キャリア支援部会より:事業継承に関するインタビュー

インタビューさせていただいた高木先生、大塚先生

キャリア支援事業では、専攻医の皆様方の様々なキャリア選択の参考となるよう、すでにそのキャリアを先行する先輩ドクターたちとつながりを持つ企画を進めています。


今回はその一環として、クリニックを継承された先生方に注目し、インタビューしてみました!以前専攻医メーリングリストで募集させていただき、皆様からご回答いただいた疑問点や質問にも答えていただきました。

今回お話を伺ったのは

高木 博先生 :みぞのくちファミリークリニック院長

大塚 貴博先生:大塚医院ファミリークリニック院長

の各先生です!

なお、両先生は今週末から開催の第13回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会で、継承問題に関するインタレストグループを企画されています。学会に参加される先生はぜひこちらもチェックしてみてください!6月上旬からの配信予定です。

・収録配信 インタレストグループJ

【継承にまつわるエトセトラ~家庭医・総合診療医として家業を継承する】


それでは本編をどうぞ~ 

テーマ①:継承までの悩みやスケジュールなど

Q1.先生方のプロフィールを簡単に教えてください。(卒業大学、初期研修、後期研修、その後の職歴、誰から事業継承したか、など)

高木先生:2005年に埼玉医科大学を卒業し、藤枝市立病院で初期研修を終えました。その後筑波大学総合診療科プログラムで後期研修し、そのままスタッフとして筑波大総合診療科に残り、つくばメディカルセンターなどで勤務しました。2016年から川崎セツルメント診療所所長となり、2018年に同診療所を退職して父のクリニックを開設12年目で継承しました。

 

大塚先生:2008年に東邦大学を卒業し、地元埼玉の深谷赤十字病院で初期研修しました。卒後3年目で北海道家庭医療学センターの後期研修プログラムを開始し更別村診療所に勤務しました。しかし後期研修が始まってすぐ、父の体調面の問題などがあって実家から近くにもどってほしいと言われました。そして卒後4年目で筑波大総合診療科へプログラム移籍しました。そのまま筑波大学のプログラムを修了し、スタッフになってすぐの頃、父が病気のため診療継続出来ない状況になってしまい、急遽実家を継承しないといけなくなりました。そんな経緯で2015年に実家の医院を継承しました。もともと開業していた土地から移転し透析や特養との連携メインの診療に移行した矢先だったので、事業が落ち着いたところで旧医院は他法人へ売却し、2021年に自身のクリニックを開業しました。

 

Q2.具体的にいつ頃(卒後何年頃)継承を決め、どのようなタイムスケジュールで引き継ぎなどを行っていきましたか?

高木先生:私は2005年に大学卒業しましたが、父が開業したのが2006年でした。もともと長く開業医として診療していたわけではなかったし、当初は継承をあまり考えていませんでした。専攻医時代に診療所研修をして、そこから家庭医療をしたいと思いました。特に都心部で家庭医をできないかと考えていたこともあり、継承を意識しだしました。そこから大体10年目くらいで継承しようと思って、それまでいろいろ準備をしようと考えました。そのためにつくばでの研修、スタッフとして残ることを決めました。その後12年目くらいのときに父に継承したいことを相談したら「向いてないんじゃない?」と言われましたけど(笑)
同じ頃ちょうどつくばの先輩が地元の実家に帰って開業することになったので、その先生が診療をしていた川崎セツルメント診療所の所長を引き継ぐことにしました。川崎がちょうど地元だったので、そこの運営をしながら、診療体制などの構想を練っていった感じですね。

大塚先生:私の場合は、実家の医院が、私で5代目の継承者になります。なので小さい頃から「医者になれ」と言われて育つ環境でした。学生の頃から継承は考えていましたね。その頃から総合診療の存在は知っていました。ただいつ頃継承するとかは考えていなかったです。ところが、卒後3年目に地元に戻ってきてくれと言われたあたりで雲行きがあやしくなってきて。結果的に卒後11年目に父の体調問題で継承せざるをえなくなるのですが…。卒後5年目くらいのころから手伝いはしていましたが、卒後6~7年目のころは、あと4-5年はつくばでいろいろ勉強したいと思っていたし、引き継ぎも直接父からはあまりできなかったですね。

Q3.継承にあたっては周囲の期待や暗黙のプレッシャーなどはなかったですか?また、それに対して反抗心を覚えることはなかったですか?

