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【木の国際化】ウッドショックから考える木の国際化

2021年3月になって表面化した「ウッドショック」。アメリカや中国の旺盛な木材需要を受け輸入木材の供給が大幅に減少し、国内の木造建築の現場を直撃しています。

この事態にはコロナ禍を契機としたアメリカでの住宅需要の急増やコンテナの滞留など国際流通の乱れといった特異な原因もあると同時に、一方ではこれまでの木材流通のあり方の歪みや、日本の世界における経済的な地位の低下といったこれまで表面化せずにすんでいた問題が現れているようです。

そのような中で輸入木材の減少により国産木材への期待は高まっていますが、これを日本の林業の好機とすることはできるのでしょうか。

このテキストはウッドショックの最中の2021年5月7日に一般社団法人HEAD研究会国際化TFと芝浦工業大学プロジェクトデザイン研究室の共催で実施されたウェビナーを収録したものです。

現在進行形の事態ではありますが、さまざまな立場から報告をいただき、今回のウッドショックを通じて見えてくる木の国際化のこれまでとこれからを考えたいと思います。

はじめに

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山代悟: 本日は、「ウッドショックから考える木の国際化」という題でお話しいただきたいと思います。主催は一般社団法人HEAD研究会の国際化TFです。この国際化TFには、様々なものを国際化することについて考えるという大きな枠組みがあるのですが、この数年は「木の国際化」として、林業や木材など木造建築を取り巻く環境について、日本だけでなく海外からの視点も取り入れて議論する活動をしています。

今みなさんもご存知の通り今年の3,4月頃から徐々に「ウッドショック」という言葉が様々なメディアを通じて流れ出るようになってきたので、これはまさに国際化TFという場で議論するに相応しいテーマであるということで、この度企画をさせていただきました。

今回はお三方にレクチャーをしていただきます。はじめに、くらし工房大和の鈴木晴之さんに、主に工事や建設の最前線でどのようなことが起きているのかについてお話しいただきます。次に、木村木材工業の木村司さんに、ウッドショックについてみなさんが疑問に持っていることに関する非常に有意義な情報をご提供していただけると思います。最後に、林材ジャーナリストの赤堀楠雄さんにお話しいただきます。赤堀さんは日本の山をたくさん歩かれていて、いわゆる林業関係者の方とも顔を合わせて様々なお話をされている方のお一人です。今回の状況を受けて、日本の山がどうなるか、どうなっていくとよいのかについて何かご提言していただけるのではないかと思います。

短い時間ですが、非常に中身の濃い内容が聴けると思います。本日は私自身も楽しみにしております。皆さんでお話を聴きたいと思います。

住宅の建設現場からみるウッドショック 
鈴木晴之(くらし工房大和)

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鈴木晴之: くらし工房大和の鈴木です。私はHEAD研究会の中では国際化TFとは別に、ビルダーTFにも所属しているビルダー(工務店)です。今回はウッドショックの話なので私の方からは皆さんの疑問にお答えするというよりも、逆に疑問を投げかけたい立場です。今回いろいろな立場の方が参加されていると思うのですが、私は工務店、現場の立場としてお話ししたいと思います。工務店の立場としても、やっている仕事の特徴や規模、地域によって受ける影響の出方が違うようです。私は東京の江戸川区で活動していますが、身の回りや私自身のことに関して説明していきたいと思います。

家を建てる側、材木を買う側としては、私の場合ウッドショックの情報を聞いたのが割と最近で、3月の後半頃になんとなく話が入ってきました。「構造材が上がるよ、品薄だよ」という感じで話を聞き始め、当初は「なにそれ?」という感じでしたが、一ヶ月二ヶ月たって、とんとん拍子でなんだかすごい話になってきたな、という感じです。

これからの新築の予定や今既に動いているものがあるので、プレカット会社にどういうことなのかを問い合わせると、うちの場合プレカット会社2社と契約をしているのですが、二社とも、最初の頃は「とにかく値段が上がるがいくらになるかわからない、今は見積もりが出せない」とのことでした。では今動いているものはどうなるのかという問いには「4月上棟ならどうにかなるけど、その先のことはわからない。」そういう回答でした。5月になってみると、「現時点では供給制限があるので昨年実績に基づいた数はとりあえず確保するが、それ以上は何とも言えない」と言われました。そうして今頃になって慌てているのが工務店の現状です。

工務店の中ではプレカットと会社と直接取引をしていない、いわゆるたまにしか新築を行わず材木屋さん経由でプレカットを頼んでいる工務店、こういった工務店は結構全国の中では数が多いんですが、そういう方達がどうなっているかというと、「新築の予定が来たので頼むよ」と言っても、「今はちょっと出せません」と言われ、既に頼んでいたものですら断って来たり今年後半まで待ってくれという話になっています。つまりはどうあっても受けてくれないのです。他を探しても同じなので、どうすれば良いのか路頭に迷う工務店が出てきています。

新築に関しては、これから行う仕事に対して見積もりが出せず、時期も見えず契約も出来ない、こういったことが大きな問題になっていて、あらゆる情報を見極めながら考え判断していかなければならない状況です。

リフォームにおけるウッドショック

一方で今は、コロナ禍の影響と色々な要因もあってリフォームが増えてきています。

今リフォームで忙しくされている工務店が多いのですが、羽柄材のような構造以外の材も不足が出てきて、リフォーム工事にも影響が出ています。今あっても在庫限り、次はいつ入るかわからない、値段も上がるという事により段取りが付かない上、小さな仕事では木材の値上がり分を吸収しきれず利益を圧迫するため、リフォームでそのような影響がいつまで続くのかが非常に懸念されています。また工務店では、野縁や間柱のような小角材には特に素性の良い物をと注文を付けて買っていますが、それができなくなると考えています。

これから予想される現場への影響

ではこの状況が続くとどうなるのかということが懸念されるのですが、工務店自体としては資材が入ってこないため、今行っている仕事が延びる可能性が高い。またこれからの受注に関してもお客さんが躊躇することになり、全体的に仕事が先延ばしになると思います。それによって資金繰りが厳しくなります。職種としては、仕事が出来ないことで工務店が抱えている大工や、外注として頼んでいる職人の仕事がなくなります。そのため外注で依頼していた職人は他で事を探すことになって一旦離れてしまうので、いざ頼みたい時にすぐ来てくれないというこが起こり、工務店としてはとても困った状況に陥る事になるでしょう。

