思い出になりたい
「思い出に匂いと音楽は付き物だよ」
高校の頃バイトしてたカフェで、カウンターに座っていたおじさんが言っていた言葉を今でも思い出す。
例えば、雨が降った時のアスファルトの匂い。
例えば、有線で流れてくる聴き馴染みのあるメロディ。
例えば、好きだった人のシャンプーの匂い。
例えば、解散したインディーズバンドのあの曲。
その当時はあまり意識していなかったけれど、何故かその言葉だけがずっと頭に残っている。
思い出に付き物、というより、その匂いや音楽がきっかけで思い出すことが沢山あるんだろう。
実際のところ、日々、忘れていくことの方が多いように思う。
なんとなく今日を生きて、なんとなく明日を迎えている。
そうしてなんとなく過ぎていくことは大体忘れていくんだろう。
口調が強い人の何気ない一言だったり、「なんであの時あんなことをしてしまったんだろう」のような後悔。
ずっと覚えていることに限って嫌なものだったりする。
今になってこそ、ふとした瞬間に昔の思い出がフラッシュバックすることがある。
楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、辛かったこと。
普段思い返すことはないけれど、そのどれもが、今現在の自分を形成しているのだと思うと、そのなんとなくの毎日も無駄じゃなかったなと思う。
バンド活動を行う上で、アーティストとして、自分が発する言葉や、作った曲が、誰かの思い出の一部になれたら、思い出をフラッシュバックさせるものになれたら。
烏滸がましいかもしれないけれど、そうなりたいし、そうありたいなと思う。
自分のために歌うことが一番ではあるけれど、その希望を持ちながら今日まで音楽を続けている。
誰かのためにやっているわけではないけれど、自分の活動が巡り巡って誰かのためになっていたらいいな、と思う。
今では顔も思い出せないおじさんの言葉も今日の自分に活きている。
自分の今日に、誰かの明日になれるように、自分の思い出に、誰かの思い出になれるように、これからも歌い続けようと思う。
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