大塚先生:先程お話ししたようにずっと期待は感じていました。長男ですしね。高校生のころは医者以外の選択肢も考えたことがあったけど、おのずと進路は絞られていました。無意識のうちに医者になると思っていた感じですね。 

高木先生:プレッシャーは全然なかった。大人になる=医師になるという人は多いが、自分自身はなかったです。そもそも継がなくていいと言われていたし。父親はテナントを借りて60歳から開業して一人で終わるつもりだったようで、引き継ぐ時には診療規模も縮小していました。継承の期待はあまりされていなかったと思います。

Q4. 準備期間(引き継ぎ期間)にはどのような働き方をしていましたか?その時の思いも教えてください。

高木先生:継承時期を10年目と考えると専攻医終わってからあと5、6年かなと思って、その間でしか出来ないことをしようと思っていました。たとえば、大学院への入学とか。あと都心部でやるには武器が一つあったほうが良いと思って、在宅医療の勉強もしたし、家庭医療系の勉強ばかりになるので救急病院の総診に2年位いったりもしました。その後、どこかで一度クリニックを1~2年やろうと思い川崎セツルメント診療所の雇われ所長をやることにしました。自分の場合は親や子供の年齢を考えてシミュレーションをしてだいたい構想していた通り継承できたかな。大塚先生とは対照的だと思う。

大塚先生:羨ましいです。スタッフになって1年で筑波を離れることになりました。後期研修の後にアカデミックな指導やFD(Faculty Development)をうけたり大学院に通う余裕はなかったです。最後の1年はもう迫られて継承準備をしていた感じで、能動的に計画するという感じではなくて結構苦しかった。

Q5.開業するに当たってどのようなビジョン(他のクリニックとの差別化、自分自身の大事にしたいもの)を持っていましたか。

大塚先生:去年自分のクリニックを立ち上げたんですが、クリニックのビジョンというか、理念的な部分は、その際かなり考えました。初めは受け身の状態で実家を継承して経営的にも苦しくて、立て直しという形でやっていました。一段落して、じぶんのやりたいことを前向きにできると思い、色々考えたんです。総合診療を軸にしていきたい、在宅、地域との繋がりを大事にしたい、とか。理念を考えた時、感じたことは、ひいお爺さんの頃からずっとかかっている患者さんたちのことです。こちらは全然知らないのに、無条件にウェルカムで感謝してくれる。この人たちが住む地域を支えていかないといけない、本気で守っていかないといけない。戻るまでそんな経験はなかったですから。そうして「地域に暮らす総ての人の安心と生活を支える」という理念を掲げました。

高木先生:自分のクリニックは都心部なので他との差別化は大事ですね。重視しているのは「地域見る、丸ごと見る、なんでも診る」ということ。診療圏は診療所から徒歩5分以内くらいの範囲と考えて、その人達に関わる。人数にして1万人弱、子育て世代が多いですね。圏内のことなら全部やります。学校医、保育園も。新しい園医にすぐに手をあげたり。逆にちょっと離れた地域の人とかだと、その地域でかかりつけを持ってもらうのが理想かな。

Q6.継承までに勉強しておくとよいことや、習得しておくとよいスキルはありますか?特に総合診療・家庭医療の研修以外にすべきことがあれば知りたいです。

高木先生:私はCFMDのリーダーシップトレーニングフェローシップで勉強しました。ほかですと、HANDSもよいかと思います。運営やリーダーシップの勉強はやった方がいいと思います。ノンテクニカルな部分といいますか…。ただ、専攻医の時はお金のことなど、あまり目を向けなくても良いんじゃないかな。少し余裕が出て手が空いてきてからで良いと思います。