現場の声

工務店として知りたいことは、いつまでこの状況が続くのか。どういった形で収束するのかということです。価格を決め・見積もりを出して、契約をしていかなければ仕事が出来ない。そうなるとやっぱり金額がどうなるのか、今後の事が知りたい。また分譲住宅を建てている施工会社さんでは建てたいけれど、売る側の考えで今は建てるべきじゃないとなると、建築業界自体が動かなくなってしまうのではないか、パニックが起こるのではないかと心配です。現場としてはとにかく今後の動向を知りたい、それにつきますね。

ウッドショックの背景と木材流通のこれまでとこれから 
木村司(木村木材工業)

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本日この場でお話しするに至った経緯

木村司: 本日この場でお話するにいたった経緯をお話させていただきます。4月14日にJBN(全国工務店協会)情報調査委員会が行われて、その時にウッドショックで上棟できるかどうか心配でしょうがないというお話が工務店さんから出ました。私は国産材委員会所属ですが、国産材委員会に実際どんな状態になっているのか情報を出してくださいという話が池田浩和情報調査委員長からありました。

JBN会員の中に当社のお客様がたくさんいらっしゃいますので、情報を知っていただくことで安心して欲しいという気持ちで、翌日からfacebookJBN次世代の会公式グループ限定で投稿を始めました。日刊木材新聞を購読していない方もたくさんいらっしゃいますので、日刊木材新聞記事の解説を中心に投稿しました。その記事を山代さんに見ていただいたところ、もっと広く聞いてもらいたいということになり今日この場が設けられた次第です。

アメリカ住宅需要が伸びた背景

今回の話はアメリカが主ですので、アメリカからお話を始めさせていただきます。以下がアメリカの住宅着工件数の推移のグラフ(年率換算)です。かなり高い水準ですね。2021年3月には180万件に近いくらいの着工件数です。もう一つの選考指標である住宅着工許可件数もかなり上がってきています。

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アメリカ住宅着工が伸びた背景をお話させていただきます。もともとアメリカでは何度も住み替えをする国民性があります。これはあすなろ建築工房 関尾英隆さんの動画に詳しいので、関尾さんの一回目の動画をご参照ください。最初は就職したときにアパートメントに住んでルームシェアをします。結婚するとスターターハウスといって、初期取得者向けの、日本でいうと建売住宅のような住宅に住みます。それから子供が増えて家族の人数が増えると日本でいう一戸建て住宅、ニューファミリーホームに住み替えます。子供が巣立つとタウンハウスといわれる長屋に住み替えをして、自分で動けなくなるとケア付きの老人ホームに住み替えをするというのがアメリカの一つの標準的なサイクルといわれてきました。

家を売ったお金で次の家を購入するのがアメリカの皆さんの標準的な形ですので、自分の家に自分で手を入れて再販価値を上げるDIY需要があります。今回コロナ禍の影響で在宅勤務、授業のオンライン化等の変化があり、時間ができてDIY需要が増えたということもありますし、都会に住む必要がなくなったので、親元に戻って郊外の大きな家に住む、あるいは別荘を買う動きというのが発生しました。それが伸びた背景の一つです。

もう一つ大きいのが株価の上昇です。アメリカの皆さんは資産を株で持っている方が多いので、株価上昇で住宅購入希望者の資産が増えたことが住宅購入に向かった一つの大きな動機です。

次に、以下はFreddieMac(連邦住宅金融抵当公庫)が調査したアメリカ住宅ローン金利です。青いグラフが30年ローン金利の推移、緑色のグラフが15年ローン金利、赤いグラフが変動金利です。30年ローン金利が3%を切ったのは、10年間の中でもコロナ禍の時期だけです。15年ローン金利にしても2.5%を切ったのはコロナ禍の時期だけですね。金利が低下したために、住宅を買おうという人が大量に出たのが一つの理由です。

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3つ目は住宅ローンの支払猶予です。コロナ禍の影響で住宅ローンを払えなかった人の支払い猶予期間が延期されました。住宅の差し押さえが急減したため、中古住宅の供給が減りました。アメリカの中古住宅市場は新築住宅市場の3倍以上の棟数が取引されます。中古住宅の供給が少ないために新築住宅着工が増えました。それと忘れちゃいけない現金給付です。日本の現金給付は10万円ですけども、アメリカの現金給付は3回合わせて1人あたり最大3200ドル、約35万円です。そうすると4人家族で140万円になり、現金給付でいただいた額を頭金にして家を買う人が続出しました。これがアメリカで住宅需要が伸びた背景です。

アメリカ空前の木材価格高騰の背景

木材価格の推移です。赤い線がCMEシカゴ先物取引所の先物価格で、青い線はランダムレングス(業界紙)が報じている木材価格です。2021年に入ってからシカゴ先物価格が暴騰して、10か月前の3倍になりました。実は先物価格はさらに上昇していて、昨日付で1600ドルを超えるものすごい暴騰ぶりです。NAHB(全米ホームビルダー協会)の試算では、木材価格の暴騰の影響で、新築住宅の価格が390万円上がっています。

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NAHBの記事から引用して4つ理由を申し上げます。一つ目はコロナ禍です。コロナ禍で州や地方自治体が実施した待機命令やソーシャルディスタンスを置く措置で、多くの製材工場が減産しました。二つ目は、その後回復して木材需要が堅調であることが明らかになっても、製材工場は需要に合わせた生産拡大をしませんでした。さらに生産者はパンデミック中に、DIY需要や大型小売店からの需要が大幅に増加するとは予想していなかった。最後に、カナダからのアメリカへの木材輸入に対しての関税によりさらに極端に価格が上昇しました。以上4つの理由で、アメリカの木材価格は暴騰しました。

その中で、ワシントン州タコマにあるマンケランバーが、ベイマツの45mm角、60mmx45mmなどの小割材を日本向けに長期にわたって輸出していたのですが、今年の1月から日本向けの供給を無期限停止しました。理由は、日本向けの輸出価格が低迷したためです。アメリカ国内向け価格が暴騰したにもかかわらず、日本向けの値段が上がりません。アメリカ向けの供給が不足しているのにわざわざ日本に安く売る必要はないとして日本向けの供給を無期限停止しました。これがベイマツの小割材が不足した大きな原因です。

