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#1

 きっと誰も特別になろうとしている訳ではないし、特別ではないのだと思う。

 無表情な夜に押し潰されそうになりながら、ひとり部屋の中、コンビニで買った缶ビールを流し込む。気が付けば次の誕生日で二十五歳にもなる。よくもまあこの体たらくでここまで生きて来れたな、と自分に嫌味を言いたくなる気持ちをまた缶ビールで流し込む。

 学生の頃のように気軽に誰かと予定を合わせて会うことも少なくなり、インターネット越しに友だちや先輩後輩の日常を眺めている。早くに結婚し、子どもがいる同級生、大学生活を楽しんでいる後輩、バンドを辞めて会社勤めになった先輩。自分と比べて何が違うのか、自分はどこから間違えてきたのか、そんなことばかり考えてしまう。

 自分は幸せになれるだろうか。

 もちろん彼女ら、彼らの生活の背景は見ることは出来ないが液晶で濾されたその生活は充実しているように見えた。それがとても羨ましかった。

 学生の頃から始めた音楽。高校の軽音楽部で未だに音楽を続けているのは自分と、今TELLECHOでベースを弾いているコーキくらいのものだ。久しぶりに会った地元の友だちなんかに会うと口を揃えて「好きなことやれてていいね」と言われる。その言葉に毎度ボディブローを食らう。当の本人はそんなつもりは全くないのだろうけど。その度に自分はといえば「ちゃんとした仕事について安定した生活が出来てていいね」と歯を食いしばりながら心の中で呟いている。

 音楽を続けるのがこんなにも大変だとは思っていなかった。バイトをしながらもスケジュールの都合をつけなければいけないし、新しい曲を作らなきゃいけないし、スタジオに入って練習もしなくちゃいけないし、ライブでは集客をしなくちゃいけないし、曲が出来ればレコーディングをして、ミュージックビデオを作って、CDを作って、配信の手続きをして、アーティスト写真を撮って、充実しているように見せなければいけない。上げ出したらキリがないが、時間もお金も足りていない。この労力に比例した楽しさがあればいいなと思うが、楽しいのは実際ライブをしている最中や、作曲やレコーディングでの達成感くらいのものである。

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