大塚先生:つくばでノンテクニカル研修が始まったところでした。リーダーシップやコミュニケーションスキルなどです。経営者になってからとても役立ちましたね。チームビルディング、組織のリーダーとしての立ち振る舞いなど、診療とは違う頭を使うところです。あとは労務、財務の部分について。基本的なこと、例えば、会計士さんとは会話ができるレベルくらいにはなっておくと良いと思います。専攻医の時は、教育やセミナーの企画運営の機会がある時がマネジメントを学べるいい機会です。そういう時に勉強すれば良いと思います。まずは専門医取得を目指して勉強することが一番。プラスアルファ程度に経験できれば良いでしょう。

テーマ②:実際の業務に関すること

Q1.具体的な1日の過ごし方を教えてください。

高木先生:7時半にクリニックに到着し、掃除、備品チェックを済ませます。9時前にスタッフが来るのでそこから朝礼。9時から12時まで外来診療、終われば12時半まで掃除、終礼、昼食です。昼食後は自由時間で保育園の巡回や学会発表のスライド作成などをしています。14時半〜18時まで午後の診療で、スタッフは18時半には帰ります。カルテ記入などして20時頃に帰宅。家に仕事を持ち帰らず、3人の子どもと賑やかに過ごしています。掃除は好きなわけではないです笑。ただ、自分のクリニックなので愛着を持って掃除してます。家族も手伝ってくれるし、小学生の手伝いたい盛りもいますしね。

大塚先生:子供ができてから朝型生活になりました。5時〜5時半ころ起床し、1時間ほど自分の仕事の時間。8時すぎに診療所に到着し朝礼をします。9時から12時まで外来診療です。昼は14時〜16時まで訪問診療を1〜3件くらい行きます。16時半〜18時半まで午後診療で、終わればスタッフとその日の振り返りをします。帰宅は早めにして、子供と過ごします。まあでも、自分の時間はとれないです笑。

Q2.継承してみて感じる苦悩や継承前に予想しなかったことはありますか?

高木先生:言い出すとキリがないですね笑。スタッフがやめたり病気になったり、まさかと思うことが起きます。でも、大体のことは先人たちから、こういうことがあるぞって言われていたことでした。色々事件はありましたが、雇っている側で、人の人生がかかっているので悩ましいことも多いです。

大塚先生:同じですね。予想はしてたけど、っていうことは起こりました。自分が最終的な責任を取らないといけないので苦しい、と思うことはよくあるかな。スタッフマネジメント・人事に関する問題は大きいですね。伝えないといけないことをどう伝えるか、とか週末ずっと考えていたりします。

Q3.経営の面白さについて教えてください。ぶっちゃけどれくらい稼げますか?

高木先生:収入面では、私の場合は勤務医と比べるとだいぶ増えています。ミニマムにやっていて、事業広げてないのでお金使うところがない。借金を考えれば別ですけど。もっと稼ごうと思わず、たまたまそうなっているだけって感じです。都心部で家庭医療なので患者さんが来るか心配していたが、ちゃんとやれるという自信にはなったかな。継承なので元々の土台もあるとは思います。ゲームと違って失敗できないので、経営自体は面白くはない。とにかく無事に行ってくれたらいいと思ってます。

大塚先生:自分は逆に、経営は結構面白いと思っています。ようは収入を増やして、支出を減らせばいい。実家を継いだ時、まずは支出を抑えることだと気づきました。本当に必要か吟味して、無駄な採用薬をカットしたり、細々したコスト削減に取り組んだりすると支出が減っておのずと利益が出てきました。診療報酬改定には敏感になります。最近だと6点の外来感染症対策向上加算をとるのか?などを考えるのが楽しい。

Q4.逆に大変なことはなんですか?人材確保って大変なんでしょうか?