月刊「木材情報」2020年12月号に、伊藤忠建材 木材製品事業部長 豊田康雄さんが状況分析を詳しく書いていらっしゃるので、5つ引用します。欧州内の木材需要は建設需要の拡大により、230万m³毎年増えるといわれている。欧州から日本への輸出量分の木材需要が毎年増えるという意味です。今年だけでCLTの工場だけの新設がヨーロッパで10工場以上、北米で2工場が予定されています。これも欧州の木材需要に影響を与える大きな要因です。アメリカの住宅着工の勢いは収まりそうにありません。2021年の中国はかなりの製材品需要輸入が増えるとおっしゃっています。DIY需要は今年も順調です。ホームセンターで販売される商材は特需が起きていて、中国から欧米のホームセンターに木材製品が輸出されているのですが、25%の高率関税をかけられていてもコストを吸収できるほど売れていると豊田さんが書いています。商社はこれだけの情報をもっているということです。

中国・木材需要増加の背景

中国について少しだけお話しします。コロナ感染の封じ込めに成功したといわれる中国は、政府によるコロナ対策景気刺激策を受けて、国内の住宅事情が上向きました。その結果住宅が投機対象になりました。アメリカもそうですが、不動産バブルの様相を呈してきましたので、人民銀行が不動産向けの融資規制を強化しています。その中でアメリカに買い負けるなということで、中国も輸入木材価格をどんどん引き上げています。忘れてはいけないのはアメリカ向けの輸出です。アメリカ向けの木材輸出が増えたために、中国の木材需要が増えているという側面もあります。

木材流通の主役は「商社」

木材流通の主役は商社です。例えばハウスメーカーや大手ビルダーへの資材供給や、プレカット工場にビルダーの仕事のあっせんするのも商社の仕事です。商社はプレカット工場からは、安い仕事持ってくるなら、もっと資材を安くしてくださいよと言われます。ハウスメーカーやビルダーが商社に求めるものは、安くて、強度があって、寸法精度が高くって、クレームのでない間に合う木材を持ってきてください です。商社はハウスメーカーやビルダーの要求に応じるために、世界中から木材を探し出して、調達して、競い合ってきました。ホワイトウッド、レッドウッド集成材は商社が日本に輸入したのが始まりですし、これまで安価に供給されてきたのは商社の企業努力のおかげです。ですから商社に感謝することはすごく多いと思います。複数の商社を競わせて、少しでも高ければ買わずに、買いたたく体質が長く続きました。この体質は供給過多のデフレの時代にはとてもよく機能しました。そして商社は木材商流の主流になりました。

第一次ウッドショックを収束させた北欧材

第一次ウッドショックは1992年にありました。カナダの保護鳥マダラフクロウを保護しなければいけないために、カナダの木材伐採が大幅に減少して第一次ウッドショックが発生しました。北欧材、ホワイトウッド集成材の出現と、当時たまたま円高基調だったために価格上昇が吸収されて、第一次ウッドショックは終息しました。ホワイトウッド、レッド集成材には、ラミナを輸入して日本国内で張り合わせて作る国内生産製品と、北欧で集成材を生産し管柱や平角として輸入する完製品の2種類があります。国内生産製品では、銘建工業やティンバラム(旧MIYAMORI)などが有名なメーカーです。北欧の集成材メーカーにとって日本市場は値段が安いが、とにかく量を買ってくれる市場としてとらえられていました。

昨年の秋に、商社は北欧材の変調気づいていました。アメリカ向けの輸出の増加と、欧州内建築物における木造比率(CLT化も含みます)が伸びて、欧州木材需要が拡大した影響を受け、日本への供給量が減ってきました。欲しいだけ供給してもらえる北欧材の変調に気がついた商社は、ユーザーであるプレカット工場やハウスメーカーに供給量減と今後の価格上昇を情報として伝えました。しかし、ユーザーは正直鈍い反応でした。プレカット工場はビルダーやハウスメーカーに値上げを言っても受け入れてもらえないと判断しましたし、輸入完製品が入らなければ国内製品で手に入ると思っていました。値段が上がって数量確保が危ないなら、一生懸命買ってください、量増やしてください、とまでは残念ながらいきませんでした。

コンテナ不足

そこに来たのがコンテナ不足です。昨年の前半はコロナ禍で荷物が減少したので海運会社がコンテナ船の運航を減らしました。そこへ巣ごもり需要が増加して、運ぶ荷物がいっぺんに増えました。その一方、港湾労働者はコロナの関係もあり帰国した人もいて、労働者不足が発生しました。2020年10月~12月期に世界全体でコンテナ船が運んだ荷物の量は8%拡大しました。なかでも北アメリカ向けは25%増でした。アメリカの港では、外出自粛の影響もあって、港湾労働者、トラックドライバーが不足しました。多くのコンテナ船が荷物を降ろしてもらうために、列をなして港で待つという状態が発生してしまいました。コンテナは世界中の港で使いまわす仕組みです。ですからアメリカで大量のコンテナが滞留した結果、コンテナ不足が発生しました。運賃も急上昇しています。

伏線 昨年前半の販売不振と高水準の在庫

もう一つ、ウッドショックの伏線になったのは昨年前半の販売不振と高水準の在庫です。昨年前半は、とにかく木材が売れませんでした。国内需要が低迷した影響で、新木場にある東京木材埠頭の在庫が、昨年7月に160,000m³、そのうち北欧材だけで40,000m³を占める在庫量がありました。160,000m³の在庫量は港じゅう、埠頭じゅう木材であふれているという感じです。通常月の在庫量は100,000㎥で、今年4月は70,000m³まで落ちています。さらに落ちていると聞いています。商社さんって、社内規則で保管期間が決められているので、長期間在庫を保有することはできません。ユーザーに値上げを受け入れてもらえなければ自分で在庫を抱えなければならない。入荷量減を予測して買ってくださいと言っても、ユーザーは乗ってきてくれません。商社は1~3月積みの契約数量を思い切って増やさないといけないとわかっていましたが、ユーザーが乗ってきてくれない以上、在庫増のリスクには勝てません。従って、契約数量は増やせませんでした。

