2. レバレッジファンドのふしぎ

(ポイント)
投資信託の一種に日経平均株価やナスダック指数の2倍3倍のリターンを目指すことをうたったレバレッジ型という種類のファンドがあります。相場の方向をちゃんと予想できると儲けも大きいので一山当てたい投資家の間で根強い人気を保っています。その一方で、レバレッジ型のファンドは「減価する」ためマニアの間ではとても嫌う人もいます。本ノートではレバレッジファンドの減価とはなんなのかを詳しくみていきながら、レバレッジがパフォーマンスに与える意外な影響を解説してゆきます。このノートは「1.らくらくわかるボラティリティタックスの仕組み」の内容を学習した人を念頭に解説しますので、あらかじめ目を通していただくようお願いします。


2.1.    そもそもレバレッジファンドとは

世の中にはさまざまな種類の投資信託があります。運用対象で分類すれば債券ファンド、株式ファンド、REITなど。投資の地域で分類すれば日本ファンド、先進国ファンド、新興国ファンドなど。投資手法で分類すればアクティブファンド、パッシブファンド、クオンツファンドなど。あげ続けるといくらでもあります。

レバレッジファンドは事前に決めたルールに従って投資家の資金を運用するので、パッシブファンドの一種と分類できるでしょう。よくあるのは特定の株価指数を対象として、指数の日々の値動きの一定倍の運用成績を実現することを目指すファンドです。対象の2倍を目指すとブル、マイナス1倍を目指すとベアと呼ばれるので、ブルベアファンドというファンド名がつけられることもよくあります。連動の対象としては日経平均やS&P500、ナスダック指数などの株価指数が最も人気がありますが、金や原油などの商品、あるいは個別株や暗号資産の値動きを対象としたレバレッジファンドも米国では人気を集めています。


2.2.    実例でみるレバレッジファンドの減価

では実際の例でレバレッジファンドの値動きを見てみましょう。日本の投資家にも人気のある米国Nasdaq指数を参照指数とするETFで検討します。基準とするETFとして米国の大手ハイテク株の値動きを表すNasdaq100指数への(レバレッジ1倍での)連動を目指すInvesco QQQ Trust Series I(以下「QQQ」といいます)の価格データを使用します。比較対象のETFとしてはNasdaq100指数の3倍の値動きを目指すレバレッジETFのProShares UltraPro QQQ(以下「TQQQ」といいます)を使います。今回はレバレッジファンドによる減価の様子を見たいので、影響がはっきりと表れていた2022年3月2日から2023年7月31日の369営業日の日々の変動を計算対象としました。

この1年と約5か月の間に、Nasdaq100指数との連動を目指すインデックスファンドのQQQは約11%上昇しました。対してNasdaq100指数の日々の値動きの3倍の騰落率を目指すTQQQは14.3%下落しました。

図11:Nasdaq指数ETF (QQQ)とNasdaq100指数3倍レバレッジETF (TQQQ)

素直に考えればTQQQの値動きはQQQの3倍の33%の上昇になりそうなものですがそうはなりませんでした。不思議ですね。ファンドが称している3倍に値動きが連動していないのでしょうか。TQQQとQQQの日々の変動率の関係を見て見ましょう。

図12:TQQQとQQQの日次価格変動率の関係

ほぼ一直線になっていますね。日々の価格変動率ではTQQQはQQQの3倍の値動きをしっかり守っていたようです。運用会社は決められたルールにのっとりこの期間もきちんと運用していたといえるでしょう。

TQQQの毎日の変動率はきちんとQQQの3倍で動いていたにもかかわらず、2022年3月から約1年5か月を通してみるとTQQQの変動率はQQQの変動率の3倍になるどころか大幅に下回っていました。これがレバレッジファンドの減価です。なぜこんなことになるのか、次の項で原因を見て行きましょう。

2.3.    減価が発生する仕組み

一般的な表現をするとレバレッジファンドの減価とは

参照指数の変動から予想される騰落率をレバレッジファンドの騰落率が下回ること

と言えましょう。念のため式にすると

レバレッジファンドの減価
=参照指数の変動率×レバレッジ倍率-レバレジファンドの変動率

となります。この式でいう変動率をNAVの変動率と考えれば、「1.楽々わかるボラティリティタックスの仕組み」で使った式で分析を進めることができます。その中で勉強しましたがNAVの水準を決めるのは平均対数収益率ですので、投資比率$${f}$$の時の平均対数収益率を計算する式(17)を参照しましょう。

$${r_{fln}\approx fr-\frac{1}{2}f^2\sigma^2}$$        式(17)再掲

思い出しましょう。$${r_{fln}}$$は平均対数収益率、$${r}$$は普通の収益率の平均で、$${\sigma^2}$$は分散でした。平均対数収益率は収益率の平均からボラティリティタックス(分散の2分の1)を引いた水準になるという意味の式です。この式を使ってレバレッジファンドの減価を計算してみます。レバレッジの倍率を$${l}$$と置けば、レバレッジファンドの減価は、レバレッジファンドが参照する指数の平均対数収益率(レバレッジ1倍のときの参照指数の平均対数収益率)の$${l}$$倍と、レバレッジ$${l}$$倍のファンドの平均対数収益率との差になります。式で書くと

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