高木先生:小さいクリニックなので人間関係が大変。やっぱり人間同士なのであらぬ化学反応が起こったりします。自分のコミュニケーション不足かなと反省します。人材確保は大変。都心部は人材がいると思われるが、コロナの影響もあるのか専門職を集めるのは難しい時代です。

大塚先生:人事、労務のことが一番大変。人件費が支出で一番ウエイトが大きく30~50%くらいを占めていると思います。医療職は賃金が高いし、リクルート代も結構かかって馬鹿にならないですよ。

Q5.機材や電カルなど、ハード面ではどのような準備をしましたか?開業資金も結構必要なんでしょうか?

高木先生:継承開業だがある程度新しいものは買いました。正直継承コンサルタントさんがいて、その人に言われるがまま色々と揃えました。資金面は銀行から融資もあるので自己資金はあまり要らないと思います。他の地域の家庭医の先輩医師、地元の先生、の二つの軸から情報収集してましたね。

大塚先生:開業医は融資のハードルが低いと思います。継承開業だと土地などがあるのも大きいね、新規の開業に比べると準備資金は少ないのではないでしょうか。ハード面はネットなどで情報収集して、そこは新規開業と同じかな。

テーマ③:継承されない開業医について

Q1.先生方のクリニックが、仮に継承されなかったとしたら、どうなっていたんでしょうか?(閉院?M &A?)後継ぎがいないクリニックを誰かが継ぐ仕組みなどがあると聞いたことがある気がするのですが...

大塚先生:継承する案件は増えています。親子間継承が多いですが、第三者継承も増えています。日本医師会が資料を出しているので興味があれば探してみては(編集追記:日本医師会の資料をご提示いただきました。https://www.jmari.med.or.jp/wp-content/uploads/2021/10/WP440.pdf)。見ず知らずの人に経営権を譲るので、第三者継承は一筋縄ではいかないです。建物・土地・そこで得られる収益などで億単位のお金が動きます。裏ビジネスのようなものもあるし。例えば、自分の場合だと旧医院の事業を整理しようとしたときに、どこに譲るのか、情報がなかったので、母を通してノウハウのある税理士を頼った。そうしたつてを頼って、しっかり引き継いでくれそうなところに渡しました。お金と信用が動くデリケートで怖い世界です。日本医師会も引き継ぎの問題は大きな問題と捉え、模索しています。医師会が公的機関としてマッチングする仕組みを作ろうとしている動きもあるようです。

Q2.自分の子供に対して、継承してくれることを期待していますか?接し方で気をつけていることがあれば教えてください。

大塚先生:妻とは、ネタで子供には医者にさせないと言ってます。もし子供が継ぐなら6代目になるし、プレッシャーは感じるでしょう。じぶんと同じ思いはさせたくないです。過疎化する地域なので、もし息子が医師になって適齢期になっても果たしてこの地域でやっていけるのかわからないという心配もありますね。結局はその時になってみないとわからない。人が住んでいなければ商売にならないですから。

高木先生:テナントだから継承しなくても大丈夫だよという感じ。じぶんもどっちでもいいよと言われていたし。小学生になって医者になりたいと言い出して、嬉しいような嬉しくないような複雑な心境です。なったら期待しちゃうし、ならなかったら残念だけど、その方が良かったかなというようにも思うし、親としての葛藤です。答えはないけど、継ぎなさいとは言わない。医者になるならもっと勉強しなきゃとふざけて言う程度かな。

最後に専攻医へ向けてメッセージをお願いします!

高木先生:ゆるやかなグループづくりは自分としてもやりたかったこと。これからも若手医師と繋がっていきたい。学会のオンデマンド企画もぜひ感想ください!

大塚先生:医療界にかぎらず、他業種でも事業継承の悩みなどは共通するものがあります。そしてその分野の研究も行われている。いろいろな問題も言語化してシェアすることが大事だと思います。

 高木先生、大塚先生、ご協力ありがとうございました!!

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