そこへ出てきたのがポラテックの受注制限です。ポラテックは去年から供給不足を感じていて、ベイマツをレッドウッドに代替してください、2×4は軸組構法にしてください、と提案を進めていたのですが、木材供給不足のためプレカット受注を計画比9割にする受注制限を決定し、ポラテックさんの受注制限が公表されて木材不足が表面化しました。さきほど鈴木晴之さん3月下旬とおっしゃっていたのは多分このことだと思います。

ポラテックは受注制限の名目で、値上げと顧客選別を進めていきました。ポラテックに受注を断られた住宅会社、工務店さんが他のプレカット工場からも受注を断られる。さっきの鈴木晴之さんのお話の通りです。その結果プレカット難民が発生しました。値上げするならほかに出すよといっていた住宅会社からの受注が回りまわって戻ってきたというポラテックさんの談話が日刊木材新聞に出ています。第三次ウッドショックの始まりです。

いま、ウッドショックで何がおきているのか

今ウッドショックで何が起きているのかをお話しします。現在受注を抱えている木材業者はホワイトウッド集成材・レッドウッド集成材・米松小割材の代替材を必死に手当てしています。木材市場の競りで極端な高値がつくのは仕事を持っている業者が何としてでも材料を入手しようとするので木材が競り上がるからです。仕事を持っている業者はどんな高く仕入れても自社の利益をのせて販売できるので仕入れ価格に上限はありません。アメリカの木材価格が高騰しているので中国・欧州の木材価格もつれ高になります。日本の木材価格と差があるため価格差を埋めないと買い負けてしまいます。

山代さんのお話しにあったジャパンナッシングがこういうところでも出てきています。中国木材はウエアハウザーの提示した高値をのんででも数量の確保をしました。それはどんなに高く仕入れても自社の利益をのせて販売できる自信があるからです。

中国木材は夏ぐらいまでの米松丸太を確保

実際4月8日号の日刊木材新聞に中国木材 堀川智子社長のインタビューが出ています。堀川社長は夏ぐらいまでの米松丸太を確保したとおっしゃっています。昨年の購入量を目安として製品販売の数量制限を行います。アメリカでは昨年秋の大規模山火事の影響で日本向け丸太の出材が難しくなっているので丸太の値上がりを覚悟しています。丸太の価格以上に船運賃の値上がり幅が大きいと堀川社長はおっしゃっています。

木造住宅向け木材供給のボトルネックは横架材

木造住宅向け木材供給のボトルネックは間違いなく横架材になります。横架材の能力で木造住宅の着工戸数は決まります。中国木材のドライ・ビームは値上げしても数量は変わらず供給が続いていますが、レッドウッド集成材の入荷量不足分を杉集成材やカラマツ集成材などの国産集成材で全量を補うのは生産能力が不足していて無理があります。横架材に杉無垢材を使うときには、梁成を大きくする必要があります。桧無垢材でも横架材はできますが、価格が高く生産量が少ないのでレッドウッド集成材の代替材として使う量は少ないです。今でもホワイトウッド、レッドウッド集成材は昨年入荷量の7割が入荷されていると商社から聞いています。中小プレカット工場でもホワイトウッド集成管柱が近いうちに入荷すると聞いています。受注残消化のため樹種を変更することが一時的にあっても入荷が減少して値上がりしたレッドウッド集成材が横架材の主流であり続けるとすれば木材供給不足は続くとみざるをえません。

コンテナ不足にばら積み船で対応

一方コンテナ不足に対してカナダはばら積み船で対応しています。カナダのWFP社(ウェスタンフォレストプロダクツ)がコンテナでは納期が定まらないため予定通りの配船が見込めるばら積み船(ブレークバルク)を手配しました。記事では今年の4~6月と記載されていますが、日刊木材新聞が7月以降も月一回配船を計画していると報じています。

ただ今となってはばら積み船(ブレークバルク)はコンテナ船の1.5倍の船運賃がかかるので、コンテナ不足で対応としてやむを得ずWFPさんは使っていると考えます。

コンテナ船とばら積み船(ブレークバルク)

以下の写真はスエズ運河の事故のときのものです。もう一つはブレークバルク(ばら積み船)です。甲板の上にのせる荷物はオンデッキ、船倉内に入れる荷物はアンダーデッキと呼ばれています。

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(出典:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210329/k10012943631000.html)

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(出典:https://modric19.com/bulk-breakbulk-32)

バラ積み船の1種に木材専用船があります。丸太の場合は木材専用船が使われますが、未乾燥なのでコンテナは使用せず、コンテナ不足の影響は受けません。船倉や甲板に丸太がたくさん積めるよう工夫がされています。

木材高騰が一番影響するのはローコストビルダー

木材高騰が一番影響するのはローコストビルダーだと考えます。プレカット工場から値上げを要求されるだけでなく受注を受けてもらえない会社が出てくると思われます。日刊木材新聞によると値上げ幅を受け入れなかったビルダーさんの加工をプレカット工場は軒並み断っているとのことです。木材不足で家が建てられないかもしれない、木材高騰で家が値上がりする心理が住宅購入者に影響すると、購買意欲を著しく冷やします。業者としては坪数を減らしたり、企画を変更して割高感を消そうとしていますが、値上げが販売減として表れるのは避けられないと考えます。

日本木造分譲住宅協会

工務店の皆さんに一番驚かれたニュースは、日本木造分譲住宅協会が4月13日に設立されたことです。オープンハウス、三栄建築設計、ケイアイスター不動産の3社で協会の設立を発表しました。建設棟数はグループ会社含め三社で15000棟です。着工予定数量を定期的に配信し、生産量を構築して集成材工場から直接仕入れる計画です。
商社を通さず直接取引をします。三栄建築設計は5月着工分から全棟100%国産材を転換する予定です。柱は杉集成、梁はカラマツ集成材を使うとのことです。

協会設立に対する工務店の反応

協会設立に対する工務店の反応です。
・分譲住宅会社が国産材にシフトしたことがずっと国産材でやってきた工務店にとっては脅威です。
・間違いなく国産材も品不足になる。大きいところが合同でさらに大きな力で封じ込めようとしている。我々小企業はどうすればよいのか。

協会が求めるのは構造材に使う集成材

私としては協会が求めるのは構造材に使う集成材の一括購買で、構造材に使われる国産材無垢材の一括購買ではないと考えます。横架材に使う国産材集成材の一括購買は生産量が多くないので難易度が高いです。分譲住宅の同業他社から協会に参加したいと申し出があるのも難易度の高さを理解しているからでしょうし、協会も必死だと思います。

