古川柳かづみ読みvol.5:テーマ「年末年始」
発表時の季節と現在の季節が異なることはご容赦ください。
▽まえがき
新年あけましておめでとうございます。今年も「かづみ読み」宜しくお願いいたします。
と挨拶してナンですが、私、年末年始は特に何もしない人間であります。大掃除もせず、正月準備もせず。年賀状も十五年以上前から欠礼しており、付き合いの遠くなった友人のことを「年賀状くらいしかやりとりしてない」と話す人すら“まめだなぁ”と思ってしまう次第です。
私の年末年始といえば、実家で(作ってもらった)年越しそばを啜り、ビールを飲みながらテレビで某カウントダウン番組を見、翌朝「いい加減に起きなさい!」と怒られて、(作ってもらった)お雑煮をモグモグと食べる…というパターンが定番化しています。絵に描いたようなグウタラ者です。ちょっとは悪いなぁと思っているんですけどね。
今回の古川柳は、「年末年始」を見ていきます。
▽十二月人を叱るに日を数え
「今年もあと十日だっていうのに、何をグズグズやってんだいっ」なんて、威勢のよい声が聞こえてきますね。一年のけじめをきっちりとつけたい人にとっては、年末の仕切りは一大事。やるべきことはすべて終わらせないと“年を越せない”と思っているから、口調も鋭くなろうというもの。グウタラ者にとっては、“うるさいなぁ”くらいの感想しかないのですがね。
▽大晦日鏡見ていて叱られる
年末年始には叱られる人、続出であります。鏡を見ていた娘さんも、真面目にお手伝いをしていたのでしょうが、ふと鏡の前を通りかかった時に、自分の姿が気になったのでしょう。あら、髪がほつれてるわ。頬も埃で汚れちゃってる…と、身繕いしているところに、母親が入って来て「この忙しいのに、鏡なんか見てるんじゃないよっ」。運、悪し。
▽大三十日(おおみそか)世間へ義理で碁を休み
のんびりしていて許されたのは、御隠居さんだけだったようです。やることもないのだから、いつも通りに大好きな碁を打っていても差し支えないと思うのですが、家中ひっくり返ったような慌ただしさの中、せめてもの“義理”を通したのですね。
▽大晦日首でも取つて来る気なり
商売人にとっては、ここ一番の大事の日です。当時は節季払い(お盆と暮れ)で、ここで掛け(ツケ)を回収しなければ、夏までお預けになる。そりゃあ、首でもなんでも取ろうという意気込みになるでしょう。
しかし、回収される方も必死で、
▽来たそうだうなりなさいと大三十日
明らかな仮病作戦です。払う気はあるのだが、亭主がこの有り様で…という泣き落しが通じたかどうかは不明ですが。
▽あくる日は夜討ちと知らず煤を取り
大掃除は“煤払い”といって、十二月十三日に行うものでした。江戸城の煤払いがその日に行われたので、町中もそれに習ったそうです。「夜討ち」とは、言わずと知れた赤穂浪士の討ち入りですね。その日が十二月十四日だったので、襲われるとも思わず吉良邸でも煤払いをしただろうという句。ちょっと技巧的な気もしますが、“見つけ”としては上手いなぁ、と思います。
▽年忘れ忘れずと能(よ)ひ顔ばかり
お江戸の昔も忘年会はあったようですね。「今年のイヤなことはパーッと忘れちゃおうぜ!」とグイグイ飲んでいるのは、昨日あったこともすぐに忘れるお調子者。忘年会などといっているが、飲める口実でさえあればなんでもいいのです。よって、集まる面々も、似た者ばかり。
そして、新年を迎えます。
▽元旦の町はまばらに夜が明ける
早めに寝についた家は早朝から動き出すでしょうし、夜遅くまでバタバタしていた家は昼近くまで寝ていたのかもしれません。“特別な日”としては、大晦日よりも元旦の方が厳粛な印象がありますが、カーニバル的な騒がしさの大晦日を終えた脱力感を含む日という感じもします。「元旦の町」と大掴みに捉えている視線が新鮮です。
▽年始帳あがるなといふやうなもの
年始帳とは、年始の挨拶に来た人に書いてもらう帳面のこと。これが出されているということは、直接会いませんよという意思表示であるというのです。確かに、年賀の挨拶を受ける家には、大勢の人が来るでしょうから、いちいち会うのも手間だし、お酒や料理も振る舞わなければならないとなると、年始帳でブロックしたくなる気持ちもわかります。
▽二人程どうでもしれぬ年始帳
客が引いた後に年始帳を見てみると、誰だかわからない名前が混じっているというのです。年賀状でもありそうな話ですね。「あなたのお知り合いじゃないんですか?」「いいや、知らねえよ。おまえの親戚とかじゃないのか」なんて夫婦の会話が聞こえてきそうです。
▽紙屑のたまりはじめは宝船
「宝船」は七福神が宝物を積んだ船に乗った図を描いた縁起物。正月二日の夜に枕の下に敷いて寝ると良い初夢を見られるといわれています。が、二日を過ぎると、ただの紙。一晩であっさりと捨てられる運命の紙であります。皮肉な目線が、川柳ですねぇ。
▽あら玉は皆よい男よい女
そう! 新年だけじゃなく、一年中“よい男・よい女”でありたいものです。
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