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Peaceable Education #10 「幼児版ピースフルスクールプログラムの取り組み 座談会2」

~PSPを実践された先生方の座談会2「周りの人を巻き込むために」

ピースフルスクールプログラムはオランダで開発された子どもたちが社会参画するための学習プログラムです。その幼児版プログラムの実践について、この#9・10で紹介しています。
今回は、実践されてきたお二人の先生による座談会。みんなのみらいをつくる保育園東雲の元園長の成川先生と、同法人で長く保育に携わってこられた森永先生のご協力のもと、5月に行いました。

レッスンする人を育てる研修で大事なこと

なり:園では、レッスンする人を育てる研修を行ってきました。その研修では、このプログラムになぜ取り組むのか、わかってもらうのが大切だと思います。そこで、意見って何?とか、意見を聞いてもらえないとどんなことが起こるか、と考えてもらったり、保育所の保育指針について、具体的な例をあげて、つながりを説明したりしています。

もり:私は、まず自分の感情を知ることが大切と考え、気づくように働きかけます。
このプログラムでは感情を大切にしています。でも日常生活では、感情と行動が違っていることもあり、例えば親子喧嘩した後に「怒っているの?」と聞かれたお母さんが、怒っていないと答えながら、ドンドンと大きな足音を立てて階段を上っていくなど。言葉と感情が一致してコミュニケーションが生まれます。「今どんな気持ち?」と聞き合い、お互いの感情を言葉にして共有することから関係が生まれます。そのためにも、今自分がどんな気持ちなのか、感情を知ることが大切です。

なり:例えば、保育園でこれからお出かけするのに、靴をはいている2歳児たちがワアワアキャアキャアと大声を出している時、スタッフが「静かに靴をはきましょう」と注意するか、うれしくて声を上げている子どもを共感している子どもの姿と見るか、感情を知ることによって見方も異なってきます。

日ごろの言葉のやりとりを大事に

もり:感情と言葉が一致しない例としてもうひとつ。例えば、けんかの時すぐに「ごめんなさい」と言わせること。自分から反省する気持ちや、あやまったほうがいいと思うのが大切で、言葉はそのあと。そのためには子どもに教えるだけでなく、回りの大人たちも、ふだんから「お願いします」「はーい」「ありがとうございます」など、言葉のやりとりを見せるのが大事です。

なり:子ども同士は意外に寛容です。それが大人のルールや常識でどんどん窮屈になるので、その元の自然に戻る感じでしょうか。例えば、このプログラムの最後に「大人の手伝いをしよう」という内容があります。子どもたちを見ていると、もともと子どものすること、大人のすることという線引きをしていないので、困っている人がいれば大人だろうと子どもだろう助けるのは当たり前ととらえています。

保護者との関わり

なり:このプログラムに取り組むと子どもたちの発言が変わってくるので、保護者の方には取り組みを伝えようといろいろやってきました。例えば、ピースフルスクールプログラムに絞り込んだ保護者会を開き、大人相手にレッスンをしました。園はいつでも参観OKにしていたので、子どもたちと一緒に参加した方もいましたし、自分がいると子どもは気にするからと扉1枚隔てたところから見た方もいました。

もり:子どもの発言が変わってくると、家の中で、親子であっても意見が違うのは当たり前と思うようになるし、ものごとの決め方も変わってくるようです。聞いてみたら、じゃんけんで決めたとか。

なり:卒業生の話で、コロナ禍で在宅で自習をした時、無理なく取り組むことができたと聞きました。自分の意見を言う練習を重ねて、自分で行動を決めることができているとすれば本当に嬉しいです。

これからの人に向けて~自分を知ることが最初の一歩

もり:私は研修をする時、まず自分のことを好きですかと聞きます。恥ずかしがって答えてくれない人が多いのですが、実は自分を認めることが、人間関係をつくるスタートです。このプログラムでは、子どもたちとやりとりをする中で、自分を深堀りしなければならない機会に何回も出会います。とくに、今の保育を見直したい人、変わりたい人におすすめです。

なり:私だと、例えば「なぜ保育士になったの?」と問いかけ、「子どもが好きだから」と答えたら、「どうして子どもが好きなの?」と、問いを繰り返します。問いを繰り返すことで、自分の内側が見えてきます。人と関わる仕事をする時は、自分を知ることが大切な最初の一歩になります。

ピースフルスクールプログラムの魅力

なり:子どもたちは、自分の意見を聞いて尊重してもらった経験があると、相手を尊重できるようになります。毎回のテーマは具体的な園の生活につながっているので、レッスンが進んでいくと、子どもたちは話し合いで意見を出し合いいろいろなことを決められるようになります。

もり:子どもたちが少しずつ話し合いができるようになると、スタッフも余裕をもって見守る保育ができます。けんかがあっても、仲裁に入る子どもも出てきて、今は二人で話しているから仲裁はもう少し後にしたほうがいいとアドバイスする子どもも出てきます。

もり:全部で26レッスン。毎週1回で大体10か月で終わるので、不十分だったところはもう1回やることもでき、卒園までゆっくり取り組むことができます。

なり:レッスンだけで終わるのではなく、毎日の保育に生かし、こうした子どもの成長を見ることができるのが、このプログラムの魅力。いろいろなアレンジもできるので、ファシリテーターも自分の目的意識をもって行うと、意味のあるやりがいのあるものになります。

後半では、仕事としての保育の魅力につながるお話を聞くことができました。一番のモチベーションは、子どもたちの成長で、それは親も同じかもしれません。いろいろな大人たちがこのピースフルスクールプログラムに関わってくださって、さまざまな発見や喜びを共有できるとうれしい限りです。

(文責:クマヒラセキュリティ財団 金森匡子)


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