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古川柳かづみ読みvol.2:テーマ「お金」

 川柳誌「現代川柳」で「古川柳かづみ読み」を連載したばかりの頃は、本当に古川柳素人で、素人だからこそ書けるものがある!と思っていたのですが、あからさまな誤読を今発見すると、背筋がゾッとします。そういうところはさりげなく修正してますが、まだまだ出てくるでしょうね。そういう時は、やさしく指摘してくださいね。


▽まえがき

 ふと言われた言葉が人生信条となるってこと、ありませんか? 
わたしにとっては「お金があるからと言って幸せとは限らないが、お金がなくて不幸になることはよくある」。コレ、祖母に言われた言葉なんです。祖母も誰かに聞いた言葉かもしれませんが、なかなかに含蓄深いです。「お金だけが全てじゃないのよ」と諭されるより、しみじみと胃の腑に落ちる言葉です。雨露しのぐ屋根にも、グゥとなる腹の虫をなだめるにもおゼニは必要なもの。
 というわけで、今回のテーマは「お金」とまいりましょう。

▽百両をほどけば人をしさらせる

「しさる」とは漢字で書くと、「退る」になり、後ろへ下がることを言います。百両もの小判の封印をほどいてばら撒けば、お金好きな人でもびびって腰を引かされてしまうということですね。しかし、一旦は退いても、「これでなにとぞ」と頼まれれば、「よろこんで」とずいっと前に出る欲は持っていたいものです。

▽借金の利は死にかわり生きかわり

 一度借金をするといつまでもついて回る、という句です。
 二十代の頃の友人に、この“借金の利”に縛られている子がいました。しつこく借金を申し込んでくるので「親に頼みなよ!」と怒鳴ったところ、「前にも二百万出してもらったから、これ以上頼めない」と言い返してきたりして。少しは懲りなよ…と思いつつ、数千円程度なら貸していたワタクシ(戻ってはきませんでした)。
 お江戸の時代から、借金の利息というものは、「死んでも生き返るジェイソン君」だったのですね。

▽臆病も金と一緒にふえて来る

 といって、儲けてホクホクしっぱなし、とはいかないのが人のサガのよう。利息のジェイソン君とは縁無く暮らしていても、金があればあったで、すわ盗まれるかむしられるかと、びくびくドキドキするのが小市民です。
 これは何代も続いた身上ではなく、にわかに儲けた成金君の句でしょう。思いがけず金が入ってきても、平穏是無事をモットーに暮らしてきた男としては、有頂天にもなれず、豪遊も出来ず……。小市民の切なさとともに、ちょっと半笑いを誘うところが楽しいです。

▽傾城の箪笥を銭のころぶ音

 臆病を抱えてブルブルしているなら、吉原でイイ女でも抱いて眠りなよ、とアドバイスしたいところですが、どうやらその「傾城」も、アヤシイ懐具合のようです。
「傾城」は文字通り“城を傾けるほどの良い女”。けど、どんなに豪奢な着物を着てきらびやかに見せても、内証はお寒いことも多かったようです。せっかくの桐の箪笥も揺すれば小銭が鳴るばかり。これまた、切ないですねえ。 

▽富の札会日までは生きて見え

「富の札」は、宝くじのこと。当選発表(会日)までは、ただの札も生きているように見える、という意です。もちろん、札が生きているように見えるのは、そこに一攫千金の夢を託す持ち主の視線が注がれるからですね。
「富くじ」または「富突き」と呼ばれる宝くじは、本来寺社の普請直しや維持のための資金を集めるために行われたものらしいです。しかし、庶民にとっては、寺の本堂が直されようが、雨漏りしてようが知ったこっちゃない。一発ポンで大金を掴む機会だったわけであります。

▽富札の引さいてある首くくり

  一発ポンで大金を掴む夢を見ることは悪くありません。けど、この句のような事態に陥ると、悲痛以外の何ものでもないでしょう。
 富くじは一枚・二朱(現在でいえば一万円前後くらい)で、安くありません。それを人生の逆転を賭けて購入した挙句に、外れてしまっては…。
 おそらく、首をくくってしまった人は、その購入費も借金で調達したのではないかな、と思うのです。それは中七にある<引さいてある>の一語から浮かび上がってくるドラマ。これが、例えば<まき散らされた>であれば、まだ救いはあるように感じられます。
 
 現在の川柳と同じように、古川柳においても、句に描かれた情景が<事実>であったとは思いません。けど、句は<事実>よりも<真実>を突き付けます。富札を引き裂いておくことで、己の命を引き裂いた人間を描く。そこに「川柳」の視線を感じます。
 
 宝くじといえば、わたしが極貧だった二十代のある日、上司に「宝くじは夢を買うのであって、当たり外れをいうのは野暮だ」と言われたことがあります。それに対し「当たるかもしれない三億円より、今使える三百円(一枚の値段)が大事なんです!」反発していましたね。今でも、経済観念はかなりルーズな方ですが、首くくりとは無縁に過ごしております。や、毎月、カードの引き落としに少々ビクビクしていますが。

▽今はただ 人がらよりはかせぎがら

  身も蓋もないですね。人間、稼いでこそナンボ!
 まだ世間的な結婚適齢期の頃、友人(女性)の一人が「年収一千万の男を捕まえるより、自分が一千万稼ぐ方が早いと思う」と言っていました。それから十数年。その友人は仕事に励んで、一千万以上を稼ぎ出すようになりました。有言実行、あっぱれなものです。

 わたしはといえば、彼女ほどの甲斐性はないですが、自分の“楽しみ”のための資金は賄えている現在。有りすぎず、無いこともないってくらいが程良い身の丈ってことですかね。
 さて、またいっちょ仕事して稼ぎましょうか!

現代川柳研究会「現代川柳」2012年7月号掲載分を加筆修正
#川柳 #古川柳 #古川柳かづみ読み #徳道かづみ

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