地場工務店産が使う杉・桧の無垢材と集成材とは棲み分けは可能です。これについては次のパートで赤堀さんに詳しくお話しいただきたいと思います。ただ羽柄材だけは競合すると思われます。これは鈴木晴之さんが羽柄材がないと言っているのと同じことです。

ウッドショックで一番の変化はホワイト・レッドウッド集成材から国産材集成材への切替

ウッドショックで一番の変化はホワイト・レッド集成材から国産材集成材への切り替えです。杉の集成管柱は協和木材新庄工場、中国木材日向工場などの大規模工場が立ち上がり、生産量を拡大しています。ホワイトウッド・レッドウッドに今後期待できないため杉の集成管柱に切り替える住宅会社が増えていくと予想されます。

一方横架材は生産能力が集成材、無垢材ともに不足しています。4月14日に林野庁の主催の中央需給情報連絡協議会臨時情報交換会で構造材は国産材で強度の観点から代替しにくく、タイトな状況が続くとみているとコメントが出ているのは横架材のことを指しています。

集成材にあって無垢材にないもの

集成材にあって無垢材にないものは大量生産のスケールメリットと寸法精度です。北欧の集成材工場は巨大生産能力を持っていて日本の商社がホワイト・レッド集成材をどんなに大量に発注しても需要側が欲しいだけの量を供給して住宅会社が求める大量のスケールメリット(ここでは安定供給・低価格のことを指す)に応えてきました。

金物工法と無垢材の相性は最悪?

工務店さんの生の声です。「断面欠損の問題もあり金物工法を採用しています。以前杉の無垢の柱使用時に内部割れが原因で破壊しました。無垢材と金物工法の相性は最悪なので無垢材は怖くて使えない、集成材を使いたい」という話がありました。

内部割れが原因で金物工法用に穴を開けてピンを打った際に材料が破壊した現象が現に起きています。金物工法では無垢材が使えないと思っている方は多いと思います。

金物工法でも使える無垢材の普及が求められる

これからは金物工法でも使える国産材無垢材の普及が間違いなく求められます。それには、集成材並みの寸法精度と内部割れを防ぐ乾燥の工夫が必要です。内部割れを防ぐ工夫として挙げられるのは減圧乾燥や4面背割りをするなどが挙げられます。4面背割りにした場合、背割りが残ったままだと金物と干渉してしまうので薄く背割りをいれて乾燥後にモルダーで背割りを削り取ります。

実際、私の姉の家については木造大型パネルを使って4面薄背割りの杉の柱(以下写真)を使って5月13日に上棟します。杉の柱で、内部割れがないとはいえませんが少ないです。金物工法でも使える無垢材の工夫が必要だと考えています。

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プレカット工場の現況

プレカット工場の現状は材料手配の目途が立たたないので注文が受けられません。プレカット工場から見て残ってほしい「おなじみさん」とそうでない顧客が選別されています。安値や短納期のお客様は選別の対象とされます。ビルダーさんも加工を断られることがあります。相見積もりで加工できるかどうかわからない物件はその時点で見積もりを断られます。

プレカット工場によっては発注量の少ない地場工務店も選別の対象になっています。プレカット工場に受注を断られた工務店はプレカット難民となって、あちこちの工場に発注をかけるけど受け入れられないという事態が発生しています。

その状況を一言で言うと“トリアージ”です。コロナ禍の医療関係で有名な言葉です。「選別」や「優先割当」の意味ですが、「良いものだけ選び抜く、選別する」というのが本来の意味です。これが今プレカット工場で行われているということをHEAD研究会員の皆様は覚えていただきたいと思います。

需要減で供給と釣り合い、半年以内に沈静化

私なりの予測ですが、需要減が供給減と釣り合って半年以内で沈静化すると思います。木材価格の急騰や品不足が住宅購入心理に影響して需要が急減し、供給減と釣り合います。長くても半年以内、9月までに沈静化するというのが私自身の予測です。

近未来に来る世界経済危機がウッドショックを解消する?

皆様に注意していただきたいのが、世界経済危機に近未来に訪れる可能性があり、これが来るとウッドショックは解決すると考えます。コロナ対策の現金給付を賄うのはアメリカ国債の大量発行です。アメリカ国債が大量発行されたため価格が下落し、金利が上昇しています。アメリカ国債の金利上昇は、新興国の防衛利上げを呼びます。アメリカ国債の金利が高くなると、新興国のようにリスクがある国ではなく、アメリカのようにリスクの小さい国でお金の運用をしようとして新興国からアメリカに資金が移動します。新興国はお金が逃げられると困るので防衛利上げをします。

実際コロナで経済が傷んでいる時に利上げをすると影響が大きいです。既にアルゼンチンから債務繰り延べ依頼が出ていますし、新興国発の世界経済危機が発生した場合にはアメリカの株価や木材価格が暴落し、住宅着工が減少して第三次ウッドショックは終息すると考えています。

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ウッドショックへの対策案

普段取引のある木材業者とのお付き合いを大切にする、ホワイト・レッドウッド集成材を当てにしない、山や製材所へ足を運んで関係を作る・深める。この3つを対策案としてご提案申し上げます。

まずは普段取引のある木材業者とのお付き合いを大切にすることです。外国では高く買ってさえくれれば従来の取引を切ることがありますが、日本では長く購入してくれた「おなじみさん」を大切にします。競りで高値がついているのも「おなじみさん」に対してなんとしてでも供給を続けようという木材業者の姿勢の表れです。木材業者も顧客の選別をしています。他のお客さんに比べて販売価格が安い、納期が短い、請求を値切る、変更が多いなど供給側である木材業者から見て問題のある顧客は他のお客様に迷惑をかけないためにも敬遠されます。ウッドショックのような異常時には会社の姿勢が如実に表れます。自社は木材業者さんから見て、欠かせない「おなじみさん」と見られているのか判断するいい機会だと思われます。

2つ目はホワイトウッド・レッドウッド集成材をあてにしないことです。今後ホワイト・レッドが安い価格で日本に大量に入る可能性はとても低いです。CLTをはじめとした欧州の建築に対する木材需要が増え続ける以上、生産量を確保するために日本向けに安い価格で輸出する理由はありません。欧州向け以上の価格で購入するなら日本に売る販売姿勢が予想されます。供給が少なくなる一方で大量生産、大量消費のできるホワイトウッド・レッドウッド集成材を何としてでも使いたいのはローコストビルダーです。ローコストビルダーがホワイトウッド・レッドウッド集成材から離れないので価格は高止まりすると予想します。工務店さんとしては恒常的に使う樹種をあてにせず他の樹種に変更するのが良いと思います。ホワイト・レッドウッドを使う限り木材に関してはローコストビルダーと差別化が出来ません。

最後に山や製材所へ足を運んで関係をつくる・深めることを提案します。国産材製材工場は「おなじみさん」に回す数量が足りないところへ新規のお客様が来ても、基本的に対応しません。新規のお客様に高く買ってくれるからといって材料を提供しても後で買いたたかれたる、材料が余るなどして続かないことを過去の経験でよく分かっています。山へ、製材所で足を運んで直接対話してみると、製品の品質、価格、納期、社員の様子、経営者の考え方を実際に見ることが出来て、自社のパートナーとして長く付き合っていけるかよく分かります。今後世界的に木材需要が高まっていくと輸入木材の価格面での優位は失われていきます。工務店さんも製材工場も素材生産者も持続可能な経営をしていくためには定常的に長い期間取引ができる関係を作り上げていくのが大切です。そのためにも山へ、製材所へ足を運んで直接対話することをおすすめします。

実物件がある場合の対応策

最後に実物件があるときの対応策をいくつか申し上げます。見積は有償でお願いするのがよいと思います。プレカット工場が材料不足で仕事不足になるとCADオペレーターの仕事がなくなるので有償であれば見積はしてもらえると思います。ただ価格変動はやむを得ないという条件がつきます。なおかつ有償の見積した物件が成約された場合、材料代金から見積料金を差し引くように見積もり時に取り決めをするのがよいと思います。現にプレカット工場でやっている方もいらっしゃいます。

また樹種変更を想定して、一番弱い強度の材料で構造計算をすることをお勧めます。強度は集成材≧無垢材、べいまつ>ひのき>つが>すぎの順に弱くなっていきます。従って杉無等級材の無垢材で構造計算すれば樹種変更時に対応可能です。また、発注時に使用材料を全部手配することをお勧めします。納期が足りないと材料手配が間に合わないので後からではなく、発注時に全ての材料を手配しておくと安心です。

「ウッドショック」を機に林業・国産材との付き合い方を考えよう 
赤堀楠雄(林材ライター)

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赤堀楠雄: 簡単に自己紹介します。すでに廃刊になってしまいましたが、かつて東京・深川にあった林材新聞社という業界新聞社に1988年に入社して11年間、記者をやった後に1999年からフリーライターとして材木、林業を取材しています。東京生まれですが、10年ほど前から長野県上田市の山間地域に住んでいます。

外材の供給減に端を発したウッドショックにより、国産材や林業への期待が非常に高まっています。この機会に国産材や林業と付き合い方をいろいろな方に考えていただきたいのですが、それにあたってさまざまな課題もあると思っておりますので、きょうは、私なりの提案をさせていただきたいと思います。

まず申し上げたいのは、木村さんが最後におっしゃった「山に足を運ぼう」ということです。実際に山に行き、林業を営む人や製材所を訪ねることによって、その人たちがどんな経営をしているのかとか、どんな考えを持っているのかということがわかってきます。

例えば、私はいろいろな業者さんにほかの会社に行った時に、どんなことを注意して見ますかとよく聞きます。そうすると、そこで返ってきた答えというのが、裏返すとその人が自分の会社で何を重視しているかがわかります。以前、木村さんに聞いた時のご返事がすごく印象深くて、木村さんは、ほかの会社に行った時に従業員の休憩室やトイレがよく掃除されているのか、そこを見るっておっしゃったんですよね。

他の方々からは、例えば製材のスピードをストップウォッチ持って測りたいとか、社員がトップの言う通りに動いているかどうかを隅々まで見るとか、いろいろな答えを聞いてきたんですが、休憩室やトイレの掃除が行き届いているかどうかを見るという答えは後にも先にも木村さんだけです。そのあたりにその会社の品質管理の姿勢が表れているっていうことだと思うんですが、このように、実際に取引先や産地に足を運ぶことによって様々なことが見えてくるということがあると思っています。

今回のウッドショックでは、海外からの材料が非常に不足して不安定になっているということを多くの方々が痛感していると思いますが、日本の場合はやはり海に囲まれた島国ですので、ヨーロッパやユーラシア、北米などの地続きになっている大陸が国境を越えて大きな産地を形成しているのと条件が全く違います。そのことを改めて思った時に、特に木材のユーザーの方には、地続きの日本国内で木が育てられて森が作られ、林業が営まれていることの意味を改めて考えていただいて、木材を利用するというビジネスと木を育てるという営みとがwin-winのパートナーになるための道筋を考えてもらいたいと思っています。

なぜ集成材が普及したのか〜木の家づくりが大幅に変化

木村さんから先ほど集成材のことでバトンを渡されているので、集成材と無垢材の違いや、集成材がなぜこれだけ普及したのかということを少し振り返りたいと思います。

まず、指摘しなければならないのは、家づくりが大幅に変わったということです。現在、木造住宅建築に使われる材料としては、集成材が構造材の主役として日本の木材マーケットをリードする存在になっています。

そのもっとも大きな要因は、手刻みからプレカットへの移行です。1990年代に入ってプレカットが主流になる中で、90年代半ばから集成材が多く使われるようになりました。その理由はクレーム対策です。

当時の集成材は、国内で作るよりも海外から完製品を輸入するものが主体で、非常に高価でした。ところがそのコストよりもクレーム対策費の方をかけないようにしたいという考えが大手ハウスメーカーを中心に働いたことにより、寸法安定性の高い集成材が一気に広がりました。これには、95年に製造責任法(PL法)という消費者保護を目的とした法律ができたことなども影響しています。

そのうちに、ヨーロッパから乾燥ラミナを大量に調達できるということで、国内でも集成材のメーカーが多く立ち上がって供給力が増し、需要面でもプレカットの全自動化・高精度化が進んだことで、集成材へのニーズがさらに高まったという流れがあります。

そのあたりの事情をデータで表したのが以下のグラフで、90年代から2000年代にかけて、ヨーロッパからの製材品の輸入が大幅に増えているのがわかります。

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木材の利用種別に見た丸太品質の重要性

次に集成材と製材品の棲み分けを考えてみたいんですが、まず指摘しなければいけないのは、原料の丸太の品質が異なるということです。木材には製材品、集成材、合板、紙、バイオマスなどさまざまな利用の形態がありますが、この中で丸太の品質がもっとも重視されるのは製材品です。ですから、良い製材品は良い丸太からしか作れません。この「良い」というのは、無節だとか、そういうことだけではなく、品質が安定していて反りや曲がりが生じにくということも含みます。

一方、集成材や合板の場合は、丸太からいったん細かいパーツにカットしたものを貼り合わせるという作り方になります。その工程で、例えば集成材なら欠点要素を省くことができますし、合板も丸太を大根のカツラ向きのように剥いていくという製法上、多少曲がりのある丸太でも使うことができます。紙あるいはバイオマス発電燃料として利用する場合は、品質の優劣は問わず、量だけが問われることになります。要するに、製材品は丸太の品質がもっともダイレクトに反映するアイテムだということになります。

製材品と集成材の製造工程を比較すると・・

集成材のこともう少し詳しく見ていくと、集成材は節や腐れといった欠点要素を切り落としたものをフィンガージョイントによって継ぎ足してつくっていくので、製材品を作るのに比べると、当然、製造工程が増えます。その分、コストはかかりますし、丸太からの歩留まり低くなります。つまり、丸太1m³から作れる製品の数量が小さくなり、コストもかかるので、丸太の原価が大きくなります。例えば製材品と同じ価格の丸太を仕入れて集成材をつくると、価格が高くなってしまいます。逆に言えば、集成材は安価な丸太からしか競争力のある製品を作れないということになります。

これは林業サイドにすれば悩ましい話です。例えば虫が食っていたり、手入れ不足で品質が安定していなかったりと、そういう丸太を集成材あるいは合板として有効活用してもらえれば、林業サイドにとっても非常にいいことなんですが、仮にこうした利用形態ばかりになってしまうと、丸太を品質に応じた価格で購入してもらうことがどんどん難しくなってしまいます。その意味では、集成材や合板の利用も、もちろん進めてもらいたいわけですが、林業サイドからすると、やはり安定した品質に育て上げた丸太をその品質が重視される製材品として利用してもらいたいという希望はあります。

特に地域工務店の方々には、集成材を多用するローコストビルダーとの差別化を図る意味でも、国産材の製材品を活用することでウッドショックを乗り切り、ビジネスを継続していくという戦略を取ることが得策ではないかと思います。

では、国産材の実力は?

では、国産材の実力はどのくらいあるのでしょうか。

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ストロングポイントとウィークポイントを私なりに示したのがこの表です。ストロングポイントとしては、国内にはたくさんの資源がありますし、国が国産材や林業の振興を図るということで非常に手厚い支援をしてくれていることも長所に挙げられるかもしれません。

一方、ウィークポイントとしては、まず、国産材の利用が長期間低迷してきた中で林業に携わる労働力が減少してきています。人的余裕はありませんから、今回のような急激な需要増があっても、すぐに生産量を増やすのは難しいということになります。

さらに山に木があっても実は境界がはっきりしていなかったり、どこにどんな木がどれだけあるのかわからなかったりという実態があります。境界については、あいまいになっていたり、わからなくなっていたりというケースが激増していて、確定するのにも大変な手間と費用がかかります。境界が分からなければ生産することはできません。

技術力の低下というのは、山での丸太を生産する際の技術に関することです。現在、木材の自給率は4割近くまで上がってきていますが、それを主に演出しているのは合板と燃料材です。このように製材品ほどは丸太の品質を問わない利用が台頭したことによって、山で丸太を生産する時に品質を見分け、用途を見定める技術が低下している傾向があります。これから国産材への需要が増し、地域工務店と林業とがwin-winの関係を作りながら木材の利用を進めようという中では、こうした技術が求められることになるはずですから、伐採技術者のレベルアップが必要だと思っています。

もう1つ指摘しなければいけないのは、経営感覚が乏しいということです。今この時点(5月初旬)でも、どれだけの林業関係者がこのウッドショックについてビビッドに感じているかというと、少数にとどまると思います。
例えば、森林組合の場合なら、株式会社の取締役会に当たる理事会のメンバーである理事は、山は所有していても自分では林業を経営していない人たちが多くを占めているケースが多分ほとんどだと思います。

最近、ある森林組合の組合長さんと話した時に、森林組合の経営方針を決める理事会のメンバーのほとんどが林業の素人になってしまっていることが非常に問題で、やはり、林業にある程度前向きに取り組んでいる人たちが理事の中に一定程度は含まれていなければ、実際的な議論にならないと指摘していました。

経営感覚については、公的支援が充実しているためにそれに頼り切ってしまい、ビジネス感覚が退化してしまっていることも指摘しなければなりません。現在、林業の経営に関しては「森林経営計画」を公的に認定してもらい、その計画に沿って経営が行われるケースが多くなっています。計画を認定してもらうことが森林整備に関する補助金を利用する条件になっているためです。

そのため、計画の内容は、いつどんな風に間伐をするかというような森林整備に関することが主体で、どんな木をどういうふうに育てて、どれだけ生産するという内容にはなっていないケースがほとんどです。こうしたことも木材のマーケットに関する山側の経営感覚を鈍くさせている一因だと思われます。

木材の加工や利用に関することでは、現在、国産材は製材品だけでなく、集成材、合板、LVL、CLT等々と、木造建築に利用される材料については、一通りのラインナップがそろっていて、ハウスメーカーなどの大口ユーザーからのまとまった注文に対応できる大型工場もかなり増えてきています。これは国産材の長所だと考えていいと思います。

一方、製材に関することでは、JAS認定工場が少ないこと、規模は小さくても無垢材の利用を進める上では重要な役割を担っている山間地の中小工場が減少していることなどの問題があります。また、品質の安定した集成材をプレカットするという利用形態が一般的になる中で、品質や個性にばらつきがある無垢材をより良く利用する技術が低下しているという問題もあります。

