先行してしまって、感度のある人にしか届かないような感じになってる場合があるのかなと思っていて。
でも、それだとどうしても届く範囲が狭くなってしまうし、「これいいよね〜!」というのもとても楽しいんですけど、社会に対して「こういうのって面白くない?」と問いかけることのほうが自分はやりたいし、そうなった時にお店ってその人によって色々な関わり方ができるし、そこに正解はないじゃないですか。
押し付けないし、強制しない。
でも自分たちの思いは発信できるし、伝えるための仕組みはたくさん作ることができる。そういったお店の許容量みたいなのを、蒜山耕藝での場面には感じましたし、面白いなと思いました。
また、「お店の学校」というオンラインのスクールがあって、そこでマザーハウスの代表・山崎大祐さんに話しを伺った時に「今、多様性という言葉が頻繁に囁かれますが、マザーハウスが考える多様性とは、思考と価値観でつながっていくこと」と仰っていて、これから、人種や性別ではなくて、価値観や思考でそれぞれの人が繋がっていくのだとするなら、さらにお店やリアルな場所の価値は高まっていくような気がしていますし、価値観や思考が同じ人同士が繋がっていくことはもちろん、知らなかったモノやことに出会うことで、その人の生活が豊かに、そして購買を通してつくり手も豊かになる仕組みが、自分のお店実現できたら良いなと思っています。

―― これまでもそうだっただろうけど、これから残っていくお店は今まで以上に、ただものを売る場としてだけの役割ではなく、価値観を示したり共有したりが求められるのではないかなと思っています。早野さんが共有したい思いって、一体なんですか。
お店の学校の第3~4回目くらいに、ALL YOURS https://allyours.jp/ というブランド代表の木村まさしさんという方がゲストの回がありました。もともと大手のアパレルにいらした方なんですが、今はクラウドファウンディングなどを使いながら服作りをされている方で、木村さんはもともと5.60年代のヴィンテージとか古着がものすごく好きな方なんですが、その木村さんが「今の子たちにとってはもう90年代のものが古着と言われるようになっていて、いつか2000年代のものが古着と言われる時代になった時に、いわゆるファストに作られた服たちが古着として使えるのかというのも微妙だけど、古着からファッションに入った人が、服の良さに気づいたり、ファッションて良いよね、古いものを素敵だよねって思えなくなる世の中ってつまらないっていう課題感を持っているし、業界がファストファッション化していく中で、自分たちの残したいものを売りたい価格で作っていこうとお店を立ち上げた」と仰っていて。
その話を聞いた時に、僕にもそれに近い感覚があるなと思ったんですよ。僕はいいものを使おうよ、丁寧な暮らしをしようよって言いたいわけじゃないし、100均を使うことだってある。こだわりがあるというよりは、ファストファッションや100均のものでも暮らしていけるけど、それだけしかない世の中って面白くないよねってすごく思っていて。
食べ物もそう。手頃な調味料でも暮らしていけるけど、代々受け継がれる貴重な製法で作られたような味の奥深さとか複雑さとか文化があるし、ストーリーしかないものも世の中にはごまんとあるのかもしれないですけど、本気でものづくりしてる人もたくさんいて、そういうものって美味しいとか、着てて楽しいとかはもちろん、やっぱりかっこいいし、使い続けたい。
木村さんの言葉でかなりその辺りの価値観が言語化された感じがありましたし、これからもっとインプットとアウトプットを増やしていきたいですね。

―― コロナでの様々な対応については、どう感じていますか?
個人的には、わかりづらい、全体の認識が取りにくい病気だと思っています。
イベントの最後に、なかじさんが分断の話しをしていましたね。
なんとなく、そちらの方に世の中が向かってしまったなという感覚がありました。例えば、マスクをする人、しない人で区別が起きているというか。良いことも悪いこともあぶり出されたなという印象です。けれど自分自身は悲観的に捉えていません。人が理由を求めて何処かに動いたり(地方とか)、価値観の転換が起きているなと思っています。

