日本の「死の商人」国家化について
戦争では多くの兵士や住民が犠牲になりますが、一方で、武器・弾薬・ミサイルなどが大量消費されます。戦争が拡大し、長期化すればするほど、軍需産業の売り上げと利益はスパイラル式に増えます。軍需産業が「死の商人」と呼ばれる所以です。
今、わが国では、防衛予算(軍事費)が急激に拡大されると同時に、ウクライナ、イスラエルへの軍事援助、及び対中国の戦争準備を進める米国からの要求もあって、これまでになく軍需生産が高まっています。まさに、日本が「死の商人」国家としての地位を確立するためのチャンスとなっているのです。私たちは、その動きをまず確認し、それを阻止するためにどうしたらよいのかを考える必要があります。
https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2024/seifuan2024/20.pdf
https://www.mod.go.jp/j/press/wp/
財界主導による軍需産業復活への動き
経団連は2022年4月、自民党よりも早く「防衛計画の大綱に向けた提言」を発表し、安保三文書に入れるべき内容、軍需産業の要求を政府に要求しました。軍事費の大幅な拡大、大軍拡を前提として、軍需産業復活と補助、武器輸出拡大、利益率の向上等を要求し、直接政府に影響力を行使したのです。
安保三文書(特に「国家安全保障戦略」)には、「防衛力そのものとしての防衛生産」と書かせ、軍需産業の復活を公式路線として認めさせました。
国家防衛戦略 「Ⅶ いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤」
https://www.mod.go.jp/j/policy/agenda/guideline/strategy/strategy_07.html
5年間で軍事費を2倍に
政府は22年末、安保三文書を制定し、軍事費を5年間で2倍化(GDP比2%)という、歴史上かつてないペースで増大させています。
この2年で軍事費は 5・2兆から7・7兆まで拡大しましたが、その内の人件・糧食費2・2兆円はほぼ据え置きです。したがって人件・糧食費以外の項目は3兆円から5・5兆円と1・8倍になりました。今時、わずか2年間で売上規模が約2倍になり、利益率も2倍に近づく産業などあり得ません。しかも軍需は国家が市場を保証します。
バブル崩壊後の「失われた30年」の間、日本の産業は家電・コンピュータ・半導体や造船で敗退し、「自動車一本足打法」の産業構造に変容し、その自動車もEV化で出遅れています。国家が保証する軍需市場倍増と軍需産業復活に死活的な活路を見出したのです。
*安保三文書
https://www.mod.go.jp/j/policy/agenda/guideline/index.html
危機に陥っていた日本の軍需産業
安倍政権下で日本は軍事費を着実に増加させましたが、その大きな部分は米国からの高額の兵器の爆買いに使われました。日本企業への分配は減少し、ついには米軍需産業への支払いのために日本の軍需企業に支払いの延期、繰り延べを要請するまでに至ったのです。
「武器輸出三原則」を「防衛装備移転三原則」に変え、政府がテコ入れした武器輸出も進展しませんでした。防衛省だけを顧客とし、市場の拡大が見込めない武器生産に見切りをつけ撤退する企業が相次ぎ、部品のサプライチェーンや装備の修理に支障をきたすことが予想され、軍事生産体制の維持さえ困難になり始めました。
しかし、2022年2月のウクライナ戦争開始とNATOの軍事費2%化など、米とNATOが日本も含めて戦争準備モードに入ったことが転換点となりました。軍需産業に「神風」が吹いたのです。
国家主導の軍需産業育成と武器輸出の大幅解禁
政府は2023年、「防衛産業基盤強化法」を成立させ、軍需産業の特別扱い、生産設備の国有化などをはじめとする全面的な支援、軍需生産確保等を決めました。その後もセキュリティクリアランス法など民間企業への身元調査と機密保護を強制し、米国などとの共同軍事技術開発、軍需生産拡大へ道を広げようとしています。
同年、政府は防衛装備移転三原則と運用指針を改悪しました。まずはパトリオットミサイルなどライセンス生産品をライセンス元の国に輸出できるようにし、戦闘機エンジンなどの「部品」も輸出可能にしました。パトリオットの米国への輸出は迂回したウクライナへの武器輸出に等しいのです。
24年3月には共同開発戦闘機の第三国への輸出も解禁しました。この決定によって⽇本の武器輸出は「ほぼ全⾯解禁された」といえます。
日本の軍需産業が急速に成長
安保三文書以降、軍需産業は軒並み軍需生産拡大に向けて生産設備と人員の拡大に走り始めています。
トップの三菱重工は、従来5000億円程度だった軍需関係の売り上げを24年度は7000億円に、25~27年度は1兆円程度と予想しています。三菱重工は、全体の伸びをはるかに上回るテンポで軍需の比重が増大し、利益も大きくなっているのです。2位の川崎重工も従来の受注高(契約額)は2000億円程度でしたが、24年3月には受注高4600億円、31年3月には5000億~7000億円を目指し、利益率も25年3月の5%から28年3月には10%を目指しています。
明らかに大手軍需企業は、売上げ、利益とも軍需部門がそれ以外の部門を上回って成長し、それによって軍需志向をますます強めるでしょう。
さらに軍需産業育成策も
今年2月、防衛省のもとに「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」が設置されました。ここには軍需産業を代表する三菱重工をはじめ、経団連、前統合幕僚長、戦争宣伝を担う多数の学者、メディアを代表する読売新聞が加わっています。座長は経団連名誉会長です。
6月には、日米両政府は「日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS)」会合を開き、具体的な協力策の議論を始めました。当面の協議項目は、①ミサイルの共同生産②米軍艦船・航空機の日本での補修・整備③サプライチェーン(供給網)の強化です。防衛力を相互に補完する体制をつくり、安全保障環境の変化へ対応する力を高めようとするものです。日本が防衛協力で担う役割は一層大きくなります。
8月には、ベトナムとの防衛装備品・技術移転協定に基づき、陸上自衛隊が保有する「資材運搬車」2台の譲渡を決めました。同協定初の案件でもあります。
さらに、防衛装備品を無償供与する枠組み「政府安全保障能力強化支援(OSA)」の活用も進められています。
*防衛力の抜本的強化に関する有識者会議
https://www.mod.go.jp/j/policy/agenda/meeting/drastic-reinforcement/index.html
*政府安全保障能力強化支援(OSA)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/ipc/page4_005828.html
「死の商人」国家化に反対の声を
このように政府や経済界が「死の商人」国家化に突き進むことによって、日本経済を軍需産業が主導するような事態に陥ることも考えられます。そのような状況では、ますます戦争への依存が高まり、軍需産業が利益を得る一方で、国民の生活水準は低下し、国家財政の破綻も予測されます。それだけではなく、世界中の戦争を煽り、日本が参戦することが現実となってしまいます。平和と生活を守り、戦争に加担することを許さないためにも、「死の商人」国家化に反対の声をあげていきましょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?