国産材をどう調達するか

国産材をどうやって調達するかについては、工務店や設計事務所の方が産地に赴いて直接仕入れる場合と商社や材木店、プレカット工場といった他者から仕入れる場合との2種類が想定されます。

直接仕入れる場合は、品質面も含めてより確実に希望する材料を仕入れることができるでしょう。ただし、細かな数量調整や決済、リスク管理などのマネジメントを自分でやらなければなりませんから、当然、負担は大きくなります。

一方、他社に任せる場合ですが、国産材は使いたいけど、マネジメントのことを考えるとなかなか難しいという人は多いでしょうから、商社や材木店から仕入れる、プレカット工場に調達を任せるというやり方もありだと思います。それだと負担も小さくて済みます。ただ、今回のウッドショックで明らかになったように、そういった山との関係が薄いと確実性には疑問符がつきます。

そこで調達は他者に任せるけれども、自分がどういう山で生産されたどういう木を使っているかということはしっかりと自分で確認したいということで山や製材所に足を運び、ここは清掃が行き届いているから品質管理は大丈夫だなといったような情報を把握し、生産者との関係性を作った上で、商流マネジメントは他者に任せるというやり方もあると思います。それだと負担は中ぐらいで済んで、確実性もほぼほぼいいかなと。そういった選択肢は出てくるかと思います。

産地や加工の現場に足を運ぶというのは、やはり重要だと思います。無垢材の場合なら、先ほど指摘したように、木の品質や個性を見極めてそれに適した生産、加工、利用をすることが重要ですが、それには技術が必要ですし、手間もかかります。当然、コストもかかり増しになります。

例えば、プレカット工場が、1本1本の木を見て品質に即した向きで使えるように番付に手間をかけるといったことをやれば、無垢材を利用して良質な家づくりが行えるわけですが、プレカット加工賃は通常よりも割高になるかもしれません。そうした事情を知らずに、単に加工賃が高いからと買いたたくようなことをすれば、プレカット工場としても、無垢材はやっぱり面倒だから集成材にしよう、集成材なら外材の方が安いからそっちにしようと、過去と同じ道を歩むことになってしまいます。しかし、プレカット工場に行って、実際にどんなふうに無垢材を利用しているかを知れば、こうした取り回しは必要だからと納得して必要な費用を払おうということになるのではないでしょうか。

その意味では、ユーザーが産地や加工業者と顔の見える関係を築くというのは、木材の品質に応じた適材適所の利用を進めるためにも有効だと思うのです。

山や工場に足を運んで関係を作るということによって、共に一緒に仕事をして、一緒に成長して、この国産材運用への環境を作っていくということがこれから求められると思っています。共に成長するというのは、以前、障がいがある方を何人も雇用している製材工場に取材に行ったことがあるのですが、その社長さんが障がい者に働いてもらうのは、やはり難しいところがあるが、一緒に働くとものすごく仕事をしてくれるということをおっしゃっていました。障がいがある方たちをどう使うかではなくて、一緒に働くという、そういう考え方や態度が必要だということです。そうした姿勢で林業界、国産材業界との関係を作っていくことがこれからの木材利用を持続可能にするのではないかと思います。山との関係を作るというのはそういった所に意を注いで貰いたいと思っています。

JAS規格のあり方

最後に少しJASのことをお話したいんですが、これから国産の木材を使おうという機運が高まってきた時に、やはり客観的な品質規格が機能することが大切だと思います。要するにJAS規格が機能することが必要なんですが、製材に関してはJAS認定工場が非常に少なくて、ごく僅かしか製材品のJAS製品というのは流通していません。じゃあ規格の普及を図ればいいだろうということで、林野庁もさまざまな働きかけをやっているのですが、簡単にいかないですね。

なぜかと言えば、認定の取得や認定を維持するためにはかなりの費用かかり、特に中小の製材工場にとっては大きな負担になります。内容的にも利用の実態にそぐわない部分があって、例えば、乾燥の規定に関しては、天然乾燥材の場合は含水率が「30%以下」という基準しかありません。フローリングの場合は天然乾燥材でも実用的な含水率が設定されているんですが、30%以下ではこれから乾くにしたがって狂いが生じるわけで、実用的とは言えません。割れの規定についても、金物工法の場合は、木材の内部に金物を保持する性能があるかどうかが問われるわけですが、そうした金物工法との親和性を確保できるような内容にはなっていないのではないと思います。

乾燥の規定に関しては、個人的な提案がありまして、人工乾燥か天然乾燥かという区分はやめてしまって、出荷時含水率を測定できる能力があればそれを表示して良いという形にしてはどうかと考えています。そうすれば、乾燥の方法とか乾燥機の性能とかの有効性を細かく審査する必要はなくなりますから、それぞれの工場がさまざまな工夫で木を乾かせばいいということになります。

現実には、例えば温室のような独自の乾燥機をつくったりと、個々の工場がさまざまな手法を取り入れているわけですが、それらの手法の有効性を証明しないとJASが取れないし、費用もかかるということがあって、JASの普及が進まないという事情があるのではないかと考えています。乾燥方法はどんなやり方でもいいから、出荷時含水率を表示すればいいということになれば、その負担はかなり減るのではないかと思います。

このあたり、JASの考え方が仕様規定的だと思っていまして、建築基準は性能さえ担保されれば木をいろいろなところに使えるというように性能規定化されたわけですが、製材JASにもこうした考え方が導入されるといいと思います。JAS規格がこれまでなぜ利用されてこなかったかということを検証しながら、より使いやすい形にしていって、国産の製材品が選ばれやすい商材にすることをこの機会に進めていく必要があるのではないかと思っています。

林業・国産材のこれから

これからの林業や国産材利用に関して必要なこととしては、まず林業関係者のビジネス感覚を養っていく。これはユーザーが山に足を運ぶことによって刺激を受けて養われていく効果もあると思うので、顔の見える関係づくりを進める。あとは、JASの見直しなんかを含めた国産材の利用環境の整備を進める。そして、一緒に仕事をして、共に成長していく。そういった関係作りというのをぜひ林業・国産材関係者と一緒になってやって頂きたいと思います。ウッドショックを機会に国内で林業が営まれている意義というのを改めて噛み締めて頂きたいと思っています。


編集担当:プロジェクトデザイン研究室

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