―― 政治的な面では、どう感じていますか
同じく悲観的には見ないようにしています。
もちろん、いつまで昭和やってんのかな(笑)と思うこともありますし、遅れていることもたくさんあると思いますが、事実進んでいることもある。
完璧な人がいないように、完璧な政治もないと思っていますし、結果は違いますが、個人的にはいつか時代が追いつく日が来ると思ってるんですよね。
だから前を向いて、今できることをきちんとやっていきたい。そして待つのではなくて、希望を忘れずに今ある問題にきっちり目を向けることもとても大切だと思っています。
政治、経済的な倦怠感がある一方で、小さいかもしれないけれど、自分たちが目指す未来に対してきちんとアクションを起こしている人がいることが僕にとっては希望ですし、そういう大人たちがいるからこそ、次に頑張れる。
そして、次は自分がそういう大人になるために、と言ったらおかしいですけど、次のために力をためているという感じがあります。


―― きのくにという場で育った早野さんは、恵まれているようにも思えます。教育って、やっぱり大事だと思いますか。
教育というよりは、自分でチャレンジすることができる環境は大事だなと思いますけど、それ以上に「大人の姿勢」というのもすごく大事だなと思っていて、イベントなどで素敵な大人たちに出会って僕の価値観がつくられていったように、やっぱり出会う人の「姿勢」や「言葉」って物凄く影響を受けるじゃないですか。
なので、場をつくったりすることと同じくらい、大人がどう生きているかという姿勢が下の代にとっては「教育」になるんじゃないかなと思っています。
僕はまだ若すぎますが、それでも下の代には見せられる範囲で見せたいと思うし、例えば「なんで選挙に行くの?」みたいな質問もちゃんと自分の答えは言えるように、日々色んな角度で物事を考えて、意識することを心がけています。もちろん全部は100%の答えは無理だし、あの時はああ言ったけど今は違うなみたいなこともしょっちゅうあります(笑)
でも、意識してないと、気づかないで過ぎていってしまうことって結構あると思いますし、SNSが身近にありすぎて、気づいたら否定的な感情に寄っていくこともありますが、日々転がっている希望の芽もしっかり見ていきたいです。
そして、関わり方の深度は違えど、自分が面白い・美しいと思うモノやことを通じて、速い・安いみたいなだけじゃない価値観をお店を通してつくっていきたいなと思っています。

―― ありがとうございました。

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早野拓真
プロフィール:千葉県出身の22歳。小学二年生の時に、実家を離れて和歌山にある「宿題もチャイムもない」全寮制の学校「きのくに子供の村学園」に転校。
中学時代のクラス活動で、ミツバチの農薬の問題を知ったことをきっかけに環境問題に興味を持ち、高専では農業や食料にまつわる社会問題を学ぶ。
高専卒業後、一年間のギャップイヤーを経て、合同会社ANDONに入社。
入社直後から、弊社が運営している東京・日本橋の立ちのみ&おむすびのお店「おむすびスタンドANDON」イベント企画担当として月に10本ほどのトークイベントに関わる。
その傍ら複業的に東京・築地「Matcha Stand Maruni」 下北沢「発酵デパートメント」などでもパートタイムで働く。
2020年10月 前店長の転職に伴い、以降日本橋店店長として、運営・イベント企画に携わっている。
あの時高校生だった早野さんは、ますます積極的に、行動に移し動いていらっしゃいました。世の中の様々な考えや意見を足を運んで見聞きし、自分の中で噛み砕いて歩んでいく方向を柔軟に決めていく。価値観というものがどんどん揺らいでいく今だからこそ、出来事をしなやかに受け止めて、より良い方向を見定めていく姿勢こそが希望そのものに感じました。
印象に残ったのは、教育も大切だけれど、大人の行動を表す背中の大切さについて話していたこと。大人がしっかり考えを示したり、決断する姿を示していくことは必ず次の世代に繋がっていきます。未来を思って過ごすって、きっとそんなこと。自分たちが良ければ良いなんてナンセンス。気持ち良い未来を残すために、様々な方々と意見を交わし、声を上げていくことこそ、未来を作る種になるのだと思います。
インタビュアー:町